小林悠が見た、新しい景色〜eスポーツがもたらすバリアフリー

川崎フロンターレ
チーム・協会

【株式会社ePARA】

きっかけは「商店街挨拶回り」

川崎フロンターレの小林悠が7日、川崎市コンベンションホールで行われた「11人制eサッカースタジアム-車椅子イレブンがプロサッカー選手と創る『新しい景色』」に参加した。「車椅子イレブン」とは、昨年に結成された車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」のこと。eサッカープレーヤーはもちろん、企画・運営にも障がい当事者が携わる。筋ジストロフィー、横断制脊髄炎、脊髄損傷、脳性まひなど、自身の病も公表して活動し、中には足で操作する者や、片手でプレーする者もいる。また、チームに声援を送るこの日のコールリーダーを務めたのは先天性全盲のeスポーツプレーヤー。試合用チャントの編曲は統合失調症をもつクリエーターだ。チームに関わる人たちの姿によって、障がい当事者や健常者にとっても元気や勇気を与えることを目標としている。

5年前、小林が他選手とともに地元の商店街めぐりをしていた際、当時高校生だった石井健瑠さんと一緒に写真を撮ったことがきっかけとなり続いていた二人の縁が、今回の機会につながった。ePARAユナイテッドの中に小林が入り(ポジションはもちろんセンターFW)、CPUと対戦した。

小林悠を囲むePARAユナイテッドの選手たち。 【株式会社ePARA】

使用したのは、チーム一人ひとりをそれぞれが操作する『EA SPORTS™ FIFA 23』のプロクラブモード。小林が入ったePARAユナイテッドは、2試合を行った。

攻め込みながらもなかなか点が決まらず、0-2と敗れた1試合目を経て、GENKIモリタ監督(eスポーツプレーヤー)や鳥越勝さんらが中心となり前向きに声を掛け合い、2試合目へ。

その2試合目も先制を許す難しい展開となったものの、40分に小林が左足でゴールを決めて同点に追いつく。小林は「めちゃくちゃうれしい」と、天高く両拳を突き上げてピッチ上と同様に喜びを表現した。さらに60分、クロスを小林が中央でうまく合わせて逆転。牧野美保さん、鱒渕羽飛さんにもゴールが生まれ、4-1で勝利した。徐々にチームワークも生まれ、「初めてのeスポーツだったが、その素晴らしさを感じた」と小林も感激していた。

盛り上がったイベントの最後には、小林が「フロンターレの選手たちや、ほかのJリーグのチームの選手たちでもいい。次の機会で対戦できればいいですね」とコメント。今後も川崎フロンターレや小林悠と、ePARAユナイテッドの交流は続きそうだ。

ゴールを決めた小林悠は、等々力さながらの渾身のガッツポーズ。 【株式会社ePARA】

株式会社ePARA CMO 細貝輝夫さん
「障がいをすべてネガティブに捉えるのは、『違う』と思ってきました。障がいをもつ方々の中には、その方やご家族にしかできない挑戦をしている方や、自分らしい生き方を追求している方はたくさんいます。

実際にこうした企画も行うことができましたし、スポーツを通じてできることがあるということが示せたように思います。サッカーが好きなら、サッカー選手と一度でも一緒にプレーしたいという夢をもちますよね。それを、ゲームで実現することができました。今回の企画ができて本当によかったです。

個人的にも、小林悠選手のことが人として大好きです。これまでも、けがを乗り越えてきた経験があり、チームを大事にする気持ちも目にしてきました。移籍オファーがありながらフロンターレに残留して、キャプテンとして優勝、MVP、得点王を獲得しました。チームを愛しているということが、見ているこちらにも伝わってきます。

それに、フロンターレというチーム自体が、選手たちのことを大事にしているというのも感じていました。引退した選手をケアする愛情がありますよね。チームを大事にするフロンターレさん、小林悠さんと一緒に企画ができたということが喜ばしいです。

ePARAユナイテッドの選手たち全員が感動していましたし、本当に喜んでいました。一方で、『トークもプレーも3割位しか出せていない』という声も…。実際、2試合目の途中まではガチガチで、焦りと緊張からチーム全体が普段通りの動きができていませんでした。そんな重い空気を打開したのが小林悠選手。小林悠選手らしい動きでもぎとった念願の1点で、チーム全体の動きが一気に軽くなりました。エースの得点が、素敵なストーリーに仕上げてくれました。

今年に入ってから小林選手がケガをされて、この企画自体が流れるかも、と心配していました。それでも、快く参加していただきました。けがを乗り越えようとしている小林選手、それに障がいを受け入れながらも前に進んでいるユナイテッドのメンバー…。いろいろな意味で意義があるんじゃないかと感じました」

障がいの種類や有無に関係なく、本気でぶつかり合えるのはeスポーツならではの強みだ。 【株式会社ePARA】

小林悠
「商店街にいったときに顔を出してくれたときから『つながり』があり、たけちゃん(石井健瑠)の応援を、これまでもずっと感じてきました。コロナのこともあってなかなか実現できませんでしたが、今回こうやって一緒にイベントができてよかったです。

eスポーツの経験は初めてでした。大人になってからはゲームをほとんどやっていなかったこともあり、またこういう場で最初はすごく緊張しました。それでも、1試合目、2試合目とやっていくうちにみんなも含めてリラックスできて、ゲームでもいいプレーが出てきました。2試合目は勝ててよかったですね。eスポーツの素晴らしさを感じました。みんなが一つになって遊べたことがよかったです。

障がいがある、ないは関係なく、みんなで一つのことをやるというのは素晴らしいこと。感動しました。今度は自分がサッカーで元気や勇気を与えられたらいい。何かできないか、探しながらやっていければと思っています」

(文:田中 直希)
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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