【注目施設探訪 第5弾(後編)】「NEXT BASE ATHLETES LAB」20年前にあった誕生のルーツと「文化をつくりたい」描く未来像
【©白石怜平】
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22年8月にオープンしてからは、世界最高性能の機器を活用した計測からトレーニングへの介入により、約1500名以上の選手のパフォーマンスアップを手がけてきた。
民間企業としては日本初の施設であるこのラボは、実は長きにわたり描かれていた構想だった。
後編では、NEXT BASE ATHLETES LABが誕生した経緯から今後実現した世界観などを追っていく。
ルーツは20年前に見たアメリカでのラボ
当時野球データ解析の世界では、トラックマンやラプソードなどの計測器がNPBでも続々と導入され、回転数や打球速度といったトラッキングデータ解析のフェーズに入っていた頃だった。
株式会社ネクストベースの代表取締役社長・中尾信一氏は当時のことを振り返った。
「速いボールを投げる・打球を遠くに飛ばすにはどう体を動かせばいいのか。それが日本で一番詳しいのが神事だと思います。目指す方向からアドバイスする”逆算の考え方”ができていたのです。この考えがスタンダードになる世界が必ず来ると当時から感じていました」
ラボの基礎をつくったのがバイオメカニクスにおける博士号を持つ、同社上級主席研究員の神事努氏である。その構想は20年ほど前にさかのぼる。
「大学院の助手だった2005年にアメリカのASMI(アメリカスポーツ医学研究所)に興味があって単身で行ってきたんです。
そこにあったバイオメカニクスのGlenn Fleisig先生のラボが、病院とトレーニング施設、更に動作分析がワンストップでできる場所で、当時メジャーリーグのサイ・ヤング賞を獲った選手も訪れていました。
そこでは計測結果を指導に活かすためにデータが公開されていて、アカデミックに選手を育成していく土壌がアメリカにすでにあった。それを日本にも作りたいとずっと考えていました」
20年前に見たアメリカでのラボを基に形にした 【©白石怜平】
ラボの強みである”バイオメカニクス数学的な解析”と”人”
「人の部分です。アメリカでは大学や大学院で専門性を学んだ人が、球団や施設での職に就いています。大学での専門的な学びが仕事に直結する文化を日本でも作っていきたいなと考えていました」
現在このラボにいるアナリストは大学ないしは大学院で学び、バイオメカニクスのデータを扱える人が揃っている。
また、パフォーマンスコーチ、コンディショニングコーチはアカデミックなだけでなく、スポーツの現場での経験を積んだ精鋭メンバーで構成されている。
ネクストベース アスリートラボ のメンバー 【提供:ネクストベース】
「我々は数値に落とし込んで、その数値をどう上げるかというアプローチにまで入ります。測定して数値を出すまでは、バイオメカニクス的な知識やプログラミングの実践が必要ですし、数値を上げるには生理学やトレーニング科学の知識が必要になります。
実際に今どう体を使っているのかというデータ分析の話で終わらず、ではどのように変えたのかを見ることで初めて数値が上がってきます。
それをやるには機器の精度が高くないと測れないですし、それを言語化できる人がいないと原因から結果まで迫れないのです」
計測し、アドバイスするにはバイオメカニクス数学的な知識などが必要になってくる 【©白石怜平】
今春、ついにメジャーの舞台へ
北海道から沖縄まで全国のチームがラボへ定期的に訪れており、中には甲子園ベスト4の高校や都市対抗野球優勝経験のあるチームも含まれる。
中尾氏は「ひとまずスタートダッシュは成功。価値を知ってもらえたと感じています」と手ごたえを語った。
加えて台湾や韓国、オーストラリアのチームや選手もラボへと足を運び、計測後にはチームからの年間契約の相談を受けるなど、その価値は国境を越えて発揮されている。
そして今年、ラボにとってまた大きな出来事があった。
「メジャーリーグで伝統もあり、R&Dの先頭を走るシカゴ・カブスから計測したいとオファーがあって、我々を選んでいただいたんです」
メジャーリーグにおいてはこれまで選手個別のサポートは行っていたが、球団単位では会社としても初の事例。
ネクストベースの積み重ねた実績が世界への扉を開いた。
「ずっと選手のパフォーマンスアップにこだわり、コミットしてきました。測定して終わりでは、受ける意味がないですから。
我々の研究がようやく追いつき、メジャーに手が届くところまで来たという自信がつきました。世界で勝負できる土壌に立てたと感じました」
長年、バイオメカニクスの研究を続けている神事氏も、今年大きなチャンスを手にしたと実感している。
「アナリティクスにおいても"日本の野球が世界に誇れるものだ"というチャンスが来ました。
日本の研究は、90年代に行われていたことが最近世界で注目される例もあるなど、とても優秀なんです。
ずっと抱いていた、”世界で戦いたい”想いがようやく形になりました」
ラボから世界に発信する構想が実現へと向かっている 【©白石怜平】
ラボを通じてつくりたい世界
メジャーでも注目されるなど、今後もさらなる発展を遂げようとしている。両者にラボがつくりたい世界観を伺った。
「我々も世界の舞台に今後もチャレンジしたい。プロ・アマのチームにどんどん展開して日本の野球の価値を高めたいです。また、バイオメカニクスにおいても後進を育てていくことで、この場所から将来の野球界のレベルを上げていきたいと考えています」(中尾氏)
日本の野球界の底上げを文化レベルで行いたい想いを抱いている 【©白石怜平】
そうすることでスポーツの価値が上がってきますし、観ている方たちも『スポーツはいいな』、『スポーツにもっと関わりたい』と感じることに繋がります。アスリートがもっとリスペクトされる世界になるので、そんな文化をつくっていきたいです」(神事氏)
今後さらなる研究を積み重ね、世界の舞台でさらに成果を発揮していく。日本野球のレベルの高さは研究においても世界トップレベルと認められる日々もそう遠くはないはずである。
(※文/写真 白石怜平)
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