「SORA gardens Links」が開業。ベトナム事業の現在地と未来

川崎フロンターレ
チーム・協会

【© KAWASAKI FRONTALE】

6月17日、ベトナム・ビンズン新都市でベカメックス東急が運営する複合施設「SORA gardens Links」が開業。この施設はベトナム初の本格的な屋根付きフットサル場が整備されていて、イベントやスクール事業を共同で行っている川崎フロンターレもスクール運営に使用します。また、今後はビンズンでのサッカースクールをこの屋根付きフットサル場で行うほか、サッカー・フットサル大会の開催や各種イベントをベカメックス東急と連携し実施していくそう。そこで今回はベカメックス東急の平田周二さんと、フロンターレベトナムスクールコーチの西亮太さんに「SORA gardens Links」のことはもちろん、様々なことを語り合ってもらいました。

SORA gardens Linksの空撮写真 【© KAWASAKI FRONTALE】

──まずは「SORA gardens Links」とはどんな施設になのでしょうか。

平田「施設のある「SORA gardens」エリアには、高層マンションが立ち並んでショッピングセンターもあります。ここに暮らす人、訪れる人をリンクする(つなぐ)役割を期待して「SORA gardens Links」と名付けました。エリア全体では約12万平米となりますが、そのうち約3万平米のSORA gardens Linksには11個の店舗とメインとなるフロンターレスクールが使用するフットサル場や野球場、スケートボードパーク、あとは住民向けの市民農園もあります」

西「まさかベトナムに、こんなに素晴らしい施設が完成したことに驚きました。日本でもあまり見ることのできないクオリティの高さなので、ここが本当にベトナムなのかと分からなくなるほど。まさに東急さんだからこそできたのかなと感じています。僕らとしても立派なフットサル場を作ってくださったので、本当に有り難い限りです。もちろん大人の方の利用もできるので、ここで大会を開きたいという問い合わせも届いています」

平田「僕らは不動産屋ではなく、街づくりのデベロッパー(主に土地や建物の開発事業の企画を手掛ける企業のこと)だと意識しています。これまでビンズン新都市に4つのマンションを作りましたが、それだけで終わるのではなくてコミュニティ型の施設を作りたい思いがありました。川崎フロンターレさんと同じ東急沿線という地元の縁でここまでやってこられてよかったなと改めて感じますし、街の皆さんが喜んでいる姿を見ると嬉しくなります」

──開業式典後に行われたJICA(国際協力機構)と連携をして開催したスポーツフェスティバルも盛り上がったそうですね。

平田「盛り上がりましたよね」

西「そうですね。ベトナムの子どもたちから大人の方々に色んなスポーツを体験してほしいという思いから私たちが企画をしました。JICAさんに協力をしてもらいながらポールウォーキング教室や陸上教室、チアリーディングを体験してもらうことができました。サッカーだけではなく様々なスポーツに触れ合うことでビンズンに住んでいる方々に楽しんでいただくことができて良かったなと思っています」

平田「この日はフロンターレの吉田社長やJICAの所長さんにも来ていただけました。また、東急と川崎フロンターレが取り組んでいる街づくりに賛同してくださっている株式会社ミツトヨさんをはじめとしたスポンサーや日本政府の方々が実際に子どもたちの笑顔を見ていただけたのは非常に良かったです」

オープニングセレモニーの様子。多くの人が集まり盛り上がっていた 【© KAWASAKI FRONTALE】

──このサッカースクールの環境は生徒も喜んでいるのではないでしょうか。

平田「生徒のなかには、今までは新都市に引っ越そうと思っていなかったけど、近くに住みたいという声を聞くことができていますよ」

西「あとは、サッカーコート自体4,700平米、クラブハウスが200平米なので、トータルで私達が利用させてもらっているのが約5,000平米です。クラブハウスでも講話を実施するなど色んな人に利用していただけることができるので生徒以外からの反応もとてもいいです」

平田「加えてフロンターレのスクールは、ただサッカーを教えているわけではなく、礼儀や日本的な教育に結びつくことを教えてくれているのも、いい反応が返ってきている一因かなと。そのなかで強みなのがフットサル場に一つもゴミが落ちていないこと。ベトナムはペットボトルのキャップにフィルムが付いているものが多いのですが、それを開けてポイ捨てをすることも多く、他のサッカー場やフットサル場でゴミが落ちていることをよく見かけます。ただ、フロンターレのスクールに通っている生徒はポイ捨てをさせないように文化の教育を西さんたちがやってくれていますし、その指導が浸透してきているなと感じています」

西「私たちは子どもたちが持ってくる飲み物の置き場所を設置することで、帰りなどにゴミを放置していることが分かりやすいようにしています。ゴミが出たらゴミ箱に捨てることは、徐々に習慣づかせることができているのかなと。また、日本のサッカークラブのスクールなので礼儀や挨拶をしっかりすることを大事にしていますし、そういった社会性を強く打ち出しているのがフロンターレスクール。振り返ってみても日本の文化を理解していただくまでに早かったなと感じています」

平田「あと技術面に関してもレベルアップしている印象です。僕も定期的に見に行くのですが、最初はボールを蹴れなかったり、少し走っただけで息切れをしている子もいました。それが、今では体つきも痩せてきて健康的になったなと。サッカーのレベルも上がっていると感じます。そのへんは現場の肌感覚としてどうなんですか?」

西「運動能力が格段に上がった子どもは多くいます。ベトナムではドアtoドアでバイクを使うので日頃歩かない習慣がありますが、スクールのグラウンドに来たら始まる前も終わったあともボールを蹴っているので、レベルは上がってきているなと感じています。試合でも今まで勝てなかったクラブに勝つことができるようになってきました」

成長を続けているフロンターレスクールの生徒 【© KAWASAKI FRONTALE】

──ちなみに屋根付きのフットサル場はベトナムで珍しいのでしょうか。

平田「ここが初とは言い切れませんが、クラブハウス付きでスクールを運営しているのは、ほぼ初なのではないかなと思います」

西「それこそ、この間は雨の日が続いていたのですが「SORA gardens Links」は屋根が付いてるので大雨でも通常に運営をすることができています。そのおかげで練習頻度も多くなり、選手たちの技術向上につながっていると思っています」

平田「もちろん、僕らにとっても練習をして成長していく姿を見られるのが嬉しいことですが、掲げる大きなビジョンがあります。私たちがビンズン新都市の開発に取り掛かったのは2012年。最初から私たちはマンションを作るだけではなく、スポーツを通じて街の人を笑顔にしたい思いがありました。そのなかで2013年にフロンターレのトップチームがベカメックス・ビンズオンFCと親善試合をしたときにサッカーの力やベトナムの方々に与える影響力をまざまざと感じさせられました。そのノウハウは私たちにはないので、フロンターレさんに協力をお願いして今に至っています。勝手なことを言っていますが、今後はベトナムにもフロンターレの中学年代、高校年代のアカデミーチームを作って日本との交流があっても面白いのかなとも考えています。そうするとスクール事業のなかからVリーグ、Jリーグを目指せる選手を輩出していくことも考えられるようになるので、なんとか目指していきたいなと思っています」

西「そのために僕たちも頑張らないといけないですね(笑)。それこそ、スクール内で技術が高いスクール生はVリーグチームアカデミーのセレクションを受けることが多いので、私たちはセレクションが上手くいくように背中を押すのが今の役目でもあります。ただ、平田さんが仰っていたようにアカデミーのような組織ができれば、色んな夢が広がっていくなと感じています。なので、当然その場所を目指してやっていきたい思いは強く持っています」

平田「ベトナムもサッカーが人気でプレミアリーグやリーガエスパニョーラなど放送しています。また、最近ではJリーグも力を入れていて、オンライン放映の機会も増えています。そういった画面のなかでプレーしてる選手は子どもたちにとってヒーロー。そんなヒーローを我々のスクールから輩出することにでもなれば嬉しいです」

屋根付きフットサル場のため、天気に左右されずプレーが可能に 【© KAWASAKI FRONTALE】

──先日はベトナムスクールの生徒が日本に遠征へ来ていましたよね。

西「日本とベトナムは文化が違うので、最初は駅まで20分歩くのに『なんでバイクや車に乗らないんだ』という話しもあったのですが、しっかり日本のスタイルで遠征をして駅まで歩いて移動をしました(笑)。あとは日本のフロンターレスクールに参加したり、等々力競技場にてホームゲームを観戦することもできたし、トップチームの練習場である麻生グラウンドにも行って間近にフロンターレの選手と触れ合うことができたのもいい経験になったのではないかなと思います。ベトナムのスクール生にとってはフロンターレスクールでしかできない120点満点の遠征になりました」

平田「あとベトナムスクールのスポンサーになっていただいている株式会社ミツトヨさんはフロンターレの本社の近くにあるので、子どもたちが訪問をさせていただきました。こういった会社が自分たちの活動を支えていることを感じてもらえるのも社会的な育成にもつながると思うので、いい機会になりましたよね」

西「そうですね。私たちのスクールでは今回だけではなく年に1度、いつも支えてくださっているスポンサーさんとスクール生や保護者が交流するパーティーを開催しています。そこで、スポンサーさんのお話を聞くことで今の環境があることが当たり前ではないことを感じられるとも思うのでとても大事にしている時間です」

SORA gardens Linksで行われたKFS CUPの様子 【© KAWASAKI FRONTALE】

──では、最後にベカメックス東急さんとフロンターレが連動することで色んな夢が膨らんでいくと思います。今後に向けてどのようなことを考えていますか?

平田「特にフロンターレのホームゲームはイベントによってカブトムシを採れたり、牧場もあったり色んなことをやっています。2011年に発生した東日本大震災の復興支援も、岩手・陸前高田市との交流を続けて様々な活動を今でも実施されていて、こういうのは最初の2年、3年で辞めてしまう企業も多いなかで継続してやってきています。これは個人的な将来の夢なのですが、このノウハウや姿勢をベカメックス・ビンズンFCに活かしていきたいです。Vリーグの現状はチケットも売っているか分からなければ、スタジアムグルメも、グッズも売っていない。ただ試合を見て帰るというのがスタンダードになっています。だからこそ、フロンターレさんと先を見据えて色んな連携をしながら、フロンパークで行っているようなことをモデルに、ビンズンの街やベトナムサッカーを盛り上げることができたらなと思っています。川崎市民の方は、フロンターレさんが地元にいてくださって嬉しいと思うんですよね。それはベトナムでも実現できたらと思っています」

西「東急さんが街づくりを発展させてくれていることによって、スポーツを通じて子どもたちだけではなくて家族も笑顔に、幸せになっているんだなと肌で感じることができていますし、素晴らしいことだなと思っています。私たちとしても、東急さんと連携をしながらベトナムでフロンターレをさらに広め、フロンターレを好きになってもらいたいです。いつかスクール生からフロンターレでプレーするような子どもが出てきてくれたら嬉しいですし、そのために我々を活用してくれる方々を増やしていく取り組みをしていきたいです」

平田「あと余談ですが「SORA gardens Links」にあるスケートボードパークを作ったキッカケが2021年の東京五輪で、堀米雄斗選手や四十住さくら選手などが日本を背負って金メダルを獲得している姿には、コロナ禍でロックダウンのなかのベトナムのわれわれも勇気づけられたことが大きな理由です。ベトナム人は比較的体が小さいので、もしかしたらスケボーで世界に通用する選手を育てられるかもしれないという思いも込められているので、この場所から五輪で活躍することができる選手が出てきたら嬉しいです!」

(取材:高澤真輝)

SORA gardens Links内にあるスケートボードパーク。ここから未来のオリンピック選手を 【© KAWASAKI FRONTALE】

「SORA gardens Links」柿落とし

日越外交関係樹立50周年記念事業 特別親善試合

新都市開発

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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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