【記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権】女子5000m:2種目出場の田中&廣中が出場!「入賞」と「日本新」の期待も(予選8月23日、決勝26日)

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【フォート・キシモト】

8月19日(土)から27日(日)の9日間、ハンガリーの首都ブダペストを舞台に「第19回世界陸上競技選手権大会」が開催される。日本からは、76名(男子48名・女子28名)の代表選手が世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する33種目に関して、「記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ……」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

大会期間中は、日本陸連のSNS(Facebook or X)で、記録や各種のデータを随時発信予定。そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。

※リンク先は外部サイトの場合があります

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけて競技が行われる。

睡眠不足にどうぞご注意を!

★女子5000m★

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・予選 8月23日 18:10(23日 11:10) 2組8着
・決勝 8月27日 03:50(26日 20:50)


※記録は原則として7月31日判明分。現役選手の敬称は略させていただいた。トラック競技の予選・準決勝の通過条件(○組○着+○)は、ルールやこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、ブダペストではこれと異なる条件になる可能性もある。

2種目出場の田中&廣中が出場!「入賞」と「日本新」の期待も

参加標準記録(14分57秒00)をクリアしたのは、田中希実(New Balance)のみ(14分53秒60=23年7月8日=日本歴代3位)。
日本選手権では8位に終わったが、山本有真(積水化学/エントリー記録&自己ベスト15分16秒71=22年)がアジア選手権優勝で出場資格をゲットした。1国3人以内でカウントしたワールドランキングは35位。
21年東京五輪・22年オレゴンと2大会連続で5000m・10000mに出場し、東京では5000mで日本新(9位)、10000mで7位に入賞した廣中璃梨佳(JP日本郵政G)は、春先の故障で出遅れ、ワールドランキング47位でターゲットナンバーの42位以内に届かなかった。しかし、8月7日の各国のエントリーで上位者に辞退がたくさん出て、出場できることになった。エントリー記録は15分17秒30=22年、自己ベストは日本記録の14分52秒84=21年。

エントリー記録で日本記録(14分52秒84)を上回る選手が22名、田中希実の14分53秒60は24位だ。
1500mのところでも紹介したが、田中希実の日程は、下記の通り。
・日本時間でカッコ内が現地時間
1500m予選 8月19日 20:15(19日13:15)4組6着
1500m準決 8月21日 00:05(20日17:05)2組6着
1500m決勝 8月23日 04:30(22日21:30)
5000m予選 8月23日 18:10(23日11:10)2組8着
5000m決勝 8月27日 03:50(26日20:50)


◆世界選手権&五輪での入賞者と日本人最高記録◆
5000mは、世界選手権では1995年から(それ以前は3000m)、五輪では1996年から実施されるようになった(1984~92年は3000m)。入賞者は、以下の通り。
1996五輪 4位15.09.05 志水見千子(リクルート)=日本新
1997   8位15.21.19 弘山晴美(資生堂)


日本人最高記録は、
世界選手権が、
14.59.92 福士加代子(ワコール)2005年 12位
五輪が、
14.52.84 廣中璃梨佳(日本郵政グループ)2021年 9位 =日本新


世界選手権&五輪での先頭の1000m毎とラスト400m・200m、1・3・8位とその差、決勝に進めなかった最高記録
以下は、5000mが採用された1995年からの世界選手権での先頭走者の「1000m毎のスプリット」「ラスト400mとラスト200m」「1・3・8位の記録」「1・8位の差」「予選で落選した最高記録(決勝に進めなかった最高記録)」をまとめたものである。

【JAAF】

【JAAF】

21年東京五輪、22年オレゴンと同様に今回も予選通過には15分を切るか切らないかが要求されることになるかもしれない。東京五輪で決勝に進めなかった最高記録の14分59秒93は田中希実のもので、0秒38及ばず。22年オレゴンの15分02秒03は廣中のタイムで、1秒05届かなかった。日本人選手がこのところ2大会連続で口惜しい思いをしてきている。

決勝は、「記録よりも勝負」のレースであるため、最初の1000mが「様子見」でスローな展開になることが多い。五輪を含む95年からの21大会で、2分台で入ったのは4大会しかない。また、途中で誰かがロングスパートして「大逃げ」をはかる展開も稀で、ほとんどは4000mを過ぎてからやラスト1周での「ヨーイ、ドン!」のスピード勝負である。

「1位と8位の差」は、数秒から40秒以上と大会によって開きがある。09年から17年までの「8位入賞ライン」は、「15分00秒~15秒前後あたり」が多かった。しかし、19・21年は14分45秒前後のハイレベル、17・22年も15分を切るタイムになっている。

優勝者は途中で独走にならない限りは、ラストの1000mを2分40秒前後、ラスト2000mを5分30~40秒あたりで走っている。ラスト2000mは1500m換算4分10秒前後のスピードだ。また、独走になった場合を除くとラスト400mも60秒以内のことが多い、ラスト200mも28~29秒台がほとんどだ。

東京五輪で優勝したシファン・ハッサン(オランダ)のラスト1000mは2分39秒0、ラスト800mは2分04秒7。
4600mからの100m毎は、

【JAAF】

ラスト1周57秒1、同300m41秒7、同200m27秒7は世界大会優勝者の歴代最速タイムである。
2・3位の選手もラスト400mを58秒9と59秒4でカバーした。
「優勝」や「メダル」を目指すには、上記のようなラスト1周のスパート力がないことには厳しい。

が、「入賞」ならばその条件がかなり下がる。
どういうペースでレースが展開されるかにもよるが、過去のデータからすると3000mあるいは4000mまでを3分前後でいってラスト2000mを5分台、ラスト1000mを2分50秒前後から55秒以内くらいでカバーできれば、「入賞ライン」が見えてくることが多かった。

21年東京五輪の廣中は入賞にあと一歩の9位。8位入賞には6秒35届かなかったが、14分52秒84で16年ぶりの日本新だった。
この時の1000m毎は、3.00.7-3.00.1-2.59.9-2.57.9-2.54.2。ラスト1周が66秒9、同200mが33秒3だった。
4000mでは11名の先頭集団の最後方だったが先頭との差は1秒5、8位と0秒3差。残り2周から先頭には徐々に差を広げられたが、4200mで8位とは0秒3差、4300mで0秒2、4400mで1秒5、4500mで2秒2、4600mで2秒3差。最終的には6秒35差がついたが、よく粘って日本新をものにした。ちなみに、あと1周で8位から7位に上がった選手(14.46.29)のラスト400mは62秒7、7位から8位に落ちた選手(14.46.49)は66秒0。ラスト1000mは7位が2分47秒9、8位が2分49秒9だった。
5000mの日本新をはずみに、廣中は5日後の10000mでは「7位入賞」を果たした。

田中希実にとって5000mは、19年ドーハ、21年東京五輪、22年オレゴンの「リベンジマッチ」となる。
ドーハでは予選(15分04秒66)も決勝(15分00秒01)も自己ベスト(当時、日本歴代2位)で走ったものの史上最もハイレベルなレースで14位。入賞ラインには15秒ちょっと届かなかった。
東京では、予選で14分59秒93の「初14分台」の自己新で走ったものの決勝には0秒38届かなかった。この時は、残り1000mを2分48秒0でカバーしたが、ラスト400mに65秒5を要して「ファイナリスト」を逃した。
オレゴンは、予選15分00秒21で「+5」の4番目で通過。決勝は、3000m手前で集団から遅れて15分19秒35を要して12位で悔し涙を流した。

この2年あまり、田中希実は「ラスト400m60秒」を課題として、400mから10000mまで様々な距離のレースに挑んできた。
22年の日本選手権では800m決勝を2分04秒51(2位)で走った73分後に5000mをスタート。
日本記録保持者の廣中を残り400mからのギアチェンジで一気に突き離し優勝。
この時のラスト1000mは、2分48秒9。
4600mからの100m毎は、

【JAAF】

また23年の日本選手権では、3000mから先頭に出て、これまた4600mから一気にギアを切り替えた。
ラスト1000mは、2分47秒8。
4600mからの100m毎は、

【JAAF】

ラスト3000m 9.01.9
ラスト2000m 5.50.2
ラスト1500m 4.17.9
ラスト1000m 2.47.8
ラスト800m 2.12.7

五輪と世界選手権の入賞ラインが最もハイレベルだった19年ドーハ世界選手権と21年東京五輪、直近の22年オレゴン世界選手権の10位までの選手の残り1000m、同400m、同200mのタイムをまとめたのが下記のデータである。

2019年ドーハ世界選手権

【JAAF】

2021年東京オリンピック

【JAAF】

2022年オレゴン世界選手権

【JAAF】

これを上述の22年と23年の日本選手権での田中希実のタイムと比較しよう。
5000mのタイムでは優勝者とは、40~20秒あまり、8位とも20~10秒あまりの差がある。とはいえ、田中の22年は800m決勝の73分後にスタートした5000mだった。また、23年も3000mからトップを引いて、ラストの局面では競り合う相手がいなかったという条件を考慮してもいいだろう。
田中のラスト1000mは22年2分48秒9、23年2分47秒8。同400mは62秒0と61秒3、同200mが31秒4と30秒7だ。優勝者のラスト1周57~59秒台やラスト200m27~29秒台などには及ばないものの5~6位以下の選手と比較すると十分に勝負ができそうだ。
この2年あまり田中が「ラスト1周60秒」を追い求めてきたのは、上記のデータの「メダル争い」に食らいつくためのスピードなのだ。


「日本新」の可能性も……
「記録よりも順位優先」の世界大会ではあるが、当日の気象状況やレース展開によっては、廣中の日本記録(14分52秒84)を更新できるかもしれない。19年ドーハや21年東京五輪のように、日本記録を何秒も更新しないと「入賞ライン」に届かない可能性もありそうだ。

今回の予選が行われる8月23日11時10分(日本時間23日18時10分)、決勝がスタートする8月26日20時50分(日本時間27日午前3時50分)に近いブダペストの20年から22年の過去3年間の気象状況を調べた。

【過去3年間の8月23日(女子5000m予選の日)のブダペストの気象状況】

【JAAF】

【過去3年間の8月27日(女子5000m決勝の日)のブダペストの気象状況】

【JAAF】

以上の通りで、かなり涼しい条件になりそうだ。
よって、優勝記録も入賞ラインも最もレベルが高かった19年・21年の世界大会を上回るようなタイムになるかもしれない。

東京五輪の決勝で廣中が日本記録(14.52.84)を出した時の100m毎のペースは下記の通りだ。

【廣中璃梨佳の日本記録(14.52.84)の時の100m毎】
・世界陸連HPのデータ。
・カッコ付き数字は通過順位。

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】

・前半7.30.2+後半7.22.6(前後半差△7.6)
・ラスト800m、2.18.6
・ラスト1500m、4.22.8
・ラスト2000m、5.52.1
・ラスト3000m、8.52.0

基本的には、400mを72秒、1000mを3分00秒の「15分00秒ペース」のほぼイーブンで3000mまでを刻み、4000mまでに2秒、ラスト500mで「5秒を削り出した」というペース配分だった。

廣中の日本記録と田中希実の歴代2位のペースの比較は、以下の通り。田中は、2000mから先頭に出て以後は誰とも競り合うことなく3400mからは一人旅だった。

【JAAF】

田中の終盤の強さが目を引く。
タイムの比較では、3000m通過では廣中と8秒8の差(約50m差)、4000mでも8秒1差があったが、残り1000mで一気に0秒76差にまで縮めた。田中のラスト1000m2分46秒94は、5000mでの自己最速タイムだった。
ラスト3000mは「8分46秒27」で自身の3000mの日本記録8分40秒84にあと4秒43で3000m単独レースの日本歴代3位相当。
後半の2500mは、5000m14分30秒8のペースで、前半よりも後半が22秒8も速かった。
ラスト2000m「5分44秒15」は、2000mの公認日本記録5分47秒17(木村文香/16年)を上回る。
ラスト1500mは「4分15秒6」で日本選手権なら22年も23年も2位相当のスピードだ。

さらに、こんなデータも紹介しておこう。
全種目を網羅した世界陸連採点表による田中の各種目ベスト記録の得点は、

【JAAF】

だ。

最もポイントが高い1500mの「1212pt」を5000mのタイムに当てはめると「14分35秒25」。つまり、1500m3分59秒19の走力からすると田中は5000mを14分35秒くらいで走れても不思議ではないということだ。

あるいは、筆者が1986年から2021年の36年間に日本・高校・中学リストに入った選手で1500mと5000mの記録が判明している10505名の年次ベストのデータを分析したところ、平均では1500mの記録の「3.675241倍」のタイムで5000mを走っていた。田中の1500m3分59秒19の「3.675241倍」は、「14分39秒08」となる。倍率の標準偏差は、「±0.080480」でこれを考慮すると統計学的には「14分19秒83~14分58秒33」で走れる可能性が「68.26%」ということになる。いずれにして、田中には14分40秒以内で走れる可能性がありそうということだ。ということは、世界での「入賞レベル」である。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

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