ブラインドサッカーを「体感」しよう! 「松原渓のスポーツ百景」

松原渓

【松原渓】

アジア最大のスポーツの祭典に注目!

 9月19日から10月4日にかけて、4年に一度の「アジア最大のスポーツの祭典」アジア競技大会が 仁川(韓国)で行われている。36競技439種目と、オリンピックをしのぐ競技数で、マイナースポーツに注目が集まるのもこの大会の大きな魅力。セパタクローやカバディなど、ルールは知っていても、ハイレベルな試合を見られる機会は滅多にないので注目している。

 特に注目していたのは、私が所属する南葛シューターズの練習にもよく参加してくれる、寺本進選手がプレーするセパタクロー日本代表。「空中の格闘技」とも言われ、高い打点からオーバーヘッドキックの形で振り下ろされるスパイクは、鋭く、美しい。寺本選手は、日本初のプロ選手としてタイでプレーするなど、20年近くも第一線で活躍し続けてきたが、今大会での引退を表明。事実上の「世界一」への最後の挑戦となった。結果は、男子ダブルで銅メダルを獲得。最高の結果で終わることはできなかったが、すべてを出し切ったような表情と涙が印象的だった。現役生活、お疲れ様でした!

フットサルと共通点の多いブラインドサッカー

 10月には、同じく仁川でアジア最大の障害者スポーツの大会、「アジアパラ大会」が行われる。その中で注目したい競技が、「ブラインドサッカー」だ(実施は10月19日〜23日)。

 ブラインドサッカーは、視力に障害を持つ選手によって行われ、パラリンピックの公式種目でもある。4年前に参加させていただいたトークショーで、日本代表キャプテンの落合啓士さんとお知り合いになる機会があり、それをきっかけに注目するようになった。



ブラインドサッカー フィアット カルチョ2013 プロモーションビデオ - YouTube

 プレーヤーの人数は5人で、コートの大きさなど、フットサルと共通点の多い競技だ。一方で独特のルールもある。公式戦は前後半各25分の計50分間。使用するボールには鉛を使った特殊な鈴が入っていて、転がるとシャカシャカという音がする。プレーヤーはこの鈴の音を頼りに両足の内側でボールを操り、ドリブル、パス、シュートをする。

 ピッチにはフィールドプレーヤー4人とGK、監督、プレー中にゴールの真後ろからフィールドプレイヤーに指示を出して方向や距離を伝える「コーラー」と呼ばれる7人が立つことができる。コーラーの指示は、「ゴールまで◯メートル! 角度は△度!」といった具合で、声のコミュニケーションが非常に重要なのだ。

 また、ディフェンスをするプレイヤーは、ボール保持者に対し、「ボイ!」と声を出さなければいけない。「ボイ」はスペイン語で「行くぞ」の意味。ボールを持った選手の位置はボールに入った鈴の音で分かるけれど、ディフェンダーの位置は把握できないため、危険な接触を防ぐための特殊なルールだ。言わずにボールを取りにいくと、「ノースピーク」というファウルになり、PKを与えてしまう。

 フィールドプレーヤーは視力をの差をなくすためにアイマスクをつけてプレーするが、GK、コーチ、コーラーは晴眼者(目が見える人)が務めることができるため、アイマスクをつけない。障害者と健常者が選手として同じピッチでプレーできるのはブラインドサッカーならではだ。

難しさと奥の深さに魅了

見えている時と、こんなに世界が違うなんて……びっくり! 【松原渓】

 ブラインドサッカーは子供たちにチームワークやコミュニケーション、ボランティア精神を教える良いツールにもなる。日本ブラインドサッカー協会が行っている「スポ育」プロジェクトでは、東京都内や近県の小中高校生を対象に、ブラインドサッカーの体験型授業が積極的に行われている。

 私も、ブラインドサッカーの体験会に参加したことがある。日本代表選手のプレーを目の前で見たり、一緒にプレーできる貴重な機会だった。そして、実際にアイマスクをつけてボールを蹴ってみると、予想を凌ぐ難しさと、奥の深さに魅了されてしまった。
 人間は通常、情報の8割を視覚から得ていると言われる。そのため、ブラインドサッカーでは必然的に、五感のうち視覚以外の4つの感覚を高めてプレーすることになる。両足の内側でボールを細かくタッチする練習はサッカーやフットサルでも何度も経験しているけれど、目隠しをすると、すぐにボールが足から離れてしまう。ボールの中心を「感じて」捉えなければいけないからだ。シュートはさらに難しくなるけれど、ボールの芯を捉えた時の気持ち良さは、「見えている」時よりも実感できる。あんな感覚、小学校以来だったなぁ……(うっとり)。

 選手の皆さんはかなりのスピードでプレーしていたし、シュートも強烈。日本代表選手ともなると、テクニックやスピードも晴眼者に劣らない。トラップの精度やシュートの威力、1対1の駆け引きも迫力満点で、「絶対に見えてる!」と思ってしまう。世界選手権のレベルになるとコンタクトもかなり激しくなるので、衝突のケガを防ぐためのヘッドギア(防具)もつけるという。 「イメージ」も鍵になるそうだ。話をうかがった選手の中には、視力があった幼少期に読んだサッカー漫画『キャプテン翼』のイメージを今も大切にしながらプレーしているというエピソードを持つ選手もいた。

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著者プロフィール

サッカー番組のアシスタントMCを経て、現在はBSフジにて『INAC TV』オフィシャルキャスターを務める。2008年より、スポーツライターとしての活動もスタート。日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナのセレクションを受けたことがある。『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生が監督を務める女子芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」にて現在もプレー。父親の影響で、幼少時から登山、クロスカントリー、サイクリングなど、アウトドア体験が豊富。「Yahoo!ニュース個人」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/)でも連載中

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