【有馬記念】武豊「忘れられないレースになった」ドウデュースと人馬一体で劇的復活V

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武豊騎手とドウデュースが有馬記念を優勝、人馬ともに劇的な復活勝利となった 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 第68回GI有馬記念が12月24日、中山競馬場2500m芝で行われ、武豊騎手騎乗の2番人気ドウデュース(牡4=栗東・友道厩舎、父ハーツクライ)が優勝。後方待機から2周目3コーナーの大外を捲っていくと、最後の直線も力強く伸びて人馬ともに劇的な復活勝利を飾った。良馬場の勝ちタイムは2分30秒9。

 ドウデュースは今回の勝利で通算12戦6勝(うち海外2戦0勝)、GIは2021年朝日杯フューチュリティステークス、22年日本ダービーに続く3勝目。騎乗した武豊騎手は1990年オグリキャップ、06年ディープインパクト、17年キタサンブラックに続く有馬記念4勝目、管理する友道康夫調教師は同レース初勝利となった。

 半馬身差の2着にはクリストフ・ルメール騎手騎乗の7番人気スターズオンアース(牝4=美浦・高柳瑞厩舎)、さらに1馬身差の3着には横山和生騎手騎乗で今回がラストレースとなった6番人気タイトルホルダー(牡5=美浦・栗田厩舎)が入線。1番人気に支持された横山武史騎手騎乗のジャスティンパレス(牡4=栗東・杉山晴厩舎)は3着からアタマ差の4着に敗れた。

「『大丈夫かな』と弱気になった時期も正直ありました」

復帰を待ち続けた友道調教師(右)とその気持ちに応えた武豊騎手、レース後にがっちりと握手を交わした 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

「やっぱり、競馬はいいなって思います」

 クリスマスイブの中山競馬場に駆けつけた5万3千人の大観衆を前に、噛みしめるようにして言葉をマイクに乗せた武豊騎手。その瞬間、大歓声が沸き起こった。今年の有馬記念を見て、武豊騎手が語った言葉と同じ気持ちにならなかった人はいないだろう。競馬が持つドラマと醍醐味の全てがまとめて凝縮された、日本競馬史に残る名レースだったと断言していい。

「GIを勝つといつも嬉しいのですが、今回は格別ですね。色々な思いがあってレースに挑みましたし、とても大きい1勝です。忘れられないレースになると思います」

 ジョッキー自身、通算81勝目を数えるGI勝利の中でも特別な1勝となった第68回有馬記念。ただ勝った、というだけではない。武豊騎手とドウデュース、このコンビで復活の勝利に到達するまで……いや、スタートラインのゲートにたどり着くまでの2カ月間、大きな山と谷をいくつも越えてきた。

「自分の足の状態がなかなか上がって来ない時期もあって、『大丈夫かな』と弱気になった時期も正直ありました」

励まし、支え、復帰を待ち続けた友道厩舎…それらの全てが後押しに

3コーナー過ぎから一気の大外捲り、最後まで勢いを持続し先頭でゴールを駆け抜けた 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 武豊騎手が騎乗馬に右足を蹴られる負傷というまさかのアクシデントに襲われたのは天皇賞・秋の約3時間前のことだった。これにより武豊騎手は戦列を離れることになり、ドウデュースも戸崎圭太騎手と急遽コンビを組むことになったものの天皇賞・秋は7着、ジャパンカップも4着と末脚不発で2連敗。春のドバイで走れなかった分まで“逆襲の秋”となるはずが、一転、不完全燃焼のまま冬を迎えることとなってしまった。さらに、当初ジャパンカップで復帰と伝えられた武豊騎手の右足の回復も遅れたことで、年末グランプリに向けた復活ロードも決して明るいものではなかっただろう。

「でも、有馬記念でドウデュースに乗りたいという気持ちがあったので出来る限りを尽くして、本当に色々な人の励ましと協力を得て、何とか間に合いました。本当に、今日は僕自身の状態もすごく良くて、きっちり間に合ったなと思いました」

 先週17日の朝日杯FSでのレース復帰が正式に決まり、それに合わせて13日の1週前追い切りにも騎乗。待望の主戦を背に迎え、抜群のフットワークでウッドチップを跳ね上げるダービー馬を見た友道調教師は「この1週前から動きが違っていた」と感じたという。復活の序章が動き始めた瞬間だった。そして、有馬に間に合うかどうかも不透明の中、ドウデュースの背中を空け続けて待っていた友道厩舎の気持ちにも応えたい――そうした思いも武豊騎手の心に火をつけていた。

「普通ならジョッキーがケガで乗れるかどうか分からない状態の時というのは、陣営もスタッフも不安になって他のジョッキーを確保するということが多いのですが、本当に最後まで『乗れるのなら乗ってくれ』というその姿勢がすごく嬉しかった。それが後押しになりましたね」

「今日は本当にドウデュースの力が大きかった」

有馬記念初勝利となった友道調教師(右から2人目)は「武豊騎手で勝てたのが嬉しい」と喜びを語った 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 そうして迎えたレースは後方から。「本当に手がしびれるかと思いました」と冗談交じりに振り返ったほど1周目のドウデュースは前進気勢を強く出していたが、そこは2月京都記念以来、久々の実戦騎乗とは言えドウデュースの全てを手の内に入れている武豊騎手だ。

「前半からかなり行きたがって抑えるのに苦労しましたが、何とか落ち着かせてラストにかけようと思っていました」

 逃げたタイトルホルダーが2周目の向こう正面からペースアップして後続を突き放しにかかる中、ただ1頭、ドウデュースだけが後方3番手の外からリズム良くポジションを上げていく。1頭、また1頭と飲み込んでいき、直線入り口にかかるころにはもう目の前にいるのはスターズオンアースとタイトルホルダーの2頭だけだった。

「(3コーナーからは)思い描いていた通りのレースプラン。4コーナーの勢いが良かったので、その勢いのまま先頭に立って、あとは何とか我慢してくれてという感覚でした。3コーナー過ぎで進出を開始した時は本当に“しびれる”ような手応えでしたね」

 誰よりも早くゴール板を駆け抜けたドウデュース、ステッキを握りしめた右手をグッと掲げた武豊騎手、怒涛のような歓声。あまりにも劇的な人馬一体の復活劇であり、競馬の神様はとんでもないクリスマスプレゼントを競馬ファンに、そして武豊騎手とドウデュースに届けたものだ。

「ドウデュースがあっての僕です。今日は本当にドウデュースの力が大きかったですね。良い馬に巡り合って、改めて今日は本当に幸せなジョッキーだなと思いました」

 そして、大きなプレゼントを届けられたのは友道厩舎スタッフももちろん同じ。これが有馬記念初勝利となった友道調教師にとってもまた、忘れられない1勝となっただろう。

「有馬記念はこれまで3着が最高でしたが、武豊騎手で勝てたことが嬉しい。ダービーもそうでしたが、武豊騎手でGIを勝つことがやっぱり一つの夢でしたので純粋に嬉しい気持ちでいっぱいです」

2024年は3度目の海外遠征へ、忘れ物を取りに行く

ライバルが引退していく中、ドウデュースはここからが新たなスタートになる 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 まさに大団円、1年を締めくくるにふさわしいレースだった2023年グランプリ。しかしながら、ただただ喜びに浸ってばかりではなく、陣営はこの勝利をステップに2024年の青写真をもう描き始めている。友道調教師はジョッキーの下馬直後にこんな話をしたと明かした。

「漠然とですけど、『また来年行こうよ。忘れたものを取りに行こう』という話をしました。たぶん、フランスだと思います」

 武豊騎手も「もともと世界レベルの馬だと思っていますし、フランス、ドバイと悔しい思いをしているので、来年こそはという思いです」と、3度目の海外挑戦へ気持ちは固まっているようだ。

 同世代最強のライバル・イクイノックスがすでにターフを去り、1つ年上のタイトルホルダーもこのレースを持って現役に別れを告げることになった。この時期はどうしても寂しさが募るものだが、ドウデュースはここからがまた新たなスタート。武豊騎手との黄金コンビで日本、そして世界を縦横無尽に駆け巡る2024年の競馬を想像するとワクワクが止まらなくなる。(取材:森永淳洋)
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