【浦和レッズ】慎三が築いてきたものを引き継ぐ…チアゴ サンタナが抱くエースとしての使命感と浦和レッズへの誇り

浦和レッドダイヤモンズ
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【©URAWA REDS】

 ストライカーはゴールを決める使命を背負っている。

 チアゴ サンタナには、その自負も、矜持もある。

 ただし、それ以前に彼は浦和レッズの一員であることを強調する。

「自分は浦和レッズの選手。だから、決して自分だけがよければいいとは思わない。目指しているのは、自分のゴールではなく、チームの勝利。僕にとっては浦和レッズが勝つことがすべて。

 たとえ自分がシュートを打てる位置に顔を出せなくても、自分が動くことによってマークを引きつけ、他の選手がチャンスになるのであれば、それでもいい。僕にとっては、自分のゴールよりも、チームが勝つことが何よりも最優先すべきことだからです」


 力強く語ったチアゴ サンタナは、0-1で敗れたヴィッセル神戸戦(明治安田J1リーグ第32節)を悔やむ。マチェイ スコルジャ監督が就任してから、初めて先発を勝ち取った試合で、チームを勝利に導けなかったからだ。

「1週間かけて、神戸戦に向けたプランを練って試合に臨みましたが、思っていた以上にピッチの状態が芳しくなく、自分たちが目指していたサッカーをすることができなかった。

 特に前半は、ピッチの影響からロングボールが多くなり、相手も大迫(勇也)選手や武藤(嘉紀)選手を目がけてロングボールを狙ってきたために、引いて守る時間帯が増えてしまった」

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 彼自身も、前半は守備にパワーを費やす時間が多く、シュートを狙う機会に恵まれなかった。

 それでも1点を追う浦和レッズは、後半に入り反撃姿勢を見せる。チアゴ サンタナも54分には、小泉佳穂からの縦パスを渡邊凌磨がヒールでつなぎ、決定機を迎えた。

「縦にパスが入ると、自分も前に向かうことができるので必然的にチャンスは増えますよね。

 凌磨のパスはとてもすばらしかったけど、やはりピッチの影響からボールが弾んでしまっていました。本当は左足で(シュートを)狙いたかったけど、バウンドして右足の位置に来てしまった。相手DFも右側から寄せてきていたため、うまくシュートできなかった。あの場面は、左足でシュートできなかったことが悔やまれました」


 後半に入り、彼が起点になることで攻撃が展開され、ゴール前への迫力も増した。

「理想は、神戸戦の後半に少し見せられたように、自分が相手を引きつけてパスを受け、落としたボールを展開してもらって、再び自分がゴール前で勝負する形です。自分が相手をスライドさせられたら、逆サイドにスペースができる。そこをうまく使ってもらって、最後のところで自分が再び攻撃に顔を出せる展開を作ることが理想的ですよね」

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 第29節のFC町田ゼルビア戦では、87分に大畑歩夢からのクロスを頭で合わせてゴールを決めた。

 チアゴ サンタナが理想を、始点と終点で絡むことと挙げたように、点と点で合わせることもまた、ゴールへの道筋と言える。そのために、日々の練習から要求し続けている。

「どの試合でも、FWには厳しいマークがつきますが、多少、難しい状況や体勢であっても、自分にパスを入れてほしいと要求しています。クロスも、スルーパスも、多少のマークがついていても、自分には相手を抑えてゴールにつなげる自信はあるので」

 シーズン当初から要求し続けてきたことで、少しずつ周りも見てくれるようになってきている。ゴールの数が信頼にもつながっている。

「言い続けたことで、以前ならば、出さなかったような状態でもパスを出してくれるようになってきました。そこは自分の強さを周りが理解してくれている証だと思っています。ただし、もっと、もっとよくなるし、よくできるとも思っています。今はまだ、みんながマチェイ監督のサッカーに順応しようと取り組んでいる段階。それが機能するようになったら、さらに自分の要求も高めていきたいと考えています」

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 ストライカーは、試合を決めるゴールを期待される一方で、パスが来なければ得点することができないように、周りに生かしてもらうポジションでもある。

 だから、チアゴ サンタナは訴える。

「マチェイ監督が就任して、今はまず、守備のタスクを求められています。一方で攻撃は、ある程度、自由にやってもいいと、自分たちの判断に委ねられているところがある。そうした状況で必要なのは、選手一人ひとりが勇気を持ってプレーすること。ミスを怖れず、チャレンジしなければチャンスも生まれない。だからこそ、勇気を持ったプレーが求められるし、状況を変えると思っています」

 Jリーグが発表しているチームスタッツでは、ここまでのリーグにおけるクロス総数が19位の396本に留まっている。彼の決定力を生かすには、終点で合わせる回数を増やしていく必要があるのは確かだ。

 その一方で、彼が神戸戦の敗戦を悔やんだのは、ストライカーとしての使命からだった。

「ストライカーの役割は、たとえその試合で、1回しかチャンスがなかったとしても決め切ること。自分は、その一度しかないチャンスを確実にものにできる選手になりたい。FWには一度のチャンスをものにすれば、試合の流れやスタジアムの雰囲気を変える力があると信じています」

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 FWのあるべき姿として思い出したのは、ポルトガルのCDサンタ・クララでプレーしていたときのことだ。

 0−1の劣勢で、マークについていた相手センターバックから、こう言われた。

「今日の試合でお前には、一度たりともゴールを決めさせない」

 マークにつくたびに、そう言われたチアゴ サンタナは、悔しさのあまり言い返した。

「いいか。必ずゴールを決めてやる」

 チームは思うように攻撃を仕掛けられていなかったが、チアゴ サンタナがはワンチャンスをものにして同点に追いつくと、立て続けに2ゴール目を奪った。最終的にCDサンタ・クララは逆転勝利を収めたのである。

「ワンチャンスをものにしてゴールを決めたら、雰囲気が一変したんです。そのとき思ったのは、ストライカーには、スタジアムの空気そのものを変える力があるということでした。

 どんなにチームが苦しくても、どんなに状況が悪くても、ストライカーがゴールを決めることで、試合の流れを大きく引き寄せることができる。それこそがエースと呼ばれるストライカーの役割だと思っていますし、自分もそういう選手になりたいと思っています」

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 そう語ったチアゴ サンタナは埼玉スタジアムの光景を思い浮かべて、笑顔を見せた。

「我々のホームである埼玉スタジアムには、毎試合、多くのファン・サポーターが足を運んでくれ、最後の最後まで後押しをしてくれています。あそこで決めるゴールは何ものにも代えがたく、得点したあとは、さらに雰囲気が変わることを実感しています。

 ここ2試合勝利から遠ざかり、再びファン・サポーターには悔しい思いをさせていますけど、自分のゴールでスタジアムの雰囲気を変えて、勝利をつかみたいと思います」

 ただのストライカーではなく、浦和レッズのエースストライカーになりたい。

 聞かずとも、浦和レッズへの思いを言葉にした。

「今も思い出すのは、日本に初めて来たときのことです。浦和レッズと初めて対戦して、こんなにも美しく力強いファン・サポーターがいるのかと思いました。清水エスパルスで結果を残したことで、自分はそのファン・サポーターが後押ししてくれる浦和レッズでプレーする機会に恵まれました。それを今も誇りに思っています。

 もし、ここでプレーしていなかったとしたら、自分のキャリアにおいて間違いなく大きな後悔になると思っていました。だからこそ、試合には勝ちたいし、浦和レッズのエースストライカーになれるように、ゴールという仕事を果たしたい」

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 長らく浦和レッズのエースストライカーとしてチームをけん引してきた興梠慎三の存在の大きさや偉大さは、日々の練習を通じて肌身で感じている。その肩書きや責任の重さや、壁が高いことも理解している。

「慎三が築いてきたものを引き継ぐのは、決して容易ではないということは、彼の振る舞いやプレー、さらには残してきた数字や記録を見れば分かります。簡単なことではないですが、彼のように浦和レッズを勝利に導けるようなストライカーになりたい。そのために日々練習していますし、もっと、もっと自分は成長できると思っています。そして……いつの日か、自分もそのあとを託せるような存在になれたらと」

 今季リーグで積み重ねてきたゴールは11得点だ。あと1ゴールで、背番号である12に届く。

 11人がピッチに立つサッカーにおいて、「12」は、ファン・サポーターを表すナンバーとも言われている。

 彼はファン・サポーターとともにゴールを目指し、そして自らのゴールでスタジアムの空気を一つにする。それこそが、彼が追い求めるエースストライカーとしての責務であり、思い描く浦和レッズの景色である。

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(取材・文/原田大輔)
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著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

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