「日本を背負ってここに来てるので次の試合で帰るわけにはいかない」。ポジティブな板倉滉がスペインに挑む

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©Aoyama Tomoo】

失意のコスタリカ戦後、記者の集まるミックスゾーンを通る選手たちの表情は、いつにも増して険しかった。勝てば一気にグループステージ突破の可能性が高まる中、ドイツ戦の勝利を無駄にするかのような敗戦。下を向くような気持ちになってもおかしくなかった。

ただ、その中でも一際、普段と変わらない様子で取材に対応する男がいた。それが板倉滉だ。

一般的に考えれば、悔しい敗戦の後でネガティブな発言が出ても不思議ではない。しかし、日頃からベテランから若手まで多くの選手とコミュニケーションをとり、ムードメーカーの一人と言える板倉は、清々しいほどに誰よりも前を向いていた。

「正直、これで終わったわけではない。たぶん多くの方はドイツに勝ってコスタリカに負けて下を向いてるかもしれないけれど、選手はもう次のスペイン戦に向かっているので心配しないでほしい。逆にみんなで一緒にスペイン戦を戦ってほしいという思いがあります」

プレッシャーや重圧はもちろん感じていることだろう。特に一つのミスで失点に直結してしまうCBのポジションでプレーしているわけだから、そこの感じ方は他のポジションの選手より大きいことだって考えられる。それでも2試合連続でフル出場を続ける男は、常に自分を過大評価するのではなく、今の自分にできることに焦点を当てて目の前の試合に挑んでいる。

「本当に意識していることは、いつも通りやること。W杯だからといって新しく何かができるわけではない。今までやってきたものをいつも通りのメンタリティで出すことを意識しています」

試合から数日経った後、「なぜそこまでポジティブでいられるのか」という問いに対し、「ネガティブになる要素がない」と話しながら自身の思いを口にした。

「だってコスタリカに負けて敗退したわけではないから。スペインという最高の相手と最後の1試合を戦って、グループステージを突破できたら最高じゃないですか。もちろんコスタリカに勝ったらそれがベストだったかもしれないけど、この状況を招いたのは自分たちでもある。でも、逆にここでスペインに勝って突破したらさらに盛り上がる。そういった意味でポジティブに捉えています」

グループステージ最終戦は、昨年の東京オリンピック準決勝で敗れたスペインとの一戦。 【©Aoyama Tomoo】

楽観視しているわけではない。ただ、事実として、ドイツに勝利した経験を持ち、最後にスペインとの戦いが待っているだけのこと。コスタリカに負けたところで、スペインに勝てば突破が決まる状況は何一つ変わっていない。だからこそ、普段と変わらず前を見続けている。

スペインは誰がどう見ても強敵だ。ドイツ戦以上に苦しい戦いになることは間違いない。だが、勝つチャンスはあると板倉は断言する。

「やはり相手にボールを持たれる時間が増えるのは承知している。ただ、そこでネガティブになるつもりはない。奪えるところではしっかり強くプレスしにいかないといけないし、奪えるチャンスを逃してはいけない。もちろん前から頑張っていきたい思いもあるけど、試合展開的には相手を引き込む状況が多くなると思う。奪える時はアグレッシブにいきたいですね」

ここまで2試合を終え、パフォーマンスだけを見れば、チームで最も安定感のあるプレーを見せていると言っていい。スペイン戦でも同様の活躍を見せることが、日本の勝利につながるはずだ。

「4年前はファンとして見ていた側なので、W杯の盛り上がりを覚えている。僕たちの力でみんなを喜ばせたいし、日本を背負ってここに来てるので次の試合で帰るわけにはいかないです」と語った板倉。チームに最高の結果をもたらし、みんなを笑顔にする。ポジティブかつ強い信念を持った男が、スペイン撃破への道を切り開いていく。
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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