車いすテニスで女子ダブルス初優勝! オランダ9連覇を阻止した上地・田中組快挙の裏に田中愛美の成長

チーム・協会

【photo by Takamitsu Mifune】

スタッド・ローラン・ギャロスの赤土(クレーコート)が、2人の背中を押した。

車いすテニス女子ダブルスで上地結衣/田中愛美ペアが、東京2020パラリンピックで金メダルだった今回の第1シードであるディーデ・デフロート/アニーク・ファンクート(オランダ)をマッチタイブレークの末に制し、女子ダブルスでは日本初となる金メダルを獲得した。

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ダブルスで赤土を制するために

4-6、7-6で迎えた10ポイント先取のマッチタイブレーク。3時間を超える熱戦の最後、相手の強打が大きくラインを割って10-8で決着がつくと、2人はしっかりと抱き合った。

「素直にうれしい」。涙の田中の横で上地は「求めていたものではあるけど、実現できたことに、まだびっくりしている」と笑顔を見せた。

勝利が決まると、田中は泣いて上地と抱き合った 【photo by Takamitsu Mifune】

快挙の背景には、ダブルスの金メダルを最大の目標とし、戦略的に「ダブルスのための個」を磨いてきた田中の成長があった。

田中は、パリ大会のダブルスで金メダルを獲るため、ペアを組む相棒が誰になるかわからないときから、スタッド・ローラン・ギャロスの赤土を制するための強化を続けてきた。国際トーナメントでは、ストロークが強いタイプの中国選手やアメリカ選手に声をかけてダブルスを組み、トーナメントを戦いながらネット前を取るタイミングやボレーの技術を磨いた。

グランドスラムの出場が成長機会に

上地と組んで第2シードとなった今大会では、世界ランキング2位の上地に対して、同12位の田中が狙われることを想定。得意とするバックハンドスライスを駆使し、粘り強く敵コートに返しながら、上地が打てるところへ誘導する配球で好機を演出した。要所では積極的に前を取って、ボレーやドロップショットでポイントを決めた。

球足が遅く、長時間マッチになることの多い赤土のスタッド・ローラン・ギャロスでの戦いを意識して、今年2月にはラケットを変えた。ガットの張り方も「とくにフォアハンドを軽い力で飛ばせるように、厚い当たりでまっすぐと飛ばせるような組み合わせにした」(田中)

クレーコートで勝利する対策を重ねた 【photo by Takamitsu Mifune】

2022年の全米オープンテニスから、グランドスラム(四大大会)で男女シングルスのドロー数(=試合に出場する選手数)が、従来の8ドローから16ドローと増えたことも追い風だった。それまで「自分が出る大きな試合といえば、パラリンピックかアジアパラだけだった」と言う田中に、出場チャンスが巡ってきたのだ。

「全仏オープンには、2年連続で参加させていただいている。シングルスでは勝てていないけど、大きな舞台という部分では、今までアジア大会とパラリンピックしかなかったところに、グランドスラムが年4回加わった。トップの選手は普段からこういう感覚でやっているのかということも感じた」

そして、クレーコートで車いすのスピードが落ちないのも田中の特長。盤石の軸である上地と組むことで、日本にとてつもないディフェンス力のあるペアが生まれた。

オランダペアも田中の強さを認めた 【photo by Takamitsu Mifune】

相手のファンクートは、「日本ペアは打っても打ってもボールを返してきた」と舌を巻いた。デフロートも「その通り」と言葉少なにうなずいた。

エースの上地は、「田中選手はよく頑張ってくれた。試合中は難しい時間帯もたくさんあったけど、要所要所でポイントを決めることができた」と勝因を挙げた。上地は観客席に向かってうれしそうに指で田中を指しながら、大会を通じても成長してきたパートナーを称えていた。

田中は、思うような試合ができず、もやもやする気持ちを抱えていた東京大会の終了後、友人から届いた手紙にハッとさせられた。

そこには、「母が『子どもも20代になると親離れをするものだけど、娘の友人がパラリンピックに出たことで、家族で一緒に応援する時間を過ごせた。すごく幸せ』と言っている。結果うんぬんよりも、愛美がパラリンピックに出てくれてよかった」と書かれていた。涙があふれて、何度も読み返した。

田中は、「誰かのために」という思いで戦った 【photo by Takamitsu Mifune】

「誰かのために、そういう時間を自分が1秒でも作れるようになりたいという気持ちが強くなった」

パリ大会は準決勝からライブ配信があり、多くの反響があった。

「家族で見ていたよ、というメッセージもあった。誰かが大切な人と一緒に、幸せな時間を共有することの手助けに少しでもなれたかな」。そう語る田中自身が幸せそうだった。

「前回よりもいい色」で終えた2人

東京大会で大谷桃子と組んで銅メダルを獲得していた上地は、「前回も多くの先輩方にメダルを見てもらえたが、もっといい色のものを見せたいと思っていた」と語った。決勝のコートサイドでは、日本代表として今大会戦った大谷と髙室冴綺も見守っていたなかで優勝できた。

パラリンピック車いすテニス女子ダブルスに新たなチャンピオンが誕生した 【photo by Takamitsu Mifune】

「チーム全体として、スタッフの皆さんも含めて、全員で獲ったメダル。皆さんと共有したい」と感謝を込めて語った。

日本勢は今大会、男子シングルス、女子シングルス、男子ダブルス、女子ダブルスの4種目で決勝に進出。先陣を切って頂点にたどりついた2人は、誇らしげにメダルを見つめていた。

edited by TEAM A
text by Yumiko Yanai
photo by Takamitsu Mifune

※本記事はパラサポWEBに2024年9月に掲載されたものです。
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