負けてなお心に残るペルーの戦いぶり 決勝進出ならずも、開催国相手に健闘光る

中田徹

力を出し切ったペルー

健闘が光ったものの、開催国チリに敗れ、肩を落とすペルーの選手たち 【写真:ロイター/アフロ】

 コパ・アメリカ準決勝の前の晩、チリ人の友人がビールを片手にこう本音を話していた。

「明日(現地時間6月29日)の試合、僕はペルーが勝つと思っているんだ。選手一人ひとりを比べたら、チリの方がずっと上だと思う。しかし、ペルーは本当にチームが一つになって戦っている。一方、チリは1年前のワールドカップ(W杯)がピークだった」

 結果は2−1でチリが勝ち、実に28年ぶりにコパ・アメリカの決勝戦に進出した。エドゥアルド・バルガスのスーパーゴールが決勝点になった。勝利の喜びにチリ国内は深夜まで人が外に出て騒いでいる。だが、ペルーの健闘は立派だった。試合後のリカルド・ガレカ監督は「力を出し切った」と語った。確かに「力を出し切る」とは、この日のペルーのようなサッカーを指すのだろう。

 20分にセンターバックのカルロス・サンブラノがチャールズ・アランギスの背中をキックして退場。10人になってからペルーのカウンターが脅威になったという見方もある。しかし、この退場によって「今大会の発見」という声もあがっていたクリスティアン・クエバをベンチに下げることになったのだから、やはり残念な退場劇だった。サンブラノは更衣室でチームメートに謝り、その上でペルー国民に向かってソーシャルネットワークを使って謝罪とチームメートを称えるメッセージを送った。

活躍が光った小柄なテクニシャン

クエバ(赤)はブラジル戦でも先制ゴールを挙げるなど、大会を通じて活躍を披露した 【写真:ロイター/アフロ】

 クエバは2011年、キリンカップの日本代表戦(0−0)でペルー代表にデビューしたが、ラージョ・バジェカーノでのスペイン挑戦に失敗し、最近はそれほど注目されてない選手だったという。しかし、今回のコパ・アメリカではペルー人も驚くパフォーマンスを発揮。初戦のブラジル戦(1−2)では、相手GKジェフェルソンのミスを突いてチームに先制ゴールをもたらした。2戦目のベネズエラ戦(1−0)では中央からの粘り強いドリブルで相手の守備を切り裂き、クラウディオ・ピサロの決勝ゴールをお膳立てした。また、準々決勝のボリビア戦はパオロ・ゲレーロがハットトリックを決めた試合として記憶に残りそうだが、クエバのチャンスメークの数も非常に多かった。小柄でテクニック、スピード、戦術眼があって、サイドハーフもセンターハーフもそつなくこなすタイプということもあって、見ていてとても楽しい選手だった。

 だが、ペルーには前回のコパ・アメリカでも活躍した右サイドバックのルイス・アドビンクラがいた。そのスピードはウサイン・ボルトというニックネームからも分かる通り。観客席から見ると大柄な選手に見えるが、実際の身長は178センチ。彼の攻め上がりは非常にダイナミックで迫力がある。とりわけベネズエラ戦では前半のうちに相手チームの左サイドバックが退場し、そこをうまく修正してこなかったこともあって、怒涛のオーバーラップを繰り返していた。今回のチリ戦で10人になったペルーだが、アドビンクラの上下運動は数的不利のハンデを補い、かつ武器になった。ペルーが1−1に追いつくことになった60分のガリー・メデルのオウンゴールは、アドビンクラのクロスが招いたものだった。

ペルーを熟知するアルゼンチン人監督

 かつてはW杯の常連だったペルーだが、1982年スペイン大会を最後に世界の檜舞台から遠ざかっている。3カ月前に代表監督に就任したアルゼンチン人のガレカには「コパ・アメリカでチームを向上させて、W杯の南米予選を突破する」というタスクが与えられたのだが、前者はすでに達成した。

 ガレカと言えばベレスを5シーズンで4回優勝に導いた監督として知られているが、ペルーのウニベルシタリオ・デポルテスを率いたこともあり、当地のサッカー事情に詳しく、就任時からペルーにはテクニックに優れた選手が多くいることを高く評価していた。今のペルーはピサロ、ゲレーロ、フアン・マヌエル・バルガスのような信頼の置けるベテランと、クエバ、アドビンクラ、アスクエス、ホセプミル・バロンのような若手・中堅のブレンドが非常にいい。

“エル・クラシコ・デル・パシフィコ”と呼ばれるライバルの対決は、チリが勝った。しかし、アンデスの赤襷(あかだすき)ペルーも負けてなお心に残る素晴らしいチームだった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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