日本男子、4回転時代の幕開け 本番で見せたスターの資質=フィギュア全日本選手権・男子シングル
表彰式で笑顔を見せる小塚(左)、高橋(中)、羽生(右) 【坂本清】
高橋大輔「ここで守るより攻めた方が良い」 見せた勝負師の勘
25歳。フィギュアスケート選手としてはベテランの域に入った高橋の念頭にあるのは、ソチ五輪の金メダルだ。すべての試合は、そのためのステップ過ぎない。パトリック・チャン(カナダ)が昨季から確実に決めている「4+3」が必要という思いは強かった。
高橋は、公式練習で4回転トゥループをクリーンに成功。調子が上がっている手応えをつかむと、ここ一番で勝負に出た。
「いつかはやる日がくるなら、こういった緊張感の中でやる方が自分のためになる。ここで守るより攻めた方が良い。自分でも半信半疑で不安でしたが、これを越えていかないと、と思ってやりました」
もちろん闇雲に跳んだわけではない。成功への布石は、オフシーズンに磨いた基礎スケーティングだ。膝のボルトを取る手術のあと、「しばらくジャンプの練習ができないなら」と、フランスでアイスダンスの元世界王者らのもと、スケーティングやエッジワークの指導を受けた。「スケーティングに関する考え方が変わった」と高橋。氷に吸い付くような滑らかなすべりと、瞬時に深いエッジに乗りかえるエッジワークを身につけた。
ジャンプを成功させるための条件には、(1)エッジへの適切な体重のかけ方、(2)踏み切るタイミング、(3)スピードなどがある。エッジワークが安定したことで(1)の条件を確実に満たし、それが4回転の成功率アップにつながった。だからこそ、単なる4回転の成功ではなく、さらにレベルの高い「4+3」につながったのだ。
「スケーティングが良くなった事でジャンプに集中できているし、今回はタイミングが全て合っていた」
ショートで96.05と高得点をマークしたが、フリーはジャンプミスを連発し3位。ショートの得点に助けられ254.60で逃げ切りの優勝を果たした。「こんな演技をしている場合ではない。GPファイナルの疲れが出てしまい、自分の調整ミス」と反省。天才的な演技の後に、弱さが出る演技で次への課題をつくるあたりもまた、スターの証か。ソチの金メダルへとつながる一歩を記した。
小塚崇彦「コントロールできた」新たな4回転のステップへ
冷静な判断で4回転を成功させた小塚 【坂本清】
「すごい緊張した。スピンでは足が震えていて波打っていた」というショートでは、4回転を回避し、今季初となるノーミスの演技。「練習を確実に積んできて、やっと今シーズン自分のすべりができました」。
そして一番の技術的課題である4回転で、新たな一歩を記す。フリーの朝の公式練習では、身体のキレが良く、スケーティングのスピードがいつもより増していた。4回転ジャンプはミスが続いた。しかし、練習量をこなしていたからこそ、普段との違いに気づいた。
「スピードが出すぎていた。スピードさえ抑えれば、あとの部分はコントロールできている。不安要素はない」。
そう考えるとフリー本番は、助走のスピードを調整し、これまでの全試合で最もクリーンな4回転トゥループを決めた。「コントロールの中にある4回転だった」。成功する術を手にした瞬間だった。
「やっと今シーズンのスタートに立てたという気持ち」と小塚。銀メダルを手にすると、世界トップスケーターとしての小塚の顔を取り戻していた。