【東京ヴェルディ】勝利に導く「新たな風」は俺たちだ! 山田裕翔はウイークに目を向け“余白”を埋める

東京ヴェルディ
チーム・協会

【©TOKYO VERDY】

重い扉が開かれた

 2023年12月2日、”聖地”国立競技場を舞台に行われたJ1昇格プレーオフ決勝。東京ヴェルディが対するのは、1992年、93年とJリーグ創世記にJリーグヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)の決勝でタイトルを争った清水エスパルス。同じスタジアムで、まさに生と死をかけた戦いとなった。

 張り詰めた緊張感の中で行われた試合は、意外な形から均衡が破れた。東京Vのキャプテンを務める森田晃樹がペナルティエリア内でハンドの反則を取られ、清水にPKが与えられる。63分、このPKを2022年のJ1得点王チアゴ サンタナが決め、重すぎるビハインドを負うことになった。

 残り30分ほど。刻々と時間が過ぎる中、アディショナルタイムも3分を過ぎたところだった。ディフェンスの裏に抜け出した染野唯月がボックス内に侵入すると、慌てて対応した清水DFがスライディングタックルで止める。ここでスタジアムに鳴り響く高い笛の音。VARが入っても判定は変わらず東京Vに千載一遇のチャンスが訪れた。PKのキッカーは染野。ゆっくりと時間を取り、ゴール右に叩き込んだ。これでスコアは1‐1。大会の規定で、J2リーグで上位だった東京VがJ1 昇格の切符をつかんだ。

誰よりも熱く戦う

【©TOKYO VERDY】

 1969年の創立から日本サッカーをけん引してきた東京Vが16年ぶりにトップカテゴリーに戻ってくる。その一つのカギとなったのは、高い守備力であったことに異論はないだろう。23年のレギュラーシーズン、東京VはJ2 最少失点という鉄壁の守備を誇った。

 そしてこのディフェンスラインに今季新たに加わるのが山田裕翔だ。大宮アルディージャのアカデミーから正智深谷高校、国士舘大学を経て今季東京Vに加入した。対人やヘディングには絶対的な強さを誇り、大学4年次にはキャプテンを務めるなどリーダーシップもある。

 今季の東京Vの新体制発表会見。東京Vは山田裕を含む新加入選手13名(中村圭佑は日本代表のトレーニングパートナーに選出されていたため欠席)が並び、自己紹介では「ヴェルディの勝利に貢献し、誰よりも熱く戦いますので皆さま応援よろしくお願いします」と語る。集まった報道陣から「大事にしていることは?」という質問に対しても「自分は上手い選手でもないですし、下から這い上がってきたので、諦めない姿勢を大事にしています。サッカーのところでも、それ以外のピッチ外のところでも共通して言えることなので、諦めない姿勢を常に持ち続けて頑張りたいと思います」と、やはり精神面を強調していたのが印象的だった。

 大学時代、サイン色紙に「雑草魂」という言葉を添えていたこともある。

「自分に合っている言葉なのかなって。自分の過去を振り返れば、大学3年時と4年時には全日本(大学選抜)に選ばれたんですけど、そんなに代表経歴もなかったりとか。それに至るまでにも、大学1年の時も2年生の時も苦しんで、下から這い上がってきたので。そういう意味を込めて雑草魂っていう言葉は、普段から意識しているわけではないですけど、自然と出てきたのかなと思います。気持ちを一番に持ちながら、その上で技術というところがあると思っているので、まずは戦う部分は誰よりも持っていきたいと思っています」

 と振り返る。

イメージを覆す

【©TOKYO VERDY】

 また彼を語るうえでどうしても欠かせないのは、同じポジションの谷口栄斗の存在だ。言わずと知れた東京Vのディフェンスリーダーで、山田裕にとっては国士舘大の2つ上の先輩となる。

「大学時代から栄斗くんはお手本だったし、ヴェルディで活躍している映像を何度も見ていました。ビルドアップのところはすごくレベルが高いなっていうのを思いますし、サッカー以外のところでも人が見てないところで気遣いができる。サッカー選手としてもそうですし、人間性っていうところもすごく彼から学ぶことが多いです」

 憧れの人物と、再び同じチームに。さらに沖縄キャンプ中に行われたトレーニングマッチ名古屋戦(45分×2)ではディフェンスラインでコンビを組むことになった。

 物怖じすることなく声でチームを統率。さらには40分だった。CKの流れから「いつもだったら戻っていると思うんですけど、ちょっと流れが良かったので、そのまま残って中に入ろうと思いました」とゴール前でポジションを取り直すと、河村慶人のクロスにヘディング。ポストの跳ね返りを押し込んでゴールを決めた。結局、その後スコアは動かず、出場した45分は彼のゴールで1‐0で勝利という結果になった。

【©TOKYO VERDY】

 その1試合は、「いろんな人に喜びすぎだって言われました」というように、一見大人しそうに見える彼のゴール後の派手な喜び方もそうだが、プレー面でも彼の印象を大きく覆すことになった。

 その1つは、ビルドアップの能力の高さだ。新体制発表で「自分は上手い選手でもない」と話していたとは思えない大胆なパスの数々。記者陣から「パスが上手いですね」との感想が本人に当てられてもいた。しかし、本人は「いや、下手ですよ」とこれを即座に否定。それでも、こう続けた。「そこはかなり意識しているところです。足元が上手い選手じゃないんで、たぶん意識でそう見えているだけで、まだ全然下手です」。

 実は、プロ初のキャンプのテーマを「ストロングよりウィークのところに目を向ける」と設定していた。

「大学時代はストロングに目を向けてやってきました。もちろんストロングで相手より上回ったり、ストロングをさらに磨くっていうところも大事だと思うんですけど、このキャンプではすごく自分の苦手なところに目を向けてみようかなと。実際ウィークにしているビルドアップだったり、『止める』『蹴る』という基礎的な技術は大事なことですし、ウィークに目を向けることによって何かもっとできる楽しさというか、できなかったことができるようになると楽しさがあるなと」

「2024シーズンもヴェルディファミリーとともにサッカー界にサプライズをもたらしましょう」。城福浩監督は今季に向けての契約更新のリリースに、そうコメントを添えた。そのために必要なものとして、新体制発表会見で山田裕を含めた新加入選手に対して「彼らが成長することがおそらく我々がJ1で躍動するキーになると思う」と話している。

「一番大事なのは自分たちの戦力が、どのような可能性を秘めているか。そういう意味では成長の余白は、私はJ1の中で一番高いクラブなんじゃないかなと思っています」

 今季のチームの目標は江尻篤彦強化部長が「J1残留」と話すように、厳しいシーズンになることが予想されている。その中で、山田裕翔は試行錯誤を繰り返し”余白”を埋めようとトレーニングに励む。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

東京ヴェルディは、日本初のプロサッカーチームを目指して設立された1969年の当初から、青少年の育成とスポーツ文化の振興と確立を目的に活動を行っています。1993年の開幕時からJリーグに参戦して初代チャンピオンに輝き、連覇も達成するなど数多くのタイトルを獲得しています。女子チームの日テレ・東京ヴェルディベレーザは設立当初から日本の女子サッカー界を牽引する存在で、多くのタイトルを獲得してきました。日本女子代表にも数多くの選手を送り出しています。男女ともに一貫した育成システムを誇り、世界に通じる選手の育成を続けています。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント