【坂本花織インタビュー】重圧を乗り越えて…「自分、結構すごい所まで来たな」

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チーム・協会

オリンピック銅メダリストであり、世界選手権で2連覇を達成したフィギュアスケーターの坂本花織。オリンピック後に「燃え尽きた」感覚を抱いた坂本はどのように自分を取り戻したのか、Olympics.comのインタビューで語った。

【International Skating Union (ISU)】

坂本花織がISU世界フィギュアスケート選手権で2連覇を達成してから一夜明けた3月25日の午後。

日本フィギュアスケート界のスターはさいたまスーパーアリーナでウィニングランを行い、観客の群れの中に記念品を投げ入れ、ファンとハイタッチした。

4月9日に23歳になった坂本は、光り輝き、人生を楽しんでいる。

フィギュアスケート界において、彼女のような世界王者(そしてオリンピック・メダリスト)がかつて存在したことはあっただろうか。

坂本花織の2022/2023シーズン

坂本がこのような形でのシーズンを始めることになるとは、誰も思いもしなかっただろう。北京2022オリンピックのフィギュアスケート女子シングルで銅メダルを獲得し、そのシーズンの締めくくりに世界女王の称号を初めて手にした坂本だったが、翌シーズンが始まると、何か違和感があった。

坂本はスランプに陥っていたのである。

世界選手権で2連覇を達成した3月下旬、Olympics.comのインタビューに応えた坂本はシーズン序盤をこう振り返った。

「今シーズン最初の方は、気持ちの面で落ち込んでしまうというか、頑張ろうと思っても頑張りきれない部分があって、成績も内容もイマイチよくなかった…」

11月のNHK杯で準優勝で表彰台に立った後、12月のグランプリファイナルではショートプログラムで首位発進となったが、フリースケーティングを終えると、坂本の顔から笑顔が消えた。最終結果で5位に沈んだのである。

彼女はフリーでのパフォーマンスを「今シーズンいちダメな演技」と表現した。しかし、それはターニングポイントにもなる。

「これがあったから、開き直って必死に頑張ろうと思えるようになりました」とそのときを振り返った坂本は、その2週間後に行われた全日本選手権で、自身3度目の優勝を手にした。

「全日本で優勝できて波をつかむことができたので、そこからは気持ちの面で不安はなく、いつも通りの戦闘モードで戦えたかなと思います」

平昌と北京、2つのオリンピック

坂本はもう何年も前に「困難な状況」を経験している。ジュニア時代から注目を集めていた彼女は、リレハンメル2016ユースオリンピックで6位になると、2018年の全日本選手権で準優勝。17歳にして平昌2018オリンピックへの出場を決めた。

「シニア1年目でオリンピックに出られるというのは稀というか、自分もその場に行けるとは思っていませんでした」

「一番下っ端だったので、上の人たちを追いかけて必死に追いつこうという気持ちでがむしゃらにやりました」

この大会で6位に入賞した坂本は、その後の数シーズンで世界トップクラスのスケーターとしての地位を確立していった。そして全く異なる気持ちで自身2度目のオリンピック、北京2022へと向かっていった。

「(北京オリンピック前は)オリンピックの選考会の全日本で『優勝して1発内定を決めて出たい』というくらいオリンピックにかける思いは強かったし、オリンピックに出てからも、『団体と個人でしっかりノーミス(の演技)をしてメダルを取りたい』という気持ちがあったので、そこは平昌と北京では大きな差があったなと感じます」

彼女はそのほぼすべてを実現させた。北京大会の1週目には日本代表チームの団体戦メダル獲得に貢献し、女子シングルではバンクーバー2010の浅田真央さん以来の日本女子フィギュアスケート・メダリストとなった。浅田さんは坂本が子供のころに憧れたスケーターである。

【International Skating Union (ISU)】

何が起こるかわからない不安

しかし、そのメダルと、その数週間後の世界選手権での優勝は、プレッシャーとなって坂本に重くのしかかっていく。

「あんまり口には出したくなかったんですけど、多分そのときはめっちゃ燃え尽きたんだなという感じでした」と、坂本は2022/2023シーズン序盤を振り返る。

「練習はしてるんですけど向上している感じがなくて、一定か下がるか、みたいな感じで」

「本来、試合前はもうちょっと上がってほしいのに、なかなか上げきれずに現地入りして、『この大会がどういう出来で終わるのか』というのがわからない状態で挑むことが多く、ギャンブルみたいな感じでずっと試合をしてました」

安定しない心と体でシーズンを過ごしてきた坂本は、その状態のままISUグランプリファイナルが行われたトリノの地に降り立った。ショートプログラムで好調な滑り出しを見せたものの、フリースケーティングではミスを連発。しかし、この出来事は坂本を目覚めさせるきっかけとなる。

「ファイナルのときが一番悔しくて…。すべてを捨てて、一から頑張り直そうと思えました。そこからはオリンピックとかの重圧がちょっとだけ薄れたというか、そこまで考えすぎずにできるようになりました」

坂本が歴史に名を刻み、歴史を切り開く

坂本は日本女子フィギュアスケーターとして初めて世界選手権での2連覇を達成した。

「めちゃくちゃ嬉しい。2連覇というのも、今まで(達成した人が)いないというのを試合前にインタビューとかで聞いていたので、それを自分が成し遂げて、『自分、結構すごい所まで来たな』という感じがしました」

坂本はこの勢いを2023/2024シーズンに持ち込む。そして、そのもっと先にはミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックがある。

「来シーズンは夏の試合からいいスタートがきれるように、シーズンオフの過ごし方もしっかり考えたい」と彼女は言う。

オフシーズンは、4月13日〜16日に予定されている世界フィギュアスケート国別対抗戦の後に始まる。これまで感じていたさまざまなプレッシャーから解放された彼女が、本当に羽ばたく姿を私たちは来シーズン、見ることができるかもしれない。

文:Nick McCarvel
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