西村拓真と宮市亮にとっての国立

横浜F・マリノス
チーム・協会
 皆さんは「国立競技場」と聞いて何を思い浮かべるだろうか?

 横浜F・マリノスにとっては本拠地・日産スタジアムとは違った意味で特別な場所だ。1993年5月15日のJリーグ開幕戦を皮切りに、1995年のJリーグ初優勝、2001年のヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)制覇など、栄光の歴史が国立競技場の光景とともにクラブの歴史に刻まれている。

 東京五輪に向けた建て替えが始まる直前、「旧」国立競技場で行われた最後の天皇杯決勝を制したのもF・マリノスだった。筆者もいちサッカーファンとして、超満員のスタンド最上段で歴史的なタイトルの瞬間を見届けた。

 今も昔も国立競技場は日本でサッカーに関わる人々にとっての「聖地」であり続けている。
 F・マリノス在籍4年目の宮市亮は「やっぱり国立競技場と聞いて最初に思い浮かべるのは『選手権』で、僕にとってはずっと憧れて目指していた場所でした」と語る。中京大学附属中京高校時代に第88回と第89回の全国高校サッカー選手権に出場している宮市だが、高校時代は選手として国立競技場のピッチに立つことができなかった。

「聖地と言われるだけあって、高校サッカー選手権において国立競技場というのは何物にも代え難い場所でした。結局、高校時代は開会式で行進したくらいでしたけど、あのピッチに立って試合がしたいとずっと思っていました」

【横浜F・マリノス】

 宮市にとって「憧れで、夢の舞台であり、神聖な場所」だった国立競技場のピッチで、高校No.1に輝いた経験を持つ選手がクラブに在籍している。西村拓真は富山第一高校の一員として2年次に「選手権」を制覇。F・マリノスが“最後の国立”で天皇杯を制した直後、準決勝と決勝で国立競技場のピッチを駆けた。

 当時を振り返る西村は「雰囲気がすごかったです。最後の国立だったので、満員でしたし、当日に並んでもチケットを買えなかったと聞いています。ピッチに立っていても、1つプレーするたびに唸るような感じがすごかった」と感慨に耽る。

 延長戦の末に星稜高校を破った富山第一は、富山県勢として初の全国制覇を達成。西村は2年生ながら大会の優秀選手にも選ばれている。そして、プロになってからも国立競技場は西村にとって特別なスタジアムであり続けている。

「僕、国立は結構相性いいんですよ」

 自分で言うのだから間違いない。西村は高校時代に全国制覇を成し遂げただけでなく、日本代表としても国立競技場でウルグアイ代表からゴールを奪っている。F・マリノスの選手としても2022年の清水エスパルス戦やASローマ戦でゴールネットを揺らし、2023年のFUJIFILM SUPER CUPでは決勝ゴールを挙げてタイトル獲得に大きく貢献した。
 2022年以降に国立競技場で出場した5試合のうち4試合で得点しているのだから、紛れもなく“国立男”だ。「やっぱり特別なスタジアムだと感じますし、国立競技場でゴールを決めるのは気持ちいいです」と、トリコロールの9番は笑顔をのぞかせる。

【横浜F・マリノス】

 8月24日に予定されている明治安田J1リーグ第28節のセレッソ大阪戦は、F・マリノスにとって「新」国立競技場になってから初めてのリーグ戦のホームゲーム。新旧問わなければ16年ぶりの国立競技場でのホームゲーム開催となる。

「僕らは国立競技場で試合をする時、いつもアウェイに乗り込むイメージで行っていた」と苦笑する宮市も、“聖地”と好相性な選手の1人だ。高校時代はたどり着けなかった場所だが、F・マリノスの選手になって初めて国立競技場のピッチに立った2022年の清水エスパルス戦で勝利を決定づけるゴールを奪っている。

「スタジアム中がオレンジに染まっていて、ちょうど夕焼けが重なって、すごく綺麗な、いい雰囲気の試合でした。今度は国立競技場のスタンドをトリコロールに染めてもらって、さらに素晴らしい雰囲気の中で試合をしたいと思います」

 C大阪戦のテーマは「SHOW THE TRICOLORE トリコロールを魅せつけろ」。普段のホームゲームとは違い、まだ横浜F・マリノスのことをよく知らないサッカーファンも足を運びやすいのが国立競技場だ。世界に誇る「マリノスファミリー」を増やすために、何を「魅せつける」か。宮市はファン・サポーターの情熱を感じて欲しいと語る。

「Jリーグ最高のファン・サポーターの素晴らしさはスタジアムに来ないとわからないと思います。ピッチ上で僕らが見せる躍動感とファン・サポーターが一体になってどんどんボルテージが上がっていくところを見たら、たくさんの人に刺さる魅力があるのではないでしょうか」

【横浜F・マリノス】

 一方、西村はピッチ上で「責任を果たす」ことで国立競技場に集った観客を魅了するつもりでいる。アタッキングフットボールを象徴する選手となった9番は「横浜F・マリノスという歴史あるクラブで戦っている意味はこういうものなんだ、というのを自分のプレーで示さなければいけないし、Jリーグの先頭を走っているクラブとしての責任も果たしていきたいと思っています」と語り、こう続ける。

「僕たちのサッカーの魅力は、どんな時もみんなでハードワークすること。果敢にゴールを目指すのはもちろん、最後の瞬間までゴールを目指し続ける意識は他のクラブよりも強いと思います。アグレッシブにゴールを目指して、たくさん走って、たくさん戦って、見ている人たちに気持ちの伝わる試合がしたいです。
そういう姿を国立競技場でたくさんの人に見てもらって、今までF・マリノスを見たことがなかった人たちにも『F・マリノスってすごい!』と思われるような試合ができたら一番いいです。今回のC大阪戦を通して魅力を感じて、日産スタジアムにも来てもらえたらうれしいです」

 どんな状況だろうと勇猛果敢にゴールを狙う「アタッキングフットボール」と、スタンドを埋めつくすトリコロールのファン・サポーターによる声援が化学反応を起こした時、国立競技場はどんな雰囲気になっているだろうか。その時の奇跡のような光景を想像するだけでも鳥肌が立つ。

 横浜F・マリノスの歴史の新たな1ページとなる国立競技場でのC大阪戦は、8月24日の19時キックオフ予定となっている。数々の栄光で彩られた特別なスタジアムで、マリノスファミリーの誇りを胸に、トリコロールを魅せつけろ。

Text by:舩木渉(Wataru Funaki)
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著者プロフィール

日産自動車サッカー部として1972年に創部。横浜マリノスに改称し、1993年にオリジナルメンバーとしてJリーグ開幕を迎えました。1999年には横浜フリューゲルスと合併し、現在の横浜F・マリノスの名称となりました。マリノスとは、スペイン語で「船乗り」を意味し、世界を目指す姿とホームタウンである国際的港町、横浜のイメージをオーバーラップさせています。勝者のシンボルである月桂樹に囲まれたエンブレムの盾には、錨とカモメが表現されています。こちらでは、チーム、試合やイベントなどさまざまなニュースをお届けします。

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