なぜオリンピック最高位スポンサーから日本企業がすべて撤退するのか 原田宗彦大阪体育大学学長に聞く

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ブリヂストンが契約終了を発表~パナソニック、トヨタ自動車に続き

 ブリヂストンが10月1日、オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナー契約を今年12月末の契約満了後は継続しないと発表した。
 ワールドワイドパートナーは国際オリンピック委員会(IOC)と結ぶ最高位のスポンサー契約だ。日本企業はパナソニックホールディングス(HD)が9月10日、トヨタ自動車も同26日に今年限りでの契約終了を発表しており、これで、IOCと同契約を結ぶ日本企業はゼロになる。
 なぜ撤退したのか。オリンピックへの影響は。日本スポーツツーリズム推進機構代表理事を務め、オリンピックのマーケティング研究で第一人者である大阪体育大学・原田宗彦学長(スポーツマネジメント)に聞いた。

――日本企業の撤退の理由は
 日本経済の地盤沈下が理由ではない。1984年ロサンゼルスオリンピックから続く商業五輪は40年が経過し、五輪の商業的価値が低下したということだ。五輪は世界最高のスポーツイベントとしての地位から転落した。若い世代はテレビで五輪を見ない。スポンサーの商品も購入しない。撤退を決めた3社とも知名度は高く、五輪を使って自社のブランド戦略を進める必要はない。何年も前から様々な数字を積み上げて検討した結果だと思う。

――IOCにとっては痛手だろうが、3社に変わるスポンサー企業は確保できるのか
 トヨタ自動車は10年間で1300億円の資金と現品を支給したとも聞く。世界ナンバーワンのトヨタと同じ支出に耐えられる自動車メーカーがあるだろうか。スポンサーは1業種1企業だが、新しいカテゴリーを作り、例えばEV、人工知能の分野で新規参入を募る考え方もあるだろうが、そのような企業ほど、若い人にアピールできていない今の五輪への興味は高まらないのではないだろうか。中国の経済状態も良くなく、撤退企業の穴を埋める企業はそんなに出てこないだろう。

――なぜオリンピックの商業的価値が下がったのか
 一つに、開催地が先々まで決まり、イノベーションが起きなくなったことも大きいのではないか。従来は、立候補都市がそれぞれ新しい五輪の形を計画として打ち出し、招致合戦を競い合って、そこにイノベーションが生まれた。しかし、現在は、夏季大会は2028年ロサンゼルス(米国)、2032年ブリスベーン(豪州)まで決定している。両都市は、支出を最小限に抑えるだろう。イノベーションは起きず、スポンサー企業にとって魅力をさほど感じないのではないか。
 五輪はこれまで、人類の平和と繁栄をうたう唯一のイベントとしての地位を保ってきた。まがりなりにもオリンピック・トゥルース(五輪休戦)が実施されてきたが、パリ大会はロシアがウクライナに侵攻する中で開催された。五輪が持っていた高潔性も失われた。

――IOCは来年、会長選が実施され、日本の渡辺守成・国際体操連盟会長らが立候補している。新会長はどうかじ取りをするべきか
 トヨタ自動車はオリンピックから撤退しても、パラリンピック支援の継続を希望していたと聞く。企業が経営で重視する観点はESG(環境・社会・ガバナンス)だ。またSDGsも重要。企業がスポンサーになりたいと思うような改革に取り組むことが必要だ。

 原田宗彦(はらだ・むねひこ) 大阪体育大学学長。専門はスポーツマネジメント。日本スポーツツーリズム推進機構代表理事。2008年大阪五輪招致や2016年東京五輪招致の準備段階などに関わった。

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