初の南米制覇を狙うチリの“最強世代” グループ首位通過で得られる開催国の特権

中田徹

サ・サ時代よりも強い?

チリ史上最強と称される現在の代表チーム。悲願のコパ・アメリカ初制覇を視野にとらえる 【写真:ロイター/アフロ】

 サッカーの南米王者を決める第44回目のコパ・アメリカが6月11日、チリの首都サンティアゴで開幕した。過去99年の長い歴史を誇る大会において、まだ優勝経験がないのは10カ国中、3カ国だけ。そのうちの一つがチリである。しかし、チリ人は今、時が熟したと感じている。ユベントスの一員としてチャンピオンズリーグの決勝を戦い終えたばかりのアルトゥロ・ビダルは、「チリサッカー史全体において、今が最高のジェネレーション」と胸を張る。

 僕が泊まるアパートの主人ホルへは、ビダルの発言に対し「私はそうは思わない。やっぱりマルセロ・サラス、イバン・サモラーノ(いわゆる“サ・サ”コンビ)がいた時代の方が、最高のジェネレーションだったと思う。だけど、今のチリは監督が素晴らしく、サラス、サモラーノの時代と比べてチームとして機能している。マルセロ・ビエルサが作ったチームを(クラウディオ・ボルギを挟んで)ホルヘ・サンパオリがしっかり仕上げた」と言う。ホルヘの結論も、結局はサ・サの時代よりも、今のチリ代表の方が強いということだ。

 サラス自身は、ビダルの発言を「今のチリ代表は質の高い選手がそろった、史上最強のチームだ。多くの選手が外国でレギュラーとしてプレーし、タイトルを獲っている。ワールドカップ(W杯)、コパ・アメリカの経験も豊富だ」と肯定している。

今回のコパ・アメリカに燃える理由

現在のチームはサンチェス(赤)ら多くの選手が海外で活躍している 【写真:ロイター/アフロ】

 前回、チリがコパ・アメリカを開催したのは1991年のこと。チリの地元紙は「24年前のチリ代表は、外国でプレーしている選手が4人だけ。しかし、今大会のチリは国内でプレーする選手が4人しかいない」と記す。

 ちなみに国内組4人のうち2人は控えのGKだ。クラウディオ・ブラボ(バルセロナ)、アレクシス・サンチェス(アーセナル)、エウジェニオ・メナ(クルゼイロ)、ガリー・メデル(インテル)、ホルヘ・バルディビア(パルメイラス)、マティアス・フェルナンデス、ダビド・ピサロ(共にフィオレンティーナ)、ビダルらチリの選手たちは欧州、南米に広く散らばって活躍している。その強い“個”が3バックと4バック、ハイプレッシングからのショートカウンター、手数をかけない縦に速い攻め、ポゼッションサッカーを巧みに使い分けているのだ。

 しかも彼らには走力と情熱がある。2014年W杯では決勝トーナメント1回戦で開催国のブラジルに敗れたが、その明暗を分けたのはPK戦。チリにも勝機は十分あった。

 このような背景があるから、チリは今回のコパ・アメリカに燃えている。サンティアゴの街は昼から応援グッズの屋台が並び始め、レストランの店員も赤いレプリカユニホームを着て夜に備えていた。

もしグループ首位通過を果たしたら

開幕戦はビダル(赤)のゴールなどで勝利。グループ首位通過を果たせば、決勝までサンティアゴで戦うことができる 【写真:ロイター/アフロ】

 こうして迎えたナショナルスタジアムの開幕ゲーム、チリはエクアドルと戦った。立ち上がりからMFバルディビアのチャンスメークがさえ、好パスを連発する。エースストライカーのサンチェスが2分、4分、15分にシュートを放つなど、チリの試合の入り方は悪くない。しかし、試合がこう着状態に入ったことからプレッシャーが生まれたのか、エクアドルのカウンターを嫌がって安全策を選ぶシーンが増えていく。後半はエクアドルの前線のジェフェルソン・モンテーロ、エネル・バレンシアのスピードとパワーに手を焼いた。

 嫌な雰囲気が生まれ始めていたナショナルスタジアムだったが、67分、ビダルがPKを決めてチリが待望の先制ゴールを奪った。82分にバレンシアのヘディングシュートがバーに当たる幸運もあってピンチを凌ぐと、その2分後にサンチェスのスルーパスから途中出場のエドゥアルド・バルガスが2−0として勝負を決めた。

 チリ本来の実力からすると物足りない内容ではあったが、それでも開幕戦でしっかり勝ち点3を奪ったのは非常に価値がある。次の対戦相手は招待国のメキシコだが、彼らはゴールドカップを戦わないといけないため、Bチームをコパ・アメリカに派遣している。グループリーグ最終戦は、チリと比べると実力で見劣りするボリビアだ。エクアドルを破ったことで、チリはグループAを首位突破する可能性が高くなった。もし、この皮算用通りに進んだら、チリは決勝戦までの6試合全てをサンティアゴのナショナルスタジアムで戦うことになる。これほど恵まれた開催国特権はないだろう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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