【ONE TAP SPORTS活用法4回(後編)】報徳学園が掲げる「夏、日本一」へのフィジカル基準。体重、走行距離、心拍数を計測し、全員が”ストロングポイント”発揮

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【©中島啓士郎】

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(本記事は前後編の後編)

高校生活最後の夏、いかに勝つか。多くのチームがそう照準を合わせるなか、重要になるのがピークを合わせることだ。

今春の選抜で2年連続の準優勝に輝いた報徳学園高校は「夏、日本一」と目標を掲げて取り組んできた。中島啓士郎トレーナーが語る。

「一般的にピーキングと聞いてイメージするのは負荷を減らすことだと思います。それはテーパリングのことで、1回当たりの練習時間を21%から40%くらいに徐々に減らしていくのがいいと言われています」

普段の練習では強度がしっかりかかっているかを把握し、試合期になるとテーパリングをうまく行ってリカバリーさせていく。その際に指標の一つになるのが「体重」だ。

「チームのコンディションは体重で管理している部分もあります。体重が減ると、コンディションが落ちるので。逆に体重が減っていなければ、練習強度に対して食事量もしっかり取れているということ。その辺を意識してもらうために、痩せていなくても『痩せた?』と聞いています(笑)」

エースで今秋のドラフト上位候補に挙がる今朝丸裕喜は昨夏に体重を4、5kg減らしたが、この1年で約8kgの増量に成功した。今年2月以降に限ると大きく変動していないものの、確かな成果が出ていると中島トレーナーは語る。

「去年の夏は現在のような取り組みができておらず、体重が落ちていました。こちらが言い続けることでプラスマイナスゼロには持っていけています」

報徳学園では体組成を定期的に計測してONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)のアプリに入力する一方、各選手の体重を表にして張り出している。

「アプリはいつでも見られるからこそ、逆に意外と見なかったりするからです。『アプリに放り込んだから見ておけよ』で済ませるのではなく、目につくように張り出しています」

【©中島啓士郎】

夏にピークを合わせるために

多くの高校野球部が最後の夏を最大の目標に据える一方、大会が近づくにつれてパフォーマンスを落としていくチームも少なくない。冬のオフシーズンが終わって練習試合が解禁されると、実戦の数が増えていくことがその要因につながりかねないと中島トレーナーは指摘する。

「試合ではエネルギーの消費も大きくなるので、試合が増えればどうしても体重は減りやすい。特に土日がキーです。遠征に行くと、補食がおろそかになりやすいので。普段の練習では補食があるけれど、練習試合に行くと個人任せになってうまくできなくなりがちです」

報徳学園では普段の練習中、米を炊いて補食にとる。それをふりかけで食べるだけでなく、プロテインやサラダチキンを持ってきてタンパク質を摂取しようと呼びかけている。

「体をつくる上で炭水化物は絶対的に必要です。そこをチームで確保しながら、タンパク質群をどうとっていくか。プロテインをとる選手はだいぶ増えています。個人負担ですが、チームを通じて業者に発注したら、送ってもらえるように環境を整えています」

野球選手に長距離走は必要か?

コンディショニングや強化のために、計測するのは体重ばかりではない。

試合中に運動量や心拍数はどれくらいになるのか。練習試合で計測し、普段の練習やトレーニングでも強度がしっかりかかっているかを見ていく。
野手の運動量や心拍数の計測には「Knows」(ノウズ)、投手陣の心拍数を測る際には「Polar」(ポラール)を使っている。練習試合で計測することで、練習でどの程度の強度を求めればいいかを可視化できるわけだ。

近年、「野球選手の練習に長距離走は必要か」というテーマが時折議題に上がる。試合中の運動量や心拍数を計測した上で、中島トレーナーは必要だと考えている。

「外野のセンターからベンチまで100mくらい距離があります。シンプルに言って1試合で18本。攻守交代は『急げ』と言われますよね。それなりの速度で18本走るだけで合計1800m走っています。それなのに練習中、『長距離はいらないから走らない』とすると、試合中に足がつる可能性がある。絶対に野球選手は走るべきです」

長距離走だけでなく、「一定のスプリントも担保しましょう」と中島トレーナーは指導者に伝えている。練習試合で走行距離を計測すると、ショートは4500m、外野手は4000m走っていた。ヒットを打つか否かでも変わり、多い選手は5940mだったこともある。

報徳学園では時速25km以上で走ることをスプリントと定義し、1試合のスプリント回数は平均7本程度だ。だが普段、打撃練習やポジション別のノックが中心の日は、ほとんどダッシュをしないまま1日のメニューが終わることもある。それでは練習と試合の負荷がかけ離れてしまうので、「走りましょう」とメニューに入れてもらう。

「試合でのスプリント回数を踏まえ、練習のメニューに結びつけています。Knowsでは切り返しの回数も出ますが、シートノックや技術練習を普通にしていたら必要な回数は担保できます。
一方、圧倒的に足りないのがスプリントの回数。心拍数も計測できますが、心拍数が高まる時間は試合より練習のほうが圧倒的に少ない。普段は息を切らさずに練習し、試合中に『ゼーゼーハーハー』となるとパフォーマンスも上がらないことも見えてきました。だから、『走りましょう。心拍数を上げましょう。ダッシュしましょう』と取り組んでいます」

練習試合で測定して必要な基準を明らかにする一方、同じ心拍数や走行距離を毎日の練習で必ずしも目指すわけではない。

「試合と同じ負荷を目指すと、技術練習に影響を及ぼすからです。ウエイトトレーニングに時間を削られる日もあるので、あくまで指標という位置づけですね。技術練習や投内連携で終わるに日には『プラスして走らせたいですね』と監督やコーチに伝えるなど、『走る理由はこれです』と示しています」

選手全員の良さを引き出す「フィジカル基準」

体重や走行距離など指標となる数値をもとに、選手個々をどう伸ばしていくか。報徳学園の特徴は「基準」をいくつか設けていることだ。

「チーム全体で体を大きくすることを目指して『全員4番打者』のようなチームもありますが、大角(健二)監督は『そういうのは絶対に嫌だ』という考え方です。チームとしてスクワットは『体重の2倍』を挙げられるようにしょうと目標を掲げつつ、それ以外の数値は個々に“ストロングポイント”を設けて測定しています」

以下が報徳学園の選手たちに求めているフィジカル基準だ。「体重」と「プロアジリティ」は必須項目で、ストングポイントは7項目ある。

野手のフィジカル基準 【©中島啓士郎】

以前は「日本一への基準」しかなかったが、現在地と理想がかけ離れすぎていた。それでは達成の現実味が薄いので、今は「スタンダード基準」を設けて取り組んでいる。1年生の冬季トレーニングが終わった際、全員がスタンダード基準をクリアしていようという位置づけだ。

「振り落とすためではなく、全員で乗り越えようという基準です」

ストロングポイントの7項目は「瞬発力」「パワー」「スピード」「筋力」で、そこから「自分の得意分野を3個つくろう」と伝えている。そう目指すことで大角監督の目指すチームづくりにつながると中島トレーナーは説明する。

「バントがうまい選手もいれば、足が速い選手、ホームランを打てる選手もいます。それなのに一律に『スクワットで体重の2倍を挙げろ』と求めれば、良さが消える可能性もあります。
必須項目は2分の2、ストロング項目は7分の3を達成したら、ユニフォームをもらう上で最低基準をクリアしていることになります。投手には別の基準がありますが、今朝丸も例外ではありません。そういう意味では指導者もリスクを負い、一緒に向き合って達成しようという基準です」

投手のフィジカル基準 【©中島啓士郎】

「全員デカくなればいいわけではないよね?」

スタンダード基準をクリアしたら、次は日本一への基準を目指す。中島トレーナーが続ける。

「かなり高い基準を打ち出しています。ベンチ入りの20人全員が何かしらの項目で日本一への基準を超えている集団になれば、いろんな長所の選手がいるということです。そういうチームは日本一になれるだろうと数値を出しています」

体づくりはすべての選手にとって不可欠になる一方、大角監督の意思をくみながらどう強化していけるか。過去のアプローチでは目標の「夏、日本一」にたどり着けないと感じ、中島トレーナーは数値の基準を細く出すようにした。

「大角監督から『全員がデカくなればいいわけではないよね?』と言われ、『それならこうしましょう』と取り組んでいます。ワンタップスポーツの使い方と同じように、どうすればチームのやり方に合うのかと考えていくことが重要だと思います」

目標は「夏、日本一」。報徳学園は高い理想を掲げ、どうすればそこにたどり着けるかとアプローチを続けている。



(文・中島大輔、写真提供・中島啓士郎)
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