岡崎が日本人選手にマインツをオススメ 今季のホーム最終戦を勝利で終えて

中田徹

今季最後のマインツのホームゲーム

周囲に野原が広がっているマインツのホームスタジアムであるコファス・アレーナ 【写真:フォトレイド/アフロ】

 2011年に完成したマインツのコファス・アレーナは、3万4000人収容のモダンなスタジアムだ。メーンスタンド側の裏手には、ものすごく大きな野原が広がっている。風を遮るものはない。バスで街から運ばれてきたサポーターたちは、この野原の脇を行進するように歩きながらスタジアムへと吸い込まれていく。

 そこにはマインツ独特の温かみがある。日本人であることが分かると、サポーターたちははしゃぐでもなく、礼儀正しく「一緒に写真を撮ろうぜ」と声をかけてきたりする。そして岡崎慎司への感謝を口にするのだ。

 5月16日のケルン戦(2−0)は、マインツにとって今季最後のホームゲームとなった。目に付いたのは“19”のレプリカシャツをまとったサポーターたち。グループで“19”のユニホームを着る集団もいた。彼らは膝に重傷を負ったコロンビア人選手のエルキン・ソトを励まそうとするサポーターたち。キックオフの笛が鳴って19分が経つと、マインツのサポーターは一斉にソトの名前を叫んでチャントを歌っていた。

 88分には、この試合がマインツでの最後のホームゲームとなるニコルチェ・ノベスキの交代が告げられた。11年間でブンデスリーガ出場350試合を超すマケドニア人のキャプテンは、涙を流しながらスタンディングオベーションを受けていた。

 岡崎が加入したことで通い始めたコファス・アレーナだったが、ファンの熱と温かみと、そして早くも生まれた伝統のようなものを感じていた。その皮膚感覚は決して間違っていなかったと、ケルン戦で確信した。

岡崎が今季持っていた2つのパターン

オフ・ザ・ボールの動きが素晴らしかった岡崎。この試合でアシストも記録した 【写真:フォトレイド/アフロ】

 マインツが2−0で勝利したこの試合、岡崎のオフ・ザ・ボールの動きが素晴らしかった。中盤まで下がってセンターバックからパスを引き出すと、簡単に味方に預けてから、DFの裏へ走り抜けてMFヨハネス・ガイスのスルーパスを引き出したり、左右へ流れて攻撃の起点を作ったりとメリハリが効いていた。相手ペナルティーエリアの辺りでは、中からファーサイドへ消えるように走って、味方のクロスに反応し、25分、50分と惜しいシーンを作った。そして、47分には左サイドからのクロスを、ペナルティーエリアの中で岡崎がヘッドで落とし、ク・ジャチョルの先制ゴールをアシストした。岡崎は、この日の自身のパフォーマンスに納得いったように「やっぱりこの形がいいですね」と語った。

 岡崎によると、今季は前線で残りながら、試合にはあまり絡まないけれど自身がゴールを奪う形と、中盤まで下がってボールを受けて、チームと自分のリズムを作ってアシストなどで貢献する2つのパターンがあったという。ここ2試合は、ゴールを奪うために前線で張ってプレーしていたが、ケルン戦では中盤へ下がったり、サイドへ流れたり、裏抜けを図ったり、相手を背負ってみたりと動きに変化をつけ、相手が疲れた終盤にはギアを上げて相手DFのパスカットを狙った。

 チャレンジするから課題も出てくる。この日は、ユヌス・マリとの連携が今ひとつ。岡崎の動きにマリが反応しなかった。

「自分がポストプレーもして、裏にも抜けて、足元でも受けてと(仕事の)量が多いので、どうしても役割が大きいというか、なかなかゴールに近づけないというのはあります。それでも、流動的にお互いできたときは、ユヌスが抜けて自分がシュートに行ったりとか、自分がパス出したりとかできていたので、個人的には今日みたいなサッカーが一番好き。こういう試合でゴールを決めた時の喜びは大きいと思う。去年は我慢することで点を取ったと思うんですけれど、それは今シーズンで卒業かなという感じがしますね」

 この日、岡崎が自身に付けた評価は及第点。

「こっちでは及第点では認められないというのは分かった。ここからは、どうゴールを取るか。これができないと。この先、自分は我慢していくプレーヤーではないなと思いますね」(岡崎)

マインツを去る者もいれば来る者もいる

岡崎(左)の笑顔からも、マインツで充実したシーズンを送ることができた事がうかがえる 【写真:フォトレイド/アフロ】

 そして試合後にはノベスキの、感動の退団セレモニーがあった。

「一つのチームに長く在籍することはできないと思うので、ああいう選手に自分はなれないかな。限られた選手にしかできないので、ああいう終わり方ができるのはうらやましいです。(古巣の清水)エスパルスで言えば輝さん(伊東輝悦)とか、登さん(澤登正朗)とか。長いことやっている選手の影響力はチーム、選手にとっても大きいし、サポーターの希望にもなってくる」(岡崎)

 もしかすると、岡崎もこの試合がコファス・アレーナでの最後になるかもしれない。彼には、ボルシア・メンヘングラードバッハなどの名前が移籍先の候補としてあがっている。

 「良いチームだし、どうなんですかね。その辺は皆さんの憶測に任せます。今までこういう、自分から選択できる立場になったことがなかった。マインツに残ることだってできるし。ただ、(移籍先の選択が生まれた環境は)2シーズンで結果を出すことによって得たもので、それはマインツでなかったらできなかったこと。まだ1試合残っているので最後まで頑張って、そこで自分の気持ちで決められたらいいと思います」(岡崎)

 岡崎などのようにマインツから去るかもしれない選手もいれば、武藤嘉紀(FC東京)のように来るかもしれない選手もいる。ケルン戦のク・ジャチョルのゴールは、日本人と韓国人2人が絡んで生まれたものだった。東アジアの選手に、マインツというチームはオススメだろうか?

「マインツのサポーター一つとっても、勝っても負けても『次だ、次だ』って言ってくれる。(そんなチームはなかなかないから)ブンデスを見てもこのチームは特別だと感じる。フロントもすごく優しいです。もちろん、俺らがいるということで理解もしてくれると思う。話し合ってくれると思うし、(良い意味での)先入観もあると思う。普通にオススメできると思います」(岡崎)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント