まさに臨機応変。森保ジャパンの課題に“お手本”を示した谷口彰悟のパス

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©三浦彩乃】

6月15日(木)に行われたキリンチャレンジカップ2023で、日本代表がエルサルバドルに6-0で大勝。川崎フロンターレ出身の5選手がスタメン出場を果たした。

4バックの中央でカタールワールドカップのスペイン戦以来となるコンビを組んだ谷口彰悟と板倉滉が抜群のビルドアップセンスを披露すれば、キャプテンマークを巻いてアンカーで起用された守田英正は最終ラインからのボールを受けて攻撃のリンクマンとして機能。昨年9月以来の日本代表復帰を果たした旗手怜央は左インサイドハーフで圧倒的な運動量を見せて攻撃陣の潤滑油となった。そして三笘薫は左ウイングで積極的に仕掛けて存在感を発揮し、前半だけの出場ながら3得点に絡む大活躍。“川崎産”の5選手がそれぞれの持ち味を存分に発揮した形だ。

大勝を収めたことで攻撃陣に目が行きがちだが、森保ジャパンにとって大きな収穫があった。それがカタールワールドカップ以来の日本代表復帰を果たし、3月シリーズで抱えていた課題解消に光を差し込ませた谷口の存在だ。

試合開始早々に挙げた先制弾は自身代表初ゴール 【©三浦彩乃】

次回ワールドカップでのベスト8進出を目標に、新たにスタートした第2次森保ジャパン。ボールを握りながら戦うスタイルを掲げたが、3月シリーズでは横パスやバックパスが目立ってビルドアップの形が作れず。4-2-3-1のシステムから両サイドバックが内側を取る新しい形を選手たちが意識しすぎてしまい、どう攻めるのか、どう崩していくのかの道筋を立てることができずに攻撃面でノッキングを起こしてしまっていた。

この課題に対して“お手本”を見せる形で谷口が解消方法を提示した。

「僕は前回シリーズでプレーしていませんが、反省としてコーチングスタッフから横パスやバックパスが多かったことを、すごく言われていました。横パス一本にしても、パススピードをコントロールして相手を落ち着かせないようにしなければいけないし、スキがあればどんどん前につけていく。サイドを変えるときもパススピードを速くすることは意識していたので、前回よりはスムーズにできたのかなと思っています」(谷口)

まさに臨機応変。パスの強弱、角度にしっかりとメッセージが込められているのは、スタンドからでもハッキリと見て取れた。ビルドアップの起点となるアンカー守田への縦パス、左サイドへ一つ飛ばしたサイドチェンジ。加えて印象的だったのは、19分に最終ラインから1トップの上田綺世に出した“相手を食いつかせる”長いくさびのパスだ。

少しスピードを緩めたパスを出し、上田に戻りながら受けさせるようにコントロール。相手DFが上田についてくることで生まれるスペースメーキングも意識していた。このパス自体はビッグチャンスにはつながらなかったが、試合の流れを見ながら打った“ジャブ”は、相手チームに攻撃の多様性をイメージ付けるには有効なものになったはずだ。

「ウイングに(三笘)薫やタケ(久保建英)みたいにいい選手がいると、どうしても彼らを使いたくなって、外、外になりすぎる。そうなると相手も読んでくるので、スキがあったら中央を通すよってところを見せておかないと外が空いてきません。そこは使い分けて綺世のところに入れてみたりしていたので、それは悪くなかったのかなと思っています」(谷口)

川崎フロンターレ出身選手が活躍した90分間は見応え十分だった 【©三浦彩乃】

相手に退場者が出て、早い時間帯に数的優位に立ったことを差し引いても、3月シリーズで見せたようなノッキングするシーンは皆無。主導権を握って戦うための原理原則とも言える“相手を見ながらプレーする”スタイルをピッチ上でしっかりと体現した。

状況を見ながら攻めどころを変えるのは、まさに川崎フロンターレで学んだスタイル。スタメン11人中5人が“川崎産”の選手だったことも、この試合の日本代表にとっては大きなプラスとなった。日頃から一緒にプレーしていなくても同じ感覚を持っているから微調整が早く、連携がスムーズになる。

「彼らの欲しいタイミングやボール回しのテンポは、一緒にやっていたぶん、スムーズにできた部分もたくさんありました。周りをもっと活かすこと、時間を与えてあげることはセンターバックにとって大事。そこはスムーズにできた部分と改善できそうな部分の両方があったので、みんなでコミュニケーションを取って、もっともっと良くしていきたいです」(谷口)

そしてもう一つ、この試合で忘れてはならないのは、試合の流れを大きく引き寄せた先制弾。開始10秒で三笘が倒されて得たFKのチャンスで、久保の左足キックから豪快に頭で合わせた一撃は、谷口にとっての代表初ゴールとなった。

「(ゴールは)狙っていました。しっかり頭に当てたと思っていたけど、入ったのは見えていなくて。周りの歓声が聞こえて見たら入ってたので、代表での初ゴールだ!って思いました(笑)」

この試合に向けた取材で「(監督から)求められることにきちんと応えつつ、それ以上のものを見せたい」と話していたが、流れの中で“お手本”を示しただけでなく。チームに最高の立ち上がりをもたらした点も特筆すべきポイントだろう。

今回の代表メンバーでは最年長だが、「何とか爪痕を残してやろうとする若い選手と一緒になって、いろいろなものを吸収してギラギラしてやっていきたい」とさらなる成長を期すあたりも彼らしい。

代表復帰で格の違いを見せつけた背番号3。頼りになる男が日本代表の最終ラインに戻ってきた。

(文・青山知雄)
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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