濃野公人が行き詰まったときに見返す「最高潮のとき」。自らの域を逸脱したことで得られたものとは。

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 行き詰まったとき、初心に立ち返ることにしている。
 鹿島アントラーズの濃野公人にとって、いつも見返す試合がある。

 2023年3月1日。大学サッカーの地域別対抗戦「デンソーカップチャレンジサッカー」、関西選抜の一員として関東選抜と戦った試合。大学1年の濃野は右サイドバックでフル出場した。Jクラブのスカウトが集まる大会で、アントラーズのスカウトも見に来ていた。

「正直、関東選抜Bとの試合はこれまでで一番体が切れていて最高潮だった。うまくいかないときは、今でも見返す試合です。体も切れていたし、どんどん上下動をして、スペースに走り込んでいくプレーをたくさんして、すごく動けていた。それでいうと、プロになってからは(そんなプレーが)少なかったなって。できていた頃の自分に持っていかないといけない、という気持ちになるんです」

 2024シーズン、アントラーズの大卒新人としては1993年の秋田豊、奥野僚右以来の開幕スタメンを飾った。スタートから奪った右サイドバックのポジションで出場を重ねて、これまでリーグ戦7試合連続出場中だ。「緊張はするけど、プレーには影響しないタイプ」と、自己分析していたつもりだった。プロの舞台に慣れ始め、公式戦3試合を終えたタイミングで、スカウトの椎本邦一にこんな声をかけられた。

「大学のときは、もっと行ってたぞ」

 “確かに”と納得した。プロの舞台は一瞬でも気を抜けばやられてしまう。その緊張感から、自分のプレーに変化があったことを自覚していた。

「プロの世界ではやられたくないという気持ちが強くなるほど、自分のマークを置いて前に飛び出していくことに躊躇しているところがあった。でも、やっぱり出ていくことが大事やなって思えて、見つけたスペースとか、チャンスだと思ったらどんどん入っていくことを意識するようにしたんです」

【©KASHIMA ANTLERS】

意識の変化が生んだ、「自分の域を超えたプレー」

 意識の変化を、早速ピッチ上で表現した。

 2024明治安田J1リーグ第5節、3月30日のジュビロ磐田戦。前半7分、ペナルティエリア内のポケットをとった濃野は、右サイド名古新太郎からのパスをヒールで落とすとチャブリッチが右足を振り抜き、あと一歩のところまでゴールに迫った。

「チームとしてもやりたいことで、自分がポケットを取って、落ち着いて周りがよく見えていた。ゴール前に侵入していく回数を増やしたり、少しの意識を変えたら、その後もアシスト寸前の展開まで持っていけるシーンを多く作れるようになったんです。川崎フロンターレ戦での名古くんへのクロスもそう。あと一歩のところまで来ているなという感触があります」

 意識を変えた直近4試合のプレーに手応えを感じている。

「ここ4試合は、僕のなかでアシストがつきそうなプレーが何個か出てきている。それも自分の域から逸脱しているというか、イメージよりも一歩先のプレーをしたときに、“今のアシストにしてほしかったな”というプレーになっている。そういったプレーが試合を重ねるごとに、どんどん増えてきている印象です」

 手応えとともに、まだ足りないとピッチ上で感じる部分もある。
 チームメートからの“信頼”だ。

「やっぱり信頼してもらうことが大事かなと思っています。大学時代は、たくさんボールが出てきていたので、数打ちゃ当たるという感じでよく点を取れていました。それでいうと、やっぱりまだまだ信頼されていない。自分にボールが出てくる回数がまだまだ少ない。僕はポケットを取りに行くことを得意としているんですが、そこに走り込んでもボールが出てこない。自分がほしかったボールと違ったりすることが結構あるんです。そこはすり合わせや信頼関係をもっと築いていかないといけないと思っています」

 その信頼を得るために、必要なことは分かっている。

「結果を残すことが必要かなと。少ないチャンスのなかでも、アシストはもちろん得点という結果を出していくことが大事やと思うんです。きっと信頼されれば、ボールが出てくるようになって、さらにどんどん広がっていくかなと思っています」

「プロ入りして一番の衝撃はブラジル人との対峙でした」濃野公人 【©KASHIMA ANTLERS】

鈴木優磨の言葉が導いた、次なる選手像へのチャレンジ。

 先輩たちにかわいがられ、よくご飯にも連れていってもらっている。特に鈴木優磨にはお世話になっているが、そのときに言われた言葉を胸に、今と向き合っている。

「優磨君(鈴木選手)と話しているときに、“内田篤人さんとか西大伍さんは一人で守れていた”という話をされて。味方の前の選手をうまく使って、中盤の選手を下げさせず攻め残りの状況を作るということですね。『今のお前に求めるのは違うかもしれないけど、そこにチャレンジしていくことは大事』という話をしてもらったんです。それも間違いないなと思って。僕がうまくサイドで守備ができていないから、攻撃に出て行く力が残っていないことにもつながると思うので、そこの守備の精度、IQを高めていくことが大事だなと思いました」

 前線の選手を前に置くことができれば、相手陣営も下げざるを得なくなる。全体の比重を前にできれば、攻撃のときにより力を注ぐことができる。攻撃においての変化は、椎本スカウトの指摘とともに、鈴木優磨の助言も影響していた。

「あとは、“サイドバックだろうがエゴを出すべきだ”と言ってもらって。『智也君(藤井選手)が攻め込んだあとに、フリーでもらってシュートまでいけ。周りに合わせて、3人目の動きで出ていくだけじゃなくて、そういうダイナミックなプレーをサイドバックでも出していかないと上にはいけない』と。自分の域を超えたプレーをやり続けることが必要なんだと実感しているところです」

 もともと、サイドハーフとの関係性をうまく利用してサイドを打開していくことを得意としてきた。それはプロの世界でも通用していると実感できている。

「スペースを見つけて飛び出していくところは、自分にボールが出なかったとしても、相手のバランスを崩すとか、誰かをフリーにさせるのはうまくできている印象で、そこは続けていきたい。あとは守備の部分で失点が多い。DFの選手としては、失点させないという部分でまだ課題が残ります。クロス対応や、そもそもクロスを上げさせないとか、味方を使ってしっかり守備するとか、やっぱりまだまだ足りない」

【©KASHIMA ANTLERS】

自らの成長がチームの成長に。その責任と使命感を胸に。

 プロに慣れて持ち味を出せるようになってきた。ただ、そこにとどまる気はない。

「今はチャンスをいただいて出られてますが、今のままではただ試合に出ている選手で終わってしまう。これからはもっと結果にこだわっていかないといけない。結果を出せなければ、チームも強くなっていかないし、個人としての成長もないと思っています。チャンスをもらって試合に出させてもらっている以上、結果にこだわるべきだなと感じています」

 4月13日(土)、カシマスタジアムで京都サンガF.C.を相手に迎える。濃野にとって、プロ8試合目。開幕から3試合でプロの舞台に慣れ、次の4試合できっかけと手応えをつかんで臨む、次のタームへの一戦となる。

「アントラーズには日本を代表するような選手がたくさんいます。Jリーグのなかでも戦力としては上位にいる方だと思うし、優勝も狙えると思うので、そのなかで自分一人が見劣りしているのは良くない。みんなと肩を並べていくことが、アントラーズが強くなるポイントだなとめちゃくちゃ感じています。自分の成長がチームの成長につながるはずなので、その責任とか使命感みたいなものがあります。自らの成長を今まで以上に感じながら、いろいろなプレーに挑戦していきたいと思っています」

 プロ1年目でつかんだチャンス。目に見える結果を残し、さらなるチャンスを得続けることで、濃野は次なる姿を目指している。自分の域から逸脱した、イメージより一歩先のプレーを常に目指し、自身の成長を貪欲に追い求める。

【©KASHIMA ANTLERS】

  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント