芸術性の女王、アンナ・ベッソノワの美しき闘志=新体操・世界選手権
前回大会の女王、アンナ・ベッソノワ。芸術性の高さが魅力で、日本でも人気が高い。そのベッソノワにとって、世界選手権は苦い戦いとなった 【榊原嘉徳】
自信が失意に変わった2日間
しかし、その輝かしい実績にもかかわらず、ベッソノワには「悲運」のイメージがある。それは、ベッソノワの演技が熱狂的に観客に愛されているわりに、一番高く評価されることが少なかったためにほかならない。
音楽や感情、ストーリーを演技によって描ききる力は比類ない、と評されながら、金メダルには縁が薄い。そのベッソノワが、前回(07年)の世界選手権で手にした女王の座を守れるかどうかが、今回の世界選手権の1つの見どころだった。
この自信にはおそらく、今年から採用された新ルールに裏付けされていたと思われる。 新ルールはベッソノワに味方するはず、だった。少なくともベッソノワやウクライナ陣営はそう信じていただろう。昨年までのルールでは「動きと音楽の調和」「構成の多様性」「空間・フロアの使用」などのいわゆる「芸術性」の評価は、20点満点のうちのわずか1.5点にすぎなかった。それが、今年からは30点満点中の10点を占めるようになったのだ。「芸術性」ではベッソノワの右に出るものはいないということは、だれもが認めている。つまり、新ルールはベッソノワには有利、なはずだった。
個人総合決勝のロープ演技で、美しくフロア上を舞うベッソノワ 【榊原嘉徳】
しかも、ベッソノワ優位のはずのA(芸術)さえもカナエワが軽く9.500を超えていくのに対して、ベッソノワはなかなか9.500を超えられない。ロシア選手の中では表現力に難ありと言われているカプラノワでさえ、予選種目では芸術点を9.500に乗せているのに、だ。つまり、新ルールのいう「芸術性」とは、限りなく難度の高さに比例した評価なのだと、はじめの2日間でそう思い知らされたように思う。