【浦和レッズ】「これからは心の底からお前がいるチームを応援できる」という父親の言葉が物語る…渡邊凌磨のレッズ愛
【©URAWA REDS】
サッカーを始めた幼いころから、ずっと自分を応援してくれている父親は、いつもそう言っていた。
だが、自分にも赤き血が流れているように、父親にも同じ赤き血がほとばしっていることは分かっていた。自分にその血が流れているのは、父が導き、いざなってくれたからだ。
だから期待させることなく、すべてが決まってから直接、自分の言葉で伝えたかった。
シーズンオフに入ったある日、父親を食事に誘うと、面と向かって言った。
「俺、浦和レッズでプレーすることになったよ」
堪えきれず、涙を流しながら父は言葉を絞り出した。
「今まで、どのチームでプレーしていても応援するって言っていたけど、これからは心の底からお前がいるチームを応援できるようになったな」
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「父親もサッカーをやっていたこともあって、自分も物心がついたときにはサッカーをやっていて、家族が応援しているから、自然と自分も浦和レッズを応援するようになっていました」
小学生のときには浦和レッズハートフルスクールに通った。家族や友人と埼玉スタジアムに足を運んだ機会も数え切れない。
「エメルソンや(田中マルクス)闘莉王さんが活躍していた時代は、埼玉スタジアムに試合を見に行く機会も多かったので、特に熱心に応援していました。あと、僕の地元・埼玉県東松山市に、岩鼻運動公園という場所があるんですけど、そこで浦和レッズが練習試合をしたことがあったんです。
そのときには、自転車を漕いで見に行き、頑張って闘莉王さんにサインをもらおうとしたんですけど、もらえなかった記憶も、いい思い出として残っています」
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インゴルシュタットでは、チームメートとして再会する関根貴大と出会った。
「タカくん(関根)には、ドイツでもお世話になりましたし、浦和レッズのことをたくさん聞きました。それこそ当時からタカくんには、『自分は浦和レッズでプレーしたいんです』と、伝えていました。
自分のなかでタカくんは、目標とは違って、サッカー選手としてこういう生き方をしたいなと思う象徴そのものだった。浦和レッズでプレーして、浦和レッズのファン・サポーターに愛され、浦和レッズで活躍する。自分もそんな選手になりたいなって」
目標や憧れではなく、象徴という言葉を用いたところに、渡邊が描く未来がある。
「3年間を過ごしたドイツから日本に帰国するときに考えたことがあって。J2リーグのクラブからJ1リーグのクラブへ移籍できることになったとき、その最初のステップアップが、浦和レッズになるのは、自分のなかでは嫌だったというか、納得できなかった。
J1リーグで活躍して、選手として認められて、浦和レッズに来たかった。だから、すべては浦和レッズで活躍するために、僕は自分のキャリアを、ストーリーを描いてきたんです」
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「FC東京への感謝やおもいもあったので、移籍を決意する際には、もちろん悩みました。でも、浦和レッズでプレーすることを思い描いて、ここまでステップアップしてきたので、ここで断ったら、ここまでの歩みや人生そのものを後悔すると思いました」
ペア マティアス ヘグモ監督が就任した今季の浦和レッズに加わった渡邊は今、新境地に挑んでいる。ポジションは左サイドバック。昨季のリーグ開幕戦で、浦和レッズはゴールを許したように、FC東京時代も含めて攻撃的な選手として知られていた、それだけにサイドバックへの転向は、少なからず驚きがあった。
「沖縄トレーニングキャンプ初日のミーティングで、左サイドバックの位置に自分の名前が書いたマグネットが貼ってありました。僕自身は、FC東京時代にもキャンプからサイドバックをやった経験があったので、それほど驚かなかったですけど、むしろ周りのほうが『えっ?』ってなっていたように思います」
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「今までは、自分自身が成長することに重きをおいて選んだチームだったので、自分の力が生きるポジションでプレーしたいという考えがありました。でも、浦和レッズでは個人の成長というよりも、このチームが勝つために闘いたいというおもいなので、チームのためになるのであれば、どのポジションでも構わないという考えになっています」
腑に落ちると同時に、その考えやおもいは理解できる。そこには27歳と、年齢を重ねてきた背景もあるのだろう。
「FC東京時代にサイドバックをやったときは、自分自身が『できる』という実感を得ることができなかった。当初はその怖さがあったんですけど、浦和レッズでは、守備のやり方もはっきりしているし、明確な戦術があるうえで自分のプレーを考えられているので、不安よりも、日に日に自信は増しています。横にマリウス(ホイブラーテン)がいる安心感や頼もしさも大きいかもしれません」
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ここまでも、すでに幾度の試行錯誤とトライ&エラーを繰り返してきた。
「相手のセンターバックやボランチがボールを持って前を向いた瞬間のポジショニングや身体の向き、あとはバックステップを踏むタイミングをつかむまでに時間がかかりました。2列目はボールを奪い切ろうとする守備でもよかったのが、サイドバックは一発でかわされてしまうと、失点につながるリスクもある。そうした危機察知能力や予測、守備における優先順位も徐々に理解してきました」
マリウスやアレクサンダー ショルツとドイツ語でコミュニケーションが図れることも、吸収と成長を早めている。ドイツでの生活も、この日のためにあったのではないかと憶測してしまう。
守備について真っ先に語ったようにプレーも脳内もサイドバックらしくなってきた。それでも、渡邊の魅力は攻撃にある。
「自分は運動量にも自信があるので、縦に攻撃する回数やクロスを上げる回数、ボールを奪われないプレーで、特長は生かせると思っています。ポジションはサイドバックですけど、先日のトレーニングマッチでファーストシュートを打ったのは自分でした。だから、攻撃にも顔を出して、頑張ってゴールも決めたいと思います」
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「自分が思い描いていたキャリアを、有言実行するなんてすごいね」
渡邊は「本当にそう思ってくれているかは分からないですけどね」と照れ笑いを浮かべたが、目指してきた道に辿り着いた今、その目標は更新された。
「浦和レッズが2006年以降、獲得していないリーグタイトルを獲りたい気持ちは強いです。あのときの自分は見ている側でしたけど、今の自分はピッチのなかで、そこに貢献できるし、達成できる。
自分はできることなら、浦和レッズで選手を終わりたい。そのために、浦和レッズでどれだけ長くプレーすることができるか、ここで成長して成功できるか。だからこそ、ここで爪跡を残して確かな軌跡を残したいんです」
練習試合とはいえ、エンブレムが縫われたユニフォームに袖を通しただけでも、感動を覚えた。
「リーグ初戦はアウェイのサンフレッチェ広島戦で、その試合も楽しみですけど、埼玉スタジアムでプレーできる東京ヴェルディとのホーム開幕戦は、自分にとって特別な日になると思っています」
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「埼玉スタジアムで試合を見たとき、子どもながらに、プロサッカー選手って自分のためだけではなく、応援してくれるファン・サポーターのために闘うこともあるんだろうなって感じたんです。
まだ、リーグが開幕する前ですけど、キャンプ地や練習場で、そのことを実感したし、チーム一丸になるって、選手だけでなく、ファン・サポーターも含めたみんなのことを指しているんだろうなって改めて感じて。幼少の記憶を思い出しました。そう考えたら、負けは許されないし、負けていい試合なんて一つもないですよね」
リーグ開幕戦に勝利して、浦和レッズのユニフォームを着て埼玉スタジアムのピッチに立つ。きっとホームでの勝利は格別だろう。その歓喜の声のなかには、心の底から浦和レッズを応援できるようになった、あの人もいるはずだ。
(取材・文/原田大輔)
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