オランダを制したPSVの変わらぬ魅力 2年がかりで奪い取ったリーグ王者の栄冠

中田徹

3試合を残して7季ぶりの優勝

7シーズンぶり22回目の優勝を果たしたPSV 【Getty Images】

 PSVが7シーズンぶり22回目の優勝を果たしたのは、オランダリーグ第31節のこと。勝てば優勝という大一番で、22.6歳という若いイレブンは緊張の色を全く見せず、4−1でヘーレンフェーンをあっさりと葬った。今季のPSVは、中盤で手数をかけず縦に早い攻撃を仕掛けるチームだ。ヘーレンフェーン戦は楽勝だったが、逆転勝ちが5回もある勝負強いチームでもあった。ヘーレンフェーン戦のカウンターとセットプレーから奪った4ゴールには、そんな今季の彼らのエッセンスが詰まっていた。

 今回の優勝のヒーローは誰だろう。昨年のワールドカップでオランダ代表の3位に貢献し、引く手あまただったメンフィス・デパイとジョルジニオ・ワイナルドゥムは、「PSVを優勝させる」と誓って、オランダリーグにとどまり、結果を残した。ヘーレンフェーン戦で2ゴールをあげたルーク・デ・ヨングは、ボルシアMG(昨季後半はニューカッスルへ期限付き移籍)で成功せず、ステップダウンを決意して今季からPSVに加入し、絶妙のポストプレーをし続けた。しかし、私は28歳のベテランMFアンドレス・グアルダードの名前を推したいな……と思いながら、フィリップス・スタディオン(PSVのホームスタジアム)から自宅へのハイウエーを飛ばしていたら、カーラジオからPSV担当記者の「優勝に一番貢献したのは、フィリップ・コクーを解任しなかったフロント」という声が聞こえてきた。

 優勝から遠ざかっていたことで、プレッシャーにさらされていたPSVは2012−13シーズンのタイトルを“金”で奪いに行き、最強のメンバーをそろえた上、経験豊富なディック・アドフォカートを指揮官に据えたが、それでもタイトルを獲得できなかった。こうしてPSVのプロジェクトが一つ、失敗に終わった。

魅力的だが若く脆かった2年前のPSV

 翌13−14シーズン、PSVは大幅な若返りを図ると同時に、コクーを監督にした。この時、立ち上がったチームが、今回優勝したPSVの基幹となっている。

 今でも思い出すのは、2年前のPSVは若さがみなぎり、はつらつとしたサッカーをしていたことだ。チャンピオンズリーグ(CL)予備戦のミランとの第1レグ(1−1)は、怖いもの知らずの思い切りの良いサッカーでファンのスタンディングオベーションを浴び、オランダリーグの第2節では平均19.9歳(オランダリーグ記録)というメンバーでNECナイメヘンを5−0で下した。

 スピード感に溢れ、奔放なテクニックを惜しげもなく披露する、その大胆なサッカーに「PSVは未来のサッカーだ。今季はPSVを追う!」と私は誓った。しかし、若いチームは脆いもの。ネガティブなスパイラルに陥ると歯止めがかからなくなった。13年の12月、10位だったPSVはフィテッセ相手に2−6と完敗した。あまりのふがいなさにゴール裏のサポーターはブーイングを送ったものの、間近にあいさつに来た選手たちを責めることはできず、デパイらとともに抱き合って泣いた。あのシーンは、今思い出しても美しい。しかし、この時期には私も堕ちていくばかりのPSVを見るのが辛くなり、足がフィリップス・スタディオンから遠ざかっていた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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