パリ2024大会が生み出した社会的価値、民営化する国立競技場の未来を展望 スポーツエコシステム推進協議会
スポーツエコシステム推進協議会が「Sports Ecosystem Conference2024」を開催 【スポーツナビ】
同協議会は2022年1月31日にDX時代のスポーツ産業の振興とスポーツエコシステムの確立を目的とし、任意団体として30社で発足。23年7月18日に一般財団法人を設立し、昨年12月から本格始動することとなった。24年11月15日現在で会員企業数は117社となり、Jリーグ、リーグワン、Tリーグ、Bリーグ、Wリーグらプロスポーツリーグともパートナーシップを締結している。
パリ2024大会がフランス全体にもたらした恩恵
パリ2024組織委員会のマリー・バルサック氏(右から2人目)がパリオリンピック・パラリンピックで生み出された社会的価値について説明 【スポーツナビ】
パリ2024組織委員会のマリー・バルサック氏はパリ2024大会以前、以後に実施してきた施策・プログラムの例として、財政的なバリアをなくすために開会式の入場を無料としたこと、オリンピック・パラリンピックを学ぶオリパラ週間を学校に導入し、学校と合わせて職場や街中にも毎日30分間の運動の機会を導入したこと、さらに貧困地区だったパリ北部のセーヌサンドニの開発やプールがない地域の学校にプールを新設、そして選手が走った同じコースで市民マラソン大会を開催したことなどを紹介。これにより「パリだけでなく、フランス全体に社会的な様々な恩恵がもたらされた」ことを説明した。
また、これらの施策はパートナー企業もコミットしたものであり、プログラム立ち上げの早い段階から企業に協力を呼びかけ、「短期的な投資ではなく、長期的なメリットを企業に示すことが大事」と述べた。そして、社会的な価値を残していくレガシープログラムを成功させるためには「早い段階からの準備」「あらゆるステークホルダーを巻き込むこと」と合わせて、それぞれのプログラムに対する「具体的・客観的な評価」が重要だと言及。これらの経験をもとに今回のカンファレンスに参加した日本のスポーツ関係者、企業に向けて「スポーツの価値は社会的なインパクトをもたらすものであり、企業にとっても大きな可能性があります。そしてスポーツは素晴らしい分野だとオープンマインドでプロジェクトを考えていくべきだと思います」とアドバイスを送った。
国立競技場を世界的なナショナルスタジアムに
民営化する国立競技場の未来についてディスカッションを行った 【スポーツナビ】
運営にあたる共同事業体の1社である株式会社NTTドコモの執行役員であり当協議会理事でもある櫻井稚子氏は、これからの国立競技場に関して「グローバルスタンダードにこだわり、世界でもトップレベルのナショナルスタジアムにしたい」と意欲。現在計画している主な変更・改善点について、プレミアムシートの導入など価格に応じた席のグレードアップ、VIPルームの充実、フード施設や種類の充実などを挙げた。そして運営期間である30年間で「年々アップデートし続けて市場環境や時代の変化に応じた価値を想像し、国立競技場をモデルケースにして全国のスタジアム、アリーナに横展開していきたい」と述べる一方でNTTドコモが持つテクノロジー、データを生かした選手育成にも力を入れ、それを一般層にも還元していきたい考えも明かした。
また、国立競技場の現在の管理・運営者である独立行政法人日本スポーツ振興センターの芦立訓理事長は、これからの国立競技場の運営に関して「方向性はアメリカと同じで全く間違っていないと思いますが、全てアメリカやヨーロッパを後追いして、真似をすればいいわけではない」と指摘。「進んでいくやり方に関して、例えばデジタルを活用してファンのエクスペリエンスを上げるなどアメリカにはない日本だけのやり方を様々に突っ込んで発展させていくことが、ビジネスとして一番大事ではないかと思います」と述べた。
一方、このセッションでモデレーターを務めた当協議会評議員で株式会社メルカリ取締役会長、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー取締役社長でもある小泉文明氏はアントラーズやスタジアムを運営していく中で得た経験から「パートナー企業との連携が最も変化している。新しい事業の芽を一緒に作っていけないとサステナブルな関係にならない」とコメント。チームを中心としてスタジアム、パートナー企業、地域コミュニティやファンをまとめ上げられることがスポーツの力であり、スタジアムの価値になるのではないかと述べた。
スポーツの不正操作、違法賭博、不法行為にどう対処するか
スポーツの不正操作、違法賭博は国際的な協力で取り組むべき問題 【スポーツナビ】
また、国際オリンピック委員会(IOC)のエバンゲリス・アレクサンドラキス氏は不正操作や違法賭博の対策に取り組んでいるIOCの特別ユニットの活動を紹介。IOCは日本オリンピック委員会(JOC)とも密に連携を取っており、「JOCと国内競技団体がルールをしっかり作っていくことが重要。そして強調したいのは教育と啓蒙。不正操作や違法賭博に関して選手たちに向けてきちんと教育することが大事です」と述べた。
スポーツの不法行為に関してフランスを参考に法制度作りに取り組みたいと当協議会代表理事の稲垣弘則氏(左)は語った 【スポーツナビ】
また、過去の裁判の判例から日本ではスポーツデータは保護される知的財産権として認められにくい課題を残す一方、「他人のバンドスコアを模倣して無料で公開する行為は、他人の時間、労力、費用等に対するフリーライドであって、他人の営業上の利益を損なう行為」であると認められた最近の判決が追い風にもなっていると、弁護士の髙部眞規子氏が解説。当協議会代表理事で弁護士の稲垣弘則氏は「スポーツ団体の皆さんがフリーライドを受けたことでどれだけの損害を被ったのかを調査し、それを関係する省庁にしっかりと提案・提言して連携しながら、フランスを参考にしつつも日本らしい法制度作りを当協議会でも検討していきたいと思います」と、不法行為に対する今後の取り組みを語った。
デフリンピック東京大会までちょうど1年
1年後のデフリンピック東京大会に向けてデフバレー女子日本代表の中田美緒選手(右から2人目)が抱負 【スポーツナビ】
また、この日は2025年11月15日に東京で開幕するデフリンピックまでちょうど1年にあたることから、アスリート特別トークセッションに参加したデフバレーボール女子日本代表の中田美緒選手は「聞こえない世界と聞こえる世界の文化は全く違うので、デフリンピックをきっかけに新しい考え方・見方を感じていただけたら私は嬉しいです。私自身も金メダルをとれるように日々の練習を頑張っていきますので応援よろしくお願いいたします」と抱負。自転車競技日本代表選手としてデフリンピックに3度出場した映画監督の顔も持つ早瀬憲太郎氏は「デフリンピックが創る共生社会」をテーマにしたプレゼンを通して、「ろう者と聞こえる人が一緒に作り上げることに価値がある。デフリンピックは共生社会の縮図であり、100年後につながる価値を見出すものです」と、カンファレンス参加者に呼びかけた。
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