【ONE TAP SPORTS活用法4回(前編)】報徳学園が勝利と育成を両立するための“指標”。「チームにあった使い方をいかに現場でつくっていけるか」
【©中島啓士郎】
だが、練習環境は必ずしも恵まれているわけではない。縦80メートル、横180メートルほどのグラウンドはサッカー部やラグビー部らとの共用だ。そんな中で毎年のように成果を出している裏には理由がある。その一つがトレーニングだ。
「トレーニングにはいろんなメニューがありますが、大事なのは年間通してやり続けること。学生スポーツは『どんなトレーニングをするか』ではなく、『同じことをどうコントロールしながらチームに落とし込んでいくか』が大事だと思います」
そう語るのは中島啓士郎トレーナーだ。アスレティックトレーナーである同氏は2022年4月から報徳学園を担当している。
報徳学園では以前、ウエイトトレーニングは「今日は時間があるからしようか」という具合だった。それが中島トレーナーが着任後、1週間単位でメニューを発表して継続的に行う形に変えた。平日は16時から20時までの練習中、打撃や守備のメニューをこなす中でトレーニングの時間も設けられている。
以下の表が具体例だ。
通常時期のトレーニングメニュー 【©中島啓士郎】
リカバリー&強度のコントロール
「たとえ練習時間を短くしたとしても、体を休める日がないとリカバリーにならないと思います。僕が就任したときに初めて冬季トレーニングを行いましたが、その期間もオフをしっかり取りましょうと伝えました。最近は習慣化され、大会期間中も休みをしっかり取りながら試合に臨む。スケジュールの組み方でも勝ちにいきます」
通常のシーズンは6勤1休が基本だが、冬季トレーニングの期間になると4勤1休に変わる。休みが増える中で選手たちに求めるのが、トレーニングの強度を上げることだ。
「冬に休みが増える理由は、“4日間”という同じ時間にトレーニングの負荷を上げて取り組んでもらうためです。時間的には通常シーズンより運動強度が下がっているので、通常と同じように取り組むと“ただ休みが増えている”ことになる。選手たちには『4勤の密度を上げないと成立しないよ』と話しています」
冬期間のトレーニングメニュー 【©中島啓士郎】
勝つために“当たり前”のこと
その一つがONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)だ。2022年秋の新チームから使用している。
「チームとして勝つために当たり前のこととして、『自分のコンディションを毎日アプリで提出し続けよう』と教育しています。
例えば睡眠時間のデータも蓄積されていくので、選手に会ったときに『睡眠、足りてないやん?』と一緒に振り返りをできる。ウエイトトレーニングの測定値や体重など、採取したデータは全部アプリに入れていきます。病院で言うカルテを3年間かけてつくるイメージですね」
過去の連載で見てきたようにワンタップスポーツはさまざまなデータを蓄積でき、新たな機能も次々と開発されている。その中でうまく使いこなすには、「自分のチームに合った使い方をすることが大事」と中島トレーナーは言う。
例えば体重や睡眠時間、疲労度を毎日入力することで、選手たちは自分のコンディションに敏感になる。そうして指導者とも会話が深まっていくと中島トレーナーは考えている。
「チームに一つの指標ができ、共通言語ができていくようなイメージです。『最近調子悪いやん?この数値が落ちているけど、どうしたの?』という会話にもなるので、コミュニケーションがしやすくなります」
指標が見えることで会話が生まれやすくなる 【©中島啓士郎】
報徳学園流の使い方
「本人の感覚と、こちらで設定しているトレーニングの強度にすごく差があるように感じます。例えば『全力でダッシュしよう』と言っても、7割でしか走らない選手もいる。その場合、こちらが求める強度をやっていないから、それだけの負荷はかかっていません。むしろ運動による疲労のほうが気になり、体づくりが上がってこない。やってみた結果、そう感じています」
100人以上の野球部員が在籍する報徳学園では、トレーナーが全員のRPEを管理すると労力も大きい。加えて日々のメニューによってもかかる負荷が異なるなか、選手個々の主観で入力するとブレが出やすい。中島トレーナーは使ってみた結果、そう判断した。
「ワンタップスポーツにはさまざまな機能があるので、いかにチームに合う形で落とし込んでいくか。報徳学園の状況を踏まえた使い方をしていますが、例えば人数が少ない高校ならRPEの管理もしやすいでしょう。ワンタップを使うカギは、チームにあった使い方をいかに現場の人たちでつくっていけるかだと思います」
テクノロジーはあくまでツールだ。どのようにチームに落とし込み、強化に結びつけていくか。その使用法こそ、選手たちを成長させるためのポイントになる。
【©中島啓士郎】
(文・中島大輔、写真提供・中島啓士郎)
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