最高時速100キロのユニバーサルスポーツ!? 韓国発のドローンサッカーとは
【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
最高時速100キロの戦い
試合で使われるドローン。中心の機体の周りを球体のプロテクターが覆っている 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
また、ゴールの大きさに合わせてクラスが2つに分かれていて、それぞれで使えるドローンの大きさ、性能、フィールド(ケージ)の大きさも変化する。一番大きい40センチのクラスのフィールド(ケージ)の広さは、7m×16m×高さ5mと規定されている。
内径30㎝のゴールサイズで使用するclass20のドローンボールは、一定の高さで浮き続けられるホバリングの機能がついている一方、内径60㎝のゴールサイズで使用するclass40のドローンボールではホバリングもフルマニュアルで行わなければならず、難易度が上がるという。
一般社団法人日本ドローンサッカー連盟の中崎寛之理事は「最初は操縦が難しくても、練習をしていくうちにできるようになります。ホバリング機能があるものなら2~3時間練習をすれば試合になるでしょう。機能がないものの場合は、講習を2日ほど受講すれば戦力になる程度の操縦はできるようになってくると思います」とアピールする。
競技人口は着々増加、主婦層も
2024年の第二回世界選手権大会の様子。世界規模で拡大を見せている 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
当時、一般用、産業用とドローンの使用用途が多岐化し、人材の確保と教育が急務になっていた。そこで浸透策として、ドローンに搭載したカメラの映像をゴーグルで見ながら操縦するレースなどの企画が試みられたが、効果が上がらなかったという。
そうした状況で、ドローンサッカーの開発と普及を進めたのがチョンジュ市と民間企業だった。民間企業がドローンの機体を作り、市が大会場所の提供、主催、市の公式選抜チームを発足するなど尽力。ドローンを使う面白さや、大人も子どもも楽しめるルール、さらにコミュニケーションを取りながらチームで戦う競技性がウケ、拡大したという。
同じころ、日本でも大手カー用品チェーン「オートバックスセブン」が、新しく空のモビリティに着目し、ドローンの普及に貢献する方法を模索していた。同社で事業を担当していた中崎さんは韓国でドローンサッカーが広まりを見せていることを聞きつけ、2019年に現在連盟で商品開発を担当する飯田俊彦プロダクト/テクニカル部長と現地を訪問。最初は半信半疑だったというが、圧倒的な熱気にすぐに魅了されたそうだ。
「試合もさることながら、間の5分のインターバルがすごかったんです。真横まで行って見させていただきましたが、とにかく熱気がすごかった。選手や監督が修理をしながら、セットを終えての感想や戦略について議論を交わしているようでした。韓国語は分かりませんが、とにかく圧倒されました。大の大人と子どもが一緒になり、お揃いのユニフォームを着て熱くなっている姿を見て、これめちゃくちゃおもろいやんって思ったんです」
インターバルでドローンの修理をする選手。限られた時間の中で試合運びについて議論を交わしながら、F1のピットのようにドローンを整備する、重要な時間だ 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
その後、競技を主催し、普及活動を行うため、競技団体として一般社団法人を創立。これまで競技規則、大会規則の制定や審判員の教育制度の整備の他に、国際競技団体との提携などを進めてきた。
導入から5年、競技人口は増加傾向で、少なくとも全国で730人がドローンサッカーを楽しんでいる。「始めは中高年の男性が多かった」というが、今では男女比はおおよそ7:3。部活感覚で取り組む若年層が増えるなど徐々に年齢層が低下。子どもの影響で始める主婦層も増えてきているという。
高度な技術が実現する緻密な戦略
さまざまな戦術があるドローンサッカー。得点を目指したり、相手を妨害したり、チーム内の連携が勝負のカギを握る 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
ゴールの中にストライカーのドローンをくぐらせるように思ったところに正確に動かす基礎的な技術はもちろん、限られたバッテリーの容量の中で動かすことも必要になる。
中崎さんは「昔はバンバン激しくドローンボールをぶつけあう戦術が多かったですが、最近は変化してきました。できるだけ衝突しないようにかわしたり、華麗なフェイントでゴールを決めるチームが目立ちます。ストライカーが使えなくなると戦略上も大きな痛手になるので、なるべく接触を避けるという戦略の進化だと思います。ただ、戦略通りにできるかは技術次第なので、試合に不慣れなチームほどボロボロになりますし、無駄な動きが多ければ途中でバッテリー切れになって飛べなくなっているドローンボールが多くなります」と解説する。
スポーツとして楽しむことで、ドローン操作を学ぶ契機にもなる 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
産業用ドローンは、操作性を向上させるために態勢を維持させるセンサーなどが取り付けられているというが、class40のドローンボールにはそうしたアシスト機能が一切ない。
「車でイメージするとAT車とMT車のような感覚です。class40のドローンボールを使っていると、横からぶつけられたり、他の機体のプロペラから発生する下に向かって吹き付ける風(ダウンウオッシュ)で態勢を崩されたりしながらも補助機能なしで操縦できるようになります。態勢を崩してもすぐに立て直す細かい動作が体にしみついているので、操縦に頭を使うことはありません。その分ドローンの周りで起きている状況を把握しながら安全にも配慮できる、より高度な操縦ができるようになると思います」と語る。
また、ドローンサッカーの練習は屋内でネットやワイヤーが張られた安全な場所で行うため、人や物にぶつける心配が少ないのも利点だという。「操縦する人材の必要度が増している今、楽しみながらドローンを扱えるようになる。入門として非常にいいと思います」
ユニバーサルスポーツを目指して
「太陽の家」(大分県別府市)に完成した専用競技場「Drone Soccer Arena Oita」 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
2019年に初めて韓国でドローンサッカーを観戦した中崎さんと飯田さんの目に飛び込んできたのも、子どもが大人に勝利する姿や、夢中でコントローラーを握る車いすユーザーの選手の姿だった。
中崎さんと飯田さんのドローンサッカーの原風景には「ユニバーサルスポーツ」として価値があり、連盟の中にもその意識は息づいている。
そうした設立趣旨が理解され、「日本のパラスポーツの父」と称される中村裕博士が設立した社会福祉法人「太陽の家」(大分県別府市)に本部を置くことが実現。2020年7月には専用競技場が施設内に設置され、国内普及の中心地になっている。
専用競技場は元々プールだった場所の底に建てることになったため、選手がドローンを操縦するフィールド(ケージ)に行くには階段を降りる必要があるのだが、そこにも昇降機を設置。バリアフリーを心がけた。
そもそも中崎さんがドローンサッカーをより多くの人が参加できるユニバ―サルスポーツにしていきたいと考えるようになったのは、5年前の体験会がきっかけだったという。
2019年1月、宮城県仙台市の特別支援学校からの依頼を受け、生徒向けにドローンサッカーの体験会を開くことになった。
午前に操縦できるようになるまで練習を行い、午後に3vs3のリーグ戦を行った。教師も混じったリーグ戦だったが、優勝したのは筋力が低下する難病、筋ジストロフィーを患う生徒たちだった。 指が上手く使えなくても、手のひらを上手に使いながら操作する姿に驚かされたという。「実は僕たちこういうの得意なんだよ」と声をかけられ、ドローンサッカーのユニバーサルスポーツとしての可能性を身をもって体験した。
生徒も笑顔でコントローラーを握る 【写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟】
日本ドローンサッカー連盟が目指すのは、参加者に一切の垣根がない、まさにユニバーサルスポーツだ。
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農業や僻地の医療、災害救助など技術革新の最先端で諸課題に貢献しているドローン。その利活用に注目が集まる中で、スポーツとしての可能性が広がっていることに真新しさを感じた。年齢や性別、障がいの有無に関わらず誰もがフェアに競えるユニバーサルスポーツを、ドローンサッカーは実現できるのかもしれないと感じた。そう遠くない未来、フィールド(ケージ)の脇に、多様なメンバーが一つのチームとなって競い合う光景が当たり前になっているかもしれない。
text by Taro Nashida(Parasapo Lab)
写真提供:一般社団法人日本ドローンサッカー連盟
※本記事はパラサポWEBに2025年2月に掲載されたものです。
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