「負けたことがあるというのがいつか⼤きな財産になる」特派員ファイナルレポート【B MY HERO!】

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悲願の初優勝を達成した琉球 【(C)B.LEAGUE】

過去のデータはそれを超えていくためにある

 バスケットボールコメンテーターでB MY HERO! 特派員の朴です。

『負けたことがあるというのがいつか⼤きな財産になる』

 絶賛上映中の『THE FIRST SLAM DUNK』で常勝チームである⼭王⼯業が敗北した後、堂本監督が悔し涙を流す選⼿たちにかける⾔葉ですが、こんなにもこのフレーズが刺さるシチュエーションはそうないかもしれません。

 2018-19シーズンの千葉ジェッツが準優勝した時から続く、前年度準優勝チームが翌年に優勝する流れは今シーズンも続き、琉球ゴールデンキングスがチャンピオンシップ全ラウンド2連勝による完全制覇で今季を締めくくりました。

ダーラムはシーズンを通して優勝への準備を進めていったという 【(C)B.LEAGUE】

 アレン・ダーラム選⼿が試合後のコメントで「今シーズンの初めに、昨年⾜りなかったピースをかき集めるところから⾊んなことに取り組んできました」と語りました。

 CSで無類の強さを⾒せつけた琉球も、昨シーズンは宇都宮ブレックスにファイナルの舞台で2連敗と苦渋を飲まされてしまいました。レギュラーシーズン(以下RS)の成績だけ、数字だけでとらえるのであれば、昨季は49勝7敗(コロナによる試合数の減少有)のリーグ⾸位と今季を上回る勝率と成績をたたきだしたうえでの満を持してのCSだったはず。

 ⻄地区初のCS制覇を成し遂げた琉球はそんな昨季の経験をチーム全体で1シーズンかけて準備してきたこと、まさにそれが実ったファイナルだったように感じました。

 今シーズンの琉球は、昨シーズンのエースで看板選⼿であったドウェイン・エバンス選⼿を⼿放しました。RSで全体⾸位、CSでも準優勝しながらのこの動きには⾮常に驚いたことを覚えています。もちろん、琉球から⼿放したのか、契約⾯での折り合いがつかず選⼿が移籍を選んだのかは当⼈たちしかわかりませんが、SF(スモールフォワード)よりの選⼿を放出したうえで、補強したのはPF(パワーフォワード)のジョシュ・ダンカン選⼿でした。

 それに加えて、帰化選⼿枠を東アジアスーパーリーグに向けてアジア枠として埋めましたが、うまくチームにはまらずに、シーズン終盤で⼊れ替える必要もありました。

 期待の⽇本⼈ビッグマンの⾄宝、渡邊⾶勇選⼿もケガの完治に時間がかかり、チームに合流したのは中盤以降となりました。

優勝のラストピースとなった松脇 【(C)B.LEAGUE】

 ロスターの状況としては未知な部分があった中、今季加⼊した松脇圭志選⼿、昨季怪我でCSに出れなかった牧隼利選⼿や⽥代直希キャプテンがシーズンを通して健康状態も保ち、セカンドユニットとしての層の厚さを作りました。

 アウトサイドのエース今村佳太選⼿と代名詞のココナッツスリーをファイナルでも沈めた岸本隆一選⼿はCS全体を⾒ると絶好調ではありませんでしたが、チームで彼らに打たせ続けた事が⼤事な場⾯で効果を出しました。琉球の強さの源であるオフェンスリバウンドがなくては成⽴しなかったでしょう。そして、シーズンの⾏⽅を決めかねない⼤きな動きであったエバンス選⼿からダンカン選⼿への⼊れ替えは、岸本選⼿と今村選⼿にチームのボール、チームのショットを託していくという共通理解が⽣まれた根源となったのかもしれません。

 ダーラム選⼿の先のコメントに続く流れで「浮き沈みの激しいシーズンでしたが、ハングリー精神と我慢をし続けてチーム⼀体となって取り組んできました」とありますが、思うように⾏かないことも全てチームで乗り越えてきた、そんな強さがCSでも⾒られたように感じます。

 そんなファイナルを制した琉球と史上最⾼のチーム千葉Jとの試合を少し私の⽬線からふれていきたいと思います。

間違いなく今季最⼤の死闘となったGAME1

 Bリーグ史上初となるCSでのオーバータイム(以下OT)どころかダブルオーバータイム(以下2OT)まで突⼊し、選⼿が疲れないのであれば、このままいつまでも⾒続けたいと思ったファンも少なくはないんじゃないでしょうか。かくいう私も、友⼈の誕⽣⽇会のすみっこで⽬を離せないひと時を過ごしていました。

琉球は終始激しいディフェンスで千葉Jに対抗した 【(C)B.LEAGUE】

 シーズン通りのバスケを貫きたかった千葉Jと、CS仕様のフィジカルコンタクトをぶつけた琉球でしたが、1Qを27-15とした中で、17点のランを作る素晴らしいスタートを切りゲームをコントロールしていったのは琉球でした。

 いつにもまして激しいリバウンドと、原修太選⼿やクリストファー・スミス選⼿のウイングを好きにさせないハードなディフェンスでリバウンドでは13-9(うちオフェンスリバウンドが7-4)、そしてターンオーバーでも3-1と千葉の出⿐をくじくことに成功しました。そのうえ千葉のキモであるギャビン・エドワーズ選⼿から2ファウル奪い、千葉のベンチワークにもトラブルを引き起こすことに成功しました。

 そこから千葉は富樫勇樹選⼿、ジョン・ムーニー選⼿を中⼼に流れを押し戻し前半は41-36の琉球5点リードまで持ち直しましたが、後半に⼊り4分弱のところでエドワーズ選⼿が4つ⽬のファウルを宣告され窮地に⽴たされました。このクォーターで⼀気に持っていきたい琉球でしたが、ショットが決まらない時間帯に加えて前半4本のみに抑えていたターンオーバー(以下TO)が3Qだけで6本と思うように勝利へのプレッシャーが⾒えた10分間となりました。

 千葉はエドワーズ選⼿のファウルトラブルをチームで乗り越え、ショットの確率が上がらないなかムーニー選⼿を中⼼に10本のフリースローを獲得し、1Q以来のリードを奪う場⾯も作りながら差をほとんど無くして最終4Qに持ち込みました。

 試合を通して最⾼のショット確率を最後に持ってきた千葉と、3QにTOを重ねてしまった悪い流れを断ち切った琉球の4Qは互いにビッグショットを決め合う展開となり終盤に今村選⼿がフリースロー(以下FT)を1本落とした後、ヴィック・ロー選⼿がピック&ロールからステップバック3PTをヒットし、最後はダーラム選⼿のアタックを⽌めこぼれ球を狙った今村選⼿のジャンパーが外れてOTへ。

 流れ的にも、⼤量リードを溶かし、クーリー選⼿をファウルアウトで失い、最後も千葉にオフェンスを決められて、守られてしまった琉球でしたがOTで最初の千葉のオフェンスを⾷い⽌めるとディフェンスゲームに持ち込みました。

 体⼒的にも苦しいOTは互いにショットの確率が上がらず、序盤のエドワーズ選⼿のファウルトラブルと琉球のスミス選⼿対策によってプレイタイムに特に偏りが出てしまった千葉Jもアテンプトで琉球の倍である10本を放ちながら出だしの2本しか決められないまま2OTへ。1OTで琉球は追いつかれた苦しさの中、ショットこそ決まらなかったもののしっかりとセットオフェンスでボールを回しオープンショットを作れていたのが印象的で、そこには千葉のDF強度の低下を少なからず感じました。

 対照的に千葉Jは残り40秒に通常であれば決めているレイアップを富樫選⼿が落としたあと、残り36秒で起こした琉球のTOに対してのオフェンスポゼッションで選択ミスが起こりました。普段であればクイックショットでラストオフェンスを⾃分たちの物にするか、時間を使って良いセットオフェンスを展開するかの⼆択を選ぶ事は難しくないでしょうから、おそらくは疲労から来る判断ミスであり、避けられなかったものでしょう。

 そして勝負がついた2OTは琉球の今村選⼿が試合を通してみれば確率はいつもより落ち込んでいたものをしっかりと決め違いを作り、最後はファウルゲームで得たFTもチームで決めきりBリーグ史上最⼤の死闘となったGAME1を制しました。

 結果論にはなりますが、この50分間の戦いを取り切った琉球がGAME2も取ることになりました。GAME2では修正⼒を⾒せたかった千葉でしたが体⼒的な余裕がない所に加え、チャンピオンシップモードを古巣相⼿に⾒せたコー・フリッピン選⼿に3PT3/6、FT10/10と従来のデータを⼤幅に上回る縦横無尽な活躍でCSキャリアハイとなる21得点を奪われ、千葉Jのリーグ史上初となる三冠への夢は断たれました。

 そのコー・フリッピン選⼿がコメントで「どちらに転んでもおかしくない試合だった」と⾔っていますが、その通りでGAME2も最終Qでも3ポゼッション差の時間帯となる接戦でしたが、データを上回る活躍をみせたフリッピン選⼿を筆頭にCSで、そしてファイナルで集中⼒と遂⾏⼒がチームとして上回ったのは琉球だったかもしれません。

 千葉Jはリーグ史上最⾼勝率、最⻑連勝を記録し、天皇杯も制したものの、新体制になった

 1年⽬というチームの成熟度としては今年の琉球に⼀歩遅れをとったのかもしれません。

 それでも、最後に桶⾕⼤HCが残した「本当に強く最⾼の相⼿と最⾼の舞台で戦えてよかった」という⾔葉は、昨季のファイナルで当時の宇都宮の安齋⻯三HCのコメント「琉球さんが最強で最⾼のチームだったから、⾃分たちも⼒以上のものを発揮できたと思っています」に同意義だと思います。

 最強で最⾼の相⼿に、最⼤限の⾃分たちを出せた琉球は本当に素晴らしかった。

琉球を率いた桶谷HC 【(C)B.LEAGUE】

 シーズン途中には⻄地区4位まで沈んだ瞬間もありながら、最終節で⾒事に⾃⼒で地区優勝を決めた琉球のCSチャンピオンの余韻に浸りながら、来季へ思いをはせるオフシーズンは各チームの動向からまた⽬が離せないものになりそうです。

 まずはファイナルで敗れた千葉Jの来季への動きが⼀番の注⽬となりそうです。

 来季のスローガンが何になるかわかりませんが、最後まで「ココロ、たぎる」最⾼のシーズンでした。

朴航生(B MY HERO!特派員)

【(C)朴航生】

岡山学芸館高校を卒業後、アメリカ留学を経て、SHIZUOKA GYMRATSの一員としてABAへ参戦。帰国後bjリーグトライアウトの門を叩き、現B1の島根スサノオマジックへ入団、2シーズン在籍した。その後、Bリーグ開幕に伴いご縁を頂き、現在はバスケットボールコメンテーターとして島根のホームゲームを中心に奮闘中。ホーム、アウェーを同様に解説する姿勢、わかりやすい戦術解説に多くのファンを持つ。

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