「MATCH DAY」に見せる、映像美よりもこだわった“アントラーズならでは”の意図とは。

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 再生回数80万回。
 2024年1月に開催されたアジアカップで日本代表を密着した、ある動画1本の再生回数だ。

 日本代表を密着する動画、「TEAM CAM」。およそ月に一度ある代表活動で、ピッチ内外における代表選手たちの様子をおさめる動画が注目を集めている。世界を相手に一丸となって戦う姿と、ピッチ外での選手同士のやり取りは、まさにチームの裏側を捉え、選手の人となりが分かることで好評を博している。その影響もあってか、Jリーグの各クラブがSNSを含めて動画をはじめとしたコンテンツに力を入れるようになった。

「クラブが発出するクリエイティブがクラブの直接的な印象につながり、ある意味で名刺代わりになっている」

 そう感じながら、鹿島アントラーズYouTubeチャンネルの企画の一つである「MATCHDAY」コンテンツについて、クラブスタッフは頭をひねった。

「MATCH DAY」とは?

 「MATCHDAY」。
 アントラーズのYouTubeチャンネル内の企画の一つだ。試合日のハイライトを中心に、チームの裏側を交えて伝えるコンテンツとして、2023シーズンから配信がスタートした。公式戦は勝利時のみの配信で統一し、ロッカー映像、試合ハイライト映像に加えて、広報スタッフが撮影する映像として、スタジアム入り、ウォーミングアップ、試合直後のベンチや選手表情、選手インタビューをまとめたものだ。

 1シーズンを通した配信を終えて、今後どうしていくのか。クラブ内で大いに議論された。テーマは「アントラーズとして、どう表現するのか」。他チームのそれとは一線を画す、アントラーズならではの意図があった。

「2023シーズンよりもクオリティを追求していくとともに、シーズンを通してチームのストーリーを描いていくこと。日々サポートしてくださっている方、何らかのキッカケでアントラーズに興味を持ってくださった方にも、ピッチの臨場感やスタジアムの熱量をダイレクトにお届けし、もっと熱くなってほしい。もっとフットボールにのめり込んでほしい」

【©KASHIMA ANTLERS】

2024シーズン、新たに加えた方向性

 届けたい思いの方向性を明確に定め、2024シーズンが始まった。昨シーズンから変更した方向性は大きく4点ある。
・通年でのストーリーテリングによる没入感の創出
・専任カメラマンの起用
・毎試合配信
・映像クオリティ向上

 撮影時に大事にすることは、“クラブのブランド力”、“昔からある空気”、そして“勝負に対する本気度”だ。スキを見せないプロの感覚やこだわり。まずそこを示さないと、クラブとサポーターの間にズレが出てしまうという危機感が根底にあった。

「クラブポリシーである、1試合にかける熱量と真剣さ。ヒリヒリした毎試合のチームの覚悟を、映像を通じて伝えたい」

 2024シーズン、プレシーズンマッチの水戸ホーリーホック戦をエピソード0、リーグ開幕の名古屋グランパス戦でエピソード1として配信をスタートさせた。

音へのこだわり

 名古屋グランパス戦を描いたエピソード1では、オープニングテーマ曲として30秒の音を乗せている。カッコいいものというよりは、アントラーズのチャントが活きる曲を合わせて挿入した。

「アントラーズサポーターが奏でる応援チャントにも、伝統が息づいています。そこを今一度、世にブランディングしていく意図があります。目でも耳でもサポーターが大事にしているチャントを出していきたい」

 音へのこだわりを、アントラーズ愛として詰め込んだ。
 クラブの方針として、YouTubeをファンベース拡大のためのものとして位置付けている。前提知識がなくても楽しめるチャンネルを目指すなか、そのなかにアントラーズの伝統を今の形にして表現していこうという意図だ。

【©KASHIMA ANTLERS】

映像視点のこだわり

 昨年からの変更点として、ピッチ上の視点がある。これまでは中継カメラ映像を活用していたことから、ハイライト映像に近いものだった。映像のうち、主に85%ほどがスタジアム上部から俯瞰の視点で表現されていた。今年はまた違った見せ方としている。

 選手が見せるピッチ上での頑張り、ピッチ上で体を張って激しく戦っている姿。
 アントラーズとは、まずピッチ上で選手たちが戦う姿に本質がある。そのありのままを見せたい。ドキュメンタリーはじめ、チームのバックステージを表現することで惹きつけるのが王道だが、そこを主としない。

 それこそが、アントラーズらしさ。

 一戦にかける真剣さ、そして勝利への熱量を表現していくことを目指す。シーズン中には良くない結果を迎えることもあるだろう。それでも、ピッチ上の感情はなるべく削ぎ落とさず表現するつもりだ。

アントラーズサポーターとともに

 そして、何よりこだわるのは、ともに戦うアントラーズサポーターの勇姿だ。

 試合にかける意気込み、ゴール裏で見せる熱量。あらゆる角度から表現することで、ともにタイトルへ向かうストーリーの主役の一人として構成される。

 今やインターネット上で自由に個人の意見を発出できる時代になった。コメントオフにすべきという意見もあるかもしれない。負けた試合は流さなければいいのではないかという考えもあるだろう。そんな時代でも、真摯に向き合うべきだと考えている。いくら万全に準備をしていても、実際はそのときになってみないと分からないことが多い。それがフットボールの世界でもある。

 ただ、アントラーズは優勝を普遍の目標として掲げているクラブだ。

「サポーターの皆さんにも、ダメなものがあればはっきりダメと批判してほしい。臭いものに蓋をするのは簡単ですが、サポーターなど見てくれている人たちもお金と時間を使って支えてくれている。クラブとしても、勝ったときはもちろん負けたときでも、伝えられること、そのときしか撮れないものを表現することで、よりコミュニケーションしていく姿勢を出していきたいと考えています。ともに歩めば、一緒になってチームを支えてくれると信じて」

 アントラーズの「MATCHDAY」は、新たなスタートを切った。

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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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