【浦和レッズ】まるで役作りに魂を注ぐ俳優のよう…中島翔哉が語るサッカー観「僕は言い方や間、抑揚を大事にしたい」
【©URAWA REDS】
だから、ストレートにぶつけてみようと思った。
あなたがサッカーをするうえで、もっとも大切にしていることは何ですか、と——。
中島翔哉は澱むことなく、即答した。
「楽しくやることです」
きっと、そう答えてくれるであろうことは分かっていた。彼はことあるごとに、「楽しむこと」を大事にしていると、語っていたからだ。
【©URAWA REDS】
ならば、彼が大切にしている「楽しく」を、もっと深く知りたい。そう思った。
「ずっとってわけじゃないんですけどね。でも、楽しくサッカーをしているときのほうが、結果もすごくいいし、プレー自体もいい。
一例ですけど、闘うことに重きを置いてサッカーをしている選手もいるじゃないですか。僕の場合は、その楽しむバージョン。闘うと楽しむでは、勝つためのアプローチは違いますけど、目的は一緒。ただ、僕の場合は勝つためだけにサッカーをやっているわけではないですけど」
思わず、深くうなずいていた。闘うと楽しむは、対極にあるように感じるが、目指す先、つかもうとする未来は同じだ。試合に勝つためにある。
中島もまた、当初から楽しむことを信条にしていたわけではなかった。
「そう思えるようになったのは妻と知り合ってからです。16歳からの付き合いになるのですが、彼女がいなかったら、僕は日本代表にも選ばれていなかったと思うし、海外でもそんなに長くはプレーできなかったと思いますし、そもそも海外に行っていたかどうかも分からない」
【©URAWA REDS】
「身の回りのサポートをしてもらえることもありますが、一番は精神的に支えてもらっています。これも例えばですけど、ポルティモネンセSCは、ホームゲームのときにホテルに前泊することがなかったのですが、試合の前日も家族と一緒に過ごせたほうが、自分のパフォーマンスや調子もいい。だから、アウェイに行くと、ホテルに前泊しなければならないので活躍できない、みたいなことがありました」
結果を見てもらえれば分かるというので、当時の記録を遡ってみた。確かにゴールだけを見ても、ポルティモネンセでは、リーグでマークした16得点のうち11得点がホームだった。
何より、サッカーを楽しむことを信条にするきっかけを与えてくれたのが妻だった。
「(何を話したか、何を言われたかを)言葉にすると(印象が変わって)伝わってしまう可能性もあるので、自分の心のなかだけに留めておきたいんです。でも、彼女と付き合う前と付き合ったあとでは、『別人だ』とよく言われます。
確かに、サッカーを始めたばかりのころは、楽しむ気持ちがあったかもしれないけど、ずっとのびのびとサッカーするのって、意外と難しいじゃないですか。だから、僕自身も純粋にサッカーを楽しんでこられたわけじゃない。でも、もともと、うまくなることが好きだったので、その性格がサッカーに向いていたんだと思います」
【©URAWA REDS】
「もともとは負けたあとはすごい悔しがっていたように、(サッカーをしている以上)勝ち負けがすごく大事なことは分かっていますし、ゲームなので勝つことは目指さなければいけないとも思っています。だから、それ(勝つこと)ももちろん目指していますけど、(一方で)それだけだとつまらなくなってしまうので、上達したり、昨日より少しでもここがよくなった、うまくなったというのを大事にしたいと思っています。
まずもって、勝敗がつかなければゲームとして成立もしないですし、そこがより上達するための材料にもなっている。勝ちとか、負けとか、成功とか、失敗とかも……」
昨日の自分よりも一歩でも、1ミリでもうまくなるために、試合の勝敗や結果もある。楽しんでいる一方で、自分を磨き続けようとするその姿勢は、ストイックに映る。
【©URAWA REDS】
「楽しんでいるなって思っているときは、実は楽しんでいないんです。頭のなかで考えて楽しむのと、身体から自然と湧き出てくる楽しむでは全然違うので。微妙なニュアンスの違いですけど、伝わりますか?」
インタビューを始めて数分で、中島の世界観に引き込まれていた。
「自分がサッカーをやっているときは楽しいという感じではないんです。むしろ、周りの人が僕を見たときに、楽しそうだなとか、楽しんでいるなって思ってもらえたらいい。サッカーをやっている子どもたちにも、その楽しさを大事にしてほしいなって思います」
同時に、彼が自分のおもいや考え、その真意を正確に伝えようと、丁寧に言葉を紡ぎ出してくれる姿勢も感じ取っていた。
「だから」と言って、中島は言葉を続ける。
「無になっているっていうか、寝食を忘れて没頭しているみたいな感じです。そうなれれば、どこにいても、どこであっても、いいプレーができると思っています」
【©URAWA REDS】
「日々の体調も変わるように、毎日思うこと、考えることも変わってくるので、そこをなるべく大事にしようと思っています。それと同時に楽しむことも変わっていくので、そこをちゃんと自分自身が見えるようにしています。楽しむっていうか、やっぱり、毎日、上達したいんですよね。それはサッカーだけに限ったことではなく、毎日、ひとつは新しい発見をしたいというか」
それは、彼なりの「楽しく」の極意でもある。
「何を発見しているとかは、まだ発展途上だし、試行錯誤している途中なので明かすことはできないですけど、試合でも『試みる』ことは大事だと思っています。何ごとも、試すのって勇気がいることですからね。ただ、僕は失敗してもいいからと思ってチャレンジすることはない。成功させるためにというか、成功させたいから試しています」
【©URAWA REDS】
確実に出場機会を増やしているように、彼自身のコンディションが上がってきているように感じたからだ。
「昨季と比べたら上がってきていますけど、ここ何試合かは、どこか身体に違和感があったりして、セーブしながらやっているところもあります。そこでまた、自分の身体についても、いろいろと試したりしています。
僕の場合、これでいいだろうと、守りに入ってしまうと、プレーもよくないというか、アンパイになってしまう。だから、いろいろと試し続けているというか、試すのが好きというのもあると思います」
さらに欲が出て、戦術についてどう考えているかを聞いた。彼が先発出場するようになり、今季の浦和レッズの攻撃が活性化しているのは周知の事実だろう。スタートポジションである左サイドだけでなく、中央や逆サイドにも顔を出すことで、明らかに変化を生み出している。一見、自由に見える中島の動きは、周りにも判断材料を与え、好影響をもたらしている。
【©URAWA REDS】
これはサッカーをやっている子どもたちに言いたいことでもあります。指導者やコーチはすごく参考になることを、たくさん言ってくれますが、ときには自分の感覚を大事にしたほうがいいときもある。その感覚も大事にしてほしいんですよね。だから、僕は戦術練習やセットプレーの練習も含めて、練習は真剣に取り組みますけど、試合前にそれを1回、取っ払うんです」
そして中島は、役者を例に挙げた。
「台本があって、セリフがあって、話の流れは決まっているんですけど、役者の人は、演じるときの空気感も大事にしていますよね。決まったセリフをただ言うだけでは、きっと棒読みになってしまう。僕はその棒読みが嫌いなんです。言い方とか間、それこそ抑揚を大事にしたい」
【©URAWA REDS】
「だから今季、明らかに他のウイングの選手とは違う動きをしていますけど、そこで僕が作った穴をチームメートが埋めてくれるし、そのスペースを生かしてもくれる。それがいわゆるコンビネーションだと思っています。誰かが動けば、誰かがその穴を埋めなければいけないから、そこに動きが生まれますよね。
動く自由もあれば、動かない自由もあるので、良い悪いまでは僕には分からない。サッカーではチームプレーやチーム戦術も大事にしなければいけないですけど、ピッチで感じたことをすぐに行動に移すことも大事なんじゃないかなって」
彼自身は決して頷くことはないだろうが、彼を中心にして、今季の浦和レッズが多彩な攻撃を見せているゆえんだろう。
「チームとしての戦術は大事ですけど、選手が作為的に作り出したコンビネーションは相手も察知しやすい一面があります。むしろ、自然発生的なコンビネーションが生まれるために練習があるし、練習をしているからそのコンビネーションは行き当たりばったりではなくなる。こう動いたら、こう動くといった狙いどおりの攻撃もおもしろいですけど、それとは違うことをやって生まれる攻撃もサッカーのおもしろさだと思っています」
【©URAWA REDS】
そして浦和レッズの背番号10という、選ばれた者だけが演じることを託された役を全うするため、彼は間や抑揚、アドリブといったさまざまな手法を駆使して、浦和レッズのために埼玉スタジアムという大きな舞台を駆けている。
ファン・サポーターはそのスタンドから、ピッチというステージを無心で舞う彼の姿を堪能する。そこには浦和レッズのために走る彼の姿と、きっと、彼自身が追い求める楽しさもある。
(取材・文/原田大輔)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ