【勝てばよかろうもん?】2023 J3第14節 松本山雅×カマタマーレ讃岐 マッチレビュー

note
チーム・協会
【これはnoteに投稿されたおぐちさんによる記事です。】

スタメン

【おぐち】

前節今治に勝利した松本は、珍しく全く同じスタメン。ベンチでは山本龍平と米原秀亮が外れて、喜山康平と鈴木国友が入っている。勝ったときは下手に弄らないのが王道であるとともに、今治戦で見せた全体の連動性や守備の完成度を見ていると、スタイルを100%体現しているとは言い難いが当面の戦い方としてはOKということなのかもしれない。

一方の讃岐も前節全く同じスタメン。YS横浜から宗近、徳島から奥田という足元の技術に長けたセンターバックを獲得していることからも、従来のキックアンドラッシュ味のあるサッカーから変革の色が見えてくる。とはいえ前線には長身の森本が控えていたり、サイドバックにリーグ屈指のクロッサーである川崎が配置されていたりと、空中戦も辞さない構えも含んでいるのが不気味なところ。


ハマらないプレッシング

今季やりたい強度には満たないが、前線からのプレッシングは慣行。いつものように菊井悠介と小松蓮が旗振り役として追いかけ回すのだが、この日はどうしてもハマらない。

それもそのはず。讃岐はボランチの長谷川とセンターバックの間に落として3枚でビルドアップを行い、菊井悠介と小松蓮ではそもそも数的不利の状態にある。今季見せている形だと、3枚でビルドアップしてくる相手にはサイドハーフのどちらかを一列前に上げることが多い。ただ、滝裕太と村越凱光はプレッシングには参加せず控えめなポジション取りだった。
そうせざるを得なかった理由は、讃岐のサイドハーフにある。福井と森はボール保持になると内側に絞ってきて、松本のボランチ脇を回遊。つまり村越凱光や滝裕太の背中側にポジションを取っている状態だった。
村越凱光と滝裕太は、自分がプレッシングに出ていって背後のスペースを使われるリスクがちらついて踏ん切りがつかなかったのかもしれない。ただ、それは結果的に誰もマークできずスペースを埋めるだけの中途半端なポジショニングになってしまっていた。

【おぐち】

前述の讃岐サイドハーフの振る舞いだけにフォーカスすると、両翼がともに極端に内側に絞ってくるのは厄介極まりなかった。加えてサイドハーフが内側に絞ったことで生まれた大外のスペースはサイドバック川崎と臼井が上がってくるので、宮部大己と下川陽太がこちらの対応で精一杯。必然的に住田将とパウリーニョが、森・後藤・福井・江口の4枚と対峙する構図になってしまい、物理的に無理ゲーにされていた。

2トップが前に前にプレッシングをかけにいく分、松本のボランチは中盤の広いエリアをカバーしなければいけない。そのタスクだけでも大変なのに、相手が2人もやってきたらさすがにタスクオーバー。
むしろ讃岐は住田将とパウリーニョに、過剰なタスクを要求してキャパオーバーにさせ、中盤を制圧しようと目論んでいた。

【おぐち】

讃岐の狙いは概ね正解で、足元の技術に長けた宗近や奥田から質の良い縦パスがバスバス通るようになっていく。縦パスの受け手になっているのは、内側に絞ってきた森や福井だ。
単純に縦パスを刺してくるだけなら松本ボランチも対応可能だっただろうが、讃岐は最終ラインで横パスを繋いで、横へ揺さぶった上でボランチのスライドが間に合わなかった瞬間に縦パスを入れてくるという嫌らしさも備えていた。松本の中盤が機能不全になるのは致し方なし。

【おぐち】

この状況に対して松本側も指をくわえて見ているわけもなく、前半途中から滝裕太や村越凱光が戻って讃岐サイドハーフを捕まえるようになっていく。
本来は、ボランチ付近で生まれたスペースを埋めるのはセンターバックの役割のはず。
しかし、残念ながら理想と現実は異なるようで、橋内優也と常田克人は1トップ森本の対応で精一杯になっていた。ポストプレーも裏抜けもできる森本には、チャレンジ&カバーの体制で対応しないと事故が起こるリスクを考慮してだろう。
ということで、センターバックもサイドバックもボランチの助けに迎えないとなると、苦肉の策で滝裕太と村越凱光と下げるしかない。彼らが下がってくるということは、半ばハイプレスを諦めることに繋がるし、仮に高い位置で奪ったとしてもショートカウンターの威力が半減してしまう。松本としては正直やりたくない修正であるだろうが、背に腹は代えられないということである。


隙を突いた一撃

明らかに試合の主導権を握っていたのは讃岐。
ところが前半38分、先制したのは松本だった。

滝裕太が自陣でボールロストし、讃岐の選手たちが松本ゴール前になだれ込んでくる。しかし福井が入れたラストパスを常田克人がインターセプトすると、一気に局面が変わる。常田克人からのパスを受けた村越凱光は江口と長谷川に囲まれながらも、冷静に左サイドのスペースへパスを供給。サイドバックが高い位置を取るという讃岐のスタイルを逆手に取るように、広大なスペースで受けた滝裕太はスピードに乗ったドリブルで突っかける。

対応した宗近は2対2の数的同数だったこともあり、滝裕太と少し距離を取って時間を稼ぐ選択。下手に距離を詰めて入れ替わられたら致命的なので正しい判断だったと思う。それを見た滝裕太は、鋭くカットインして右足を一閃。右足から放たれたボールは鮮やかな弧を描いてゴール右隅に吸い込まれていった。

前を向いて仕掛ければ何かを起こせるだけのクオリティがあることの証明。カットインしてからの振りの速さはJ1クラスのタレントで、迷いがないあたりにペナルティエリア左角付近からのシュートに絶対的な自信が垣間見える。ここ数試合のハイパフォーマンスによって、従来のコンディションだけではんく自信も取り戻したようだ。

【おぐち】

かなり押され気味ではあったものの、滝裕太のスーペルゴラッソで先制に成功したことで肩の荷が降りたはず。少なくとも前半をリードして折り返せたのは、内容面を考えると出来すぎと言っていいだろう。


菊井悠介の言葉から何を感じるか

後半も讃岐がボールを握り、松本が構えるという構図は変わらない。じりじりとした展開で、次の1点をどちらが取るかで試合が決まるような緊張感が漂っていた。

果たしてその1点を手にしたのは松本。後半15分、菊井悠介がふわっとしたロブパスをゴール前に入れると、讃岐守備陣の連携ミスを見逃さなかった小松蓮が頭で押し込んでゲット。センターバックとGKのコミュニケーションが不十分だったので、小松蓮を意図せずフリーにしてしまった。これで今季12ゴール、マジで大エースである。

考えさせられるのは、2点とも個の力で奪い取っていること。1点目は滝裕太、2点目は菊井悠介と小松蓮の個人能力でゴールを陥れている。思い返せば今治戦も、菊井悠介と小松蓮の連携により2人だけの関係性でゴールを挙げている。
点が取れていることは良いこととして、そこに至るまでのプロセスにも満足して良いのだろうか。今季掲げていた大方針は、『どんなチーム相手にも点が取れるような再現性のある攻撃』だったはず。当然上のカテゴリーに上がれば個人能力は段違いに上がるし、ここまで挙げたような選手を何らかの事情で欠いた場合には再現できないことになる。

とりあえず今、点が取れて勝てているからヨシ!と考えて良いのだろうか。

個人的な意見としては、否である。

なんとなく好調な選手のクオリティに引き上げられて、点が取れて勝利を拾えていたとしても、その波は長くは続かない。昨季、横山歩夢の覚醒に引っ張られた結果どうなったかを思い出してほしい。

試合後のインタビューで菊井悠介はこんなことを語っていた。
--2試合連続のクリーンシートで3連勝となった。手ごたえは。

それ(結果)だけだと思う。それ以外の内容はもう1回イチから見直す必要があると思うし、今日の内容をやっていては自分たちが求めているサッカーは無理だと思う。相手が[4-4-2]で、そんなにプレッシャーがない中でも簡単にボールを失ってしまう。キャンプからやってきた形が多分1回もなかった。ここから先、強度のあるチームにどうやって勝つか。(第10節・)パルセイロ戦の二の舞になってしまわないか。自分たちの攻撃の仕方が何もなくて、結局何もなく終わってしまう形をもう1回繰り返したいか。絶対にみんな繰り返したくないと思う。だからこそ、内容をもっと突き詰めていかないといけない。
Jリーグ公式サイト 試合後選手コメント


勝ったけど、内容については0点。
今季積み上げてきたはずのスタイルを全く表現できていなかった。
そして、このサッカーでは、より強度の高くてクオリティのあるチーム相手には通用しないと選手たちは自覚している。富山や長野に競り負けたように。

『どんなチーム相手にも再現性のある攻撃を繰り出す』
『前線から積極的にプレッシングをかけてインターセプト狙い、ショートカウンターでゴールを陥れる』

シーズン前に掲げていた理想をもう一度思い出そう。
理想と現在地のギャップはどれくらいか。まだまだ目指すところは遠いし、今の完成度じゃ全然ダメだと言っているように感じた。

今のパフォーマンスは、高い理想を掲げておきながら、まあ色々あって良い感じの現実的なところに着地しました。という状態にしか見えず、ちょっぴり残念に思っている。

どうせやるんだったら、とことん理想を突き詰めてほしい。
徹底的にやり切ることで得られるものは大きいはず。
切に願うのはこれだけだ。


総括

リーグ3連勝!2試合連続クリーンシート!エースが5試合連続ゴール!
と喜ぶ材料は多くあるのに、どうしても諸手を挙げて喜べないのは内容面が引っかかるからだろう。

勝ったけど本当にこれでいいんだっけ?というモヤモヤがあるのは間違いないし、霜田監督は明言しなかったが、菊井悠介や宮部大己のコメントからはひしひしと感じられた。

勝っているチームを大きくいじらないのが王道と言ったけれど、今のチームは一度壊さないといけないと思う。ここ2試合の戦い方を完成形としてしまうと、小さくまとまって昇格圏ギリギリでのフィニッシュが良いところに思えてしまうからだ。まだ14試合を終えただけで、リーグテーブルでも昇格を十分狙える位置にいる。だからこそ、もう一段二段高みを目指すために、現状に満足せず多少の犠牲を払ってでも挑戦するべき。

チームには挑戦する集団でいてほしいと思うし、挑戦する者の足を引っ張るようなサポーターではありたくない。
むしろ、挑戦者の背中を押してあげられるような存在こそSupporterなのではないかなと思っていたりする今日このごろ。




俺達は常に挑戦者




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