大自然に魅了された男、木村大作 『春を背負って』監督が山の魅力を語る

岡大

【(C) 2014「春を背負って」製作委員会】

名キャメラマンでもある木村大作監督が山に挑む理由

最新作『春を背負って』でも木村大作監督はロケ地として山岳地帯を選んだ 【スポーツナビDo】

『八甲田山』『火宅の人』『鉄道員(ぽっぽや)』など、数々の名作を撮影してきた名キャメラマン、木村大作。2009年に初監督した『劔岳 点の記』では、日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した。監督最新作となる『春を背負って』は、笹本稜平の同名小説をもとに、山に暮らす人々の暮らしと成長を描いた物語。前作に続いてロケ地は山岳地帯を選んだ。木村大作はなぜ山にこだわるのだろうか。

「山というか、大自然。山って言ったら高尾山も山だからね(笑)。3000mの大自然に行くのは過酷だけど、地球ってすごいなと思えるものに必ず出会える。だから駆り立てられるんだろうね。

 それと、厳しい中に立っている人間は美しいということ。ビーチにいるビキニのお姉ちゃんはきれいの一言で済むんだけど、厳しい自然に立ち向かおうとする人間の姿って美しいんだよ。美しいという言葉の中には、人間の心も含まれているんじゃないかな。

 2000mくらいのところなら車でも行けるけど、厳しさを乗り越えないと撮れないものを撮りにいく。だから、スタッフにも俳優にも本当の場所に行ってもらうわけ。それはもう俺の宗教と言えるかもしれないね」

俳優は厳しい目に遭いたがっている

『春を背負って』より 【(C) 2014「春を背負って」製作委員会】

 松山ケンイチ、蒼井優、檀ふみ、小林薫、豊川悦司。『春を背負って』には錚々(そうそう)たる俳優陣が集結。そして、その全員が舞台となった立山連峰の大汝山(3,015m)に実際に登って演技をしているのだから驚きだ。
「今はもう、“木村大作”“山”“厳しい”というのが最初から伝わっているみたいで、覚悟を決めた人しかOKしてこない。俳優にはどこかでそういう厳しい目に遭ってみたいという欲求があるんだよ。

『劔岳』の浅野忠信さんも「俳優としても、人間としても『劔岳』を経験してよかった」と言ってくれたんだけど、それはやっぱり厳しかったけど良かったということだと思うよ。

 でも今回は、『劔岳』と同じスタッフにもかかわらず、雰囲気が全然違った。映画自体が山の厳しさじゃなくて、“爽やかさ”を伝えるものだったし、何より女優も登っていたということが大きいと思う。俺も女優さんの前ではあんまり怒鳴ったりできないしね(笑)」

映画を通して伝えたい山の魅力

【スポーツナビDo】

「爽やかさ」という言葉は、試写を観た一般の人から出て来たものらしい。木村監督はその言葉が一番『春を背負って』に適していると思い、インタビューでも使うようになったのだとか。「爽やかさ」は映画の魅力だけでなく、きっと山の魅力も表しているのではないだろうか。

「家族のこと、仕事のこと、人間はいろんなものを“背負って”生きていると思うんだよ。俺自身もそうなんだけど、山に登ると全部忘れちゃう。無になる。モヤモヤしたものから解放される、そういう瞬間が人間には必要だと思う。

 山ではいい人にしか会わないからね。悪い人はいない。山はほっといてくれるし、そのくせあったかいんだよね。今回は、映画を観た後、山に登りたくなるんじゃないかと思う。山に登ったことがない人もそうだとうれしいね」

春を背負って

【(C) 2014「春を背負って」製作委員会】

原作は笹本稜平の同名小説。舞台は奥秩父から立山連峰へと変更されている。トレーダーの長嶺亨(松山ケンイチ)は、父親の勇夫(小林薫)の死をきっかけに、退職して山小屋を継ぐ決心をする。料理担当の愛(蒼井優)、勇夫の友人と名乗る流れ者のゴロさん(豊川悦司)とともに、亨は悪戦苦闘しながら山小屋を切り盛りする……。6月14日(土)全国東宝系にてロードショー。
作品写真:(C) 2014「春を背負って」製作委員会
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著者プロフィール

1974年生まれ。エディター&ライター。男性誌『メンズクラブ』編集部、映画雑誌『プレミア日本版』編集部を経てフリーランスに。映画パンフレット、映画誌、カルチャー誌、ファッション誌などで編集・取材・執筆を行っている。幼少期に映画にハマって以来、心は常に文科系映画オタクだが、それに似つかわしくないほど体は体育会系で、高校時代には陸上短距離で県大会2位になったこともある(その時の1位はインターハイでも優勝)

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