135年の歴史を誇る歌舞伎座に「いっちゃうぞ、バカヤロー！」の声が響き渡った！

テキスト／市川 亨
撮影／山本正二
　
　銀座・歌舞伎座では現在、松竹創業130周年『猿若祭二月大歌舞伎』が開催中で、公演の昼の部では中村勘九郎さんが主演を務める『きらら浮世伝』を上演。“江戸のメディア王”とも称された蔦屋重三郎の奮闘が描かれた作品で、劇中ではプロレス好きとして知られる勘九郎さんが多くのプロレス技を披露している。
　
　勘九郎さんは相手役とのケンカの場面で、いきなり逆水平チョップの応酬を展開。続けてマシンガンチョップを放った勘九郎さんは、歌舞伎座中に轟く大音量で「いっちゃうぞ、バカヤロー！」の雄叫び。さらに右ヒジに装着した黒のサポーターを外して天に放り投げるとラリアットを発射し、コブラツイストで相手を捕獲するなど大暴れ。観客も勘九郎さんの一連の立ち回りに驚きながらも、大きな拍手を送った。

2月16日の舞台を小島聡も観劇し、終演後に勘九郎さんと初対面。2人でマスコミ陣の取材に応じた。
　
　勘九郎さんは子どもの頃からプロレスファンで、小島のことも1990年代から追いかけているという。先日の1.4＆5東京ドーム大会も観戦に訪れるなど現在進行形の新日本マットにも詳しく、「ジーンブラスター」「ダブルクロス」といった技名も次々に飛び出すなど、小島も驚くほどのマニアぶりを見せた。
　
　そもそも今回の作品でプロレス技を取り入れたのは、殺陣師の方の提案からスタートし、勘九郎さんをはじめとしてほかにもプロレス好きの共演者がいたことで、劇中に入れ込む形になったという。勘九郎さんも歌舞伎の劇中にここまで豊富にプロレス技が取り入れられたのは「史上初じゃないかな」と語った。
　
勘九郎「小島選手のことはボクが学生時代から見させていただいて、新日本時代のnWo、TEAM 2000、全日本に行かれてからも全部追いかけていたので、本当に光栄です。今回、劇中で勝手にやらせていただいてありがとうございます。殺陣師が江戸の若者たちの素手での立ち回りでどうしようかと悩んだ末に、『プロレスを入れてみたんですけど、どうでしょうか？』と。それで逆水平チョップの打ち合いがあったときに、ボクは絶対に小島選手の『いっちゃうぞ、バカヤロー』を入れたくて。それをアドリブで入れたら周りにもプロレス好きがいるので、みんながいっしょになって言ってくれて、その場面が成立したという形ですね。最初は延髄斬りをしてから、ジーンブラスターを止められて、ダブルクロスでノックアウトするっていうのも…（笑）。黒のサポーターは、プロレス好きの（中村）橋之助が楽屋に来て『サポーターはいいんですか？』って言ってきて。『そうだね』っていうことで、すぐに近所の薬局でサポーターを買ってきて、やらせていただきました（笑）。こんなにプロレスの技が入っているのは、歌舞伎史上初じゃないですかね」

勘九郎さんは歌舞伎役者を続けていく上で、かつて全日本プロレスの会場で見かけたジャイアント馬場さんの姿から影響を受けた部分もあると語った。
　
勘九郎「橋之助のお父様の芝翫叔父がプロレスが好きで、三沢（光晴）選手と懇意にされていて、そのきっかけで最初は全日本を見に行ったんです。若い選手が試合をしているときに（ジャイアント）馬場さんが外のブース（売店）でサインをしているのを見て、ボクもこういう大人になりたいなって思ったんです。もし自分が成長して年配になったときに、たとえば若手がやっている公演でもサポートして、みんなのファンの心を掴むようなことをしたいと思いましたね」
　
　勘九郎さんは歌舞伎とプロレスの共通点として「花道」の存在を上げ、先日の1.4東京ドームで同じく歌舞伎役者の中村獅童さんがスペシャルパフォーマーとしてDOUKIの入場をサポートした姿に「嫉妬した」という。自身もいつかプロレスの入場花道を歩いてみたいと語ると、小島も「ぜひお願いします」と応じるなど、“タッグ結成”に夢をふくらませた。小島は自身の技が歌舞伎で使われたことについて「光栄です」と恐縮しきりに感想を口にした。
　
勘九郎「いつか入場はやりたいですね。カッコいいなと思って。あれも花道じゃないですか。凄く共通している部分があって、それが心惹かれるんですよね。1.4で獅童さんがスペシャルパフォーマーで出てきたときは、物凄く嫉妬しました（笑）。花道横で見ていたんですけど、“ウソでしょ!?”って。いいなぁと思って。いつかやりたいです（笑）」
　
小島「ぜひよろしくお願いします（笑）。今回、こんな大きなところで、私が普段やっているプロレスのパフォーマンスを見せていただいて、本当に恐縮で嬉しくて、全身の毛穴が開くぐらいに興奮してしまいました。最初聞いたときは信じられなくて、このような歴史ある舞台で見させていただいて、それだけで十分嬉しかったんですけど。私のパフォーマンスまでやっていただいて、34年のキャリアで今日が一番嬉しかったです（笑）。（勘九郎さんの技は）完璧でした」

最後はカメラマンのリクエストに応じて、揃って「いっちゃうぞ、バカヤロー！」と叫び、さらに勘九郎さんが小島に逆水平チョップを放つポーズを決めるなどして、歌舞伎座での一日限りの“競演”を締めくくった。
　
　舞台は2月25日（火）まで歌舞伎座にて上演。

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