「次のニッポン柔道」への確かな第一歩。 グランドスラム東京 2022イベントレポート

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【STT】

スポーツテックをテーマとしたアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」では、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」を開催している。今年度はコラボレーションパートナーとして「全日本柔道連盟」(以下、全柔連)が参画。今回の記事では、12月3日と4日に開催された柔道グランドスラム東京2022にて全柔連が取り組んだテクノロジー活用施策の様子をお伝えします。

観戦体験が進化

昨年の東京オリンピックでは、1競技あたりのメダル獲得数で最多の9つの金メダルを獲得した日本柔道だが、その実力や結果に反して、競技及び観戦者人口の減少に頭を悩ませている。この柔道界の課題に対して、柔道の魅力と価値を発信するために立ち上げられたブランディング戦略推進特別委員会は、グランドスラム東京を改革のきっかけにすべく様々なプロジェクトを推し進めてきた。
ブランディング戦略推進特別委員会 委員長の井上康生氏は、大会前のインタビューで、グランドスラム東京の大会の価値を上げることを一つの目標に、「スポーツプレゼンテーションに注力します。」と話してくれた。そのインタビューの通り、会場では観戦体験の向上のために、多々工夫が施されていた。

中でも、大きな課題として挙げられていた「ルールが分からない」、「試合がスピーディーすぎて何が起こっているのか分からない」という観戦者の意見に対するアプローチとして導入された場内解説サービス“Platcast”は、会場でも多くの利用者が見受けられた。

Platcastのサービスページ 【STT】

Platcastは、観戦者が所有するスマートフォンでQRコードを読み込むだけで利用することができる、非常に有効かつ無料で手軽なサービスである。生観戦だからこそ体感できる独特な空気感を感じながら、テレビやラジオ中継のような試合解説を聞くことができ、初めて柔道を見る方でも柔道を充分に楽しむことができる。

そして、試合演出も大きくアップデート。決勝戦の入場時には暗転やライティングなどの照明演出に加え、会場を巻き込んだ手拍子を促す演出によって、決勝に相応しい空気感を作り上げた。

【STT】

全柔連でメディア・マーケティング領域を担当する本郷 光道氏は、スポーツプレゼンテーション施策に関して「コロナ対策により声援は控えていただいていましたが、照明や音響等の演出と合わせて手拍子や拍手が起こり、会場に一体感が生まれ、盛り上がる瞬間が多くあったと感じました。オンライン施策として、デジタルコンテンツの発信も続けてまいりますが、大会のライブ観戦体験を向上させていくこと、会場に足を運びたくなる大会を作り上げていくことも非常に重要だと考えています。予算面など課題はありますが、工夫をしながら取り組みを継続させていければと思います。」と話してくれた。

最新テクノロジーによる価値創出

全柔連は、スポーツ庁が実施する「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」のもと、キヤノンマーケティングジャパンと協業している。この協業では、キヤノンが保有するテクノロジーを使用し、柔道の新たな魅力を追求し、魅力を届けることを目指してプロジェクトを推進。グランドスラム東京大会に向けて、3つの施策が展開された。

取り組みの背景や詳しい内容は、過去の記事をご覧ください。
「柔道、新時代。」グランドスラム東京2022で柔道の魅せ方が変わる。 キヤノンと全日本柔道連盟が取り組む、テクノロジー活用。
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202211240089-spnaviow

企画の軸になったのが「ボリュメトリックビデオ技術」という時間と空間を丸ごとキャプチャする技術である。畳の下から見ているようなアングルなど、これまでには考えられなかったカメラワークを含む360度自由な視点で映像を見られることが特徴で、この技術を活用して撮影した映像とテクノロジーを掛け合わせ、それぞれの施策が展開された。

ボリュメトリック技術を用いて制作した映像の一部 【全日本柔道連盟/キヤノンマーケティングジャパン(株)】

1つ目の企画は、全柔連が運営する公式YouTubeチャンネル 全柔連TVで公開されたプロモーション動画。東京オリンピック金メダリストである大野将平選手、ウルフ・アロン選手が参加したこの動画は、2022年12月9日時点で47万回再生され、これまでに全柔連TVが公開している動画で5番目に多く再生されている。様々な角度から選手の技や表情を見られることに加え、音やエフェクトが編集で加えられたクールな演出が人気のポイント。動画内のコメント欄には、国内外の柔道ファンから賞賛のコメントが届いており、非常に好評だ。

JUDO × TECHNOLOGY | Volumetric Movie by Shohei ONO × Aaron WOLF / 大野将平×ウルフアロン
https://youtu.be/IxESvQBpGSU
2つ目の企画は、NFTを活用したデジタルトレーディングカード「JUDOコレカ」。昨今NFT×スポーツの取り組みは徐々に増えてきているが、柔道界では初めての取り組みとなる。グランドスラム東京では、来場者に計2枚のカードを配布。1つは、ボリュメトリックスタジオで撮影した映像やイラスト写真をカード化した選手のオリジナルカードもう1つはイベントポスターをカード化したイベントカードである。このイベントカードは、現地観戦と二次流通のみで手に入る貴重なカードであり、観戦動機の創出、二次流通の活性化が期待されている。

また、カード配布時の裏面は空白であるが、大会終了後には金メダリストが記されるファンの心をくすぐる細かい仕掛けも施されている。

JUDOコレカのイベントカード 【STT】

JUDOコレカのイベントカード 【STT】

3つ目の企画は、会場で楽しむことができるコンテンツ「JUDOオール・ビュー」。
ハンドスキャナーを使用し、360度自由視点の映像を操作することが可能。選手の技を、テレビ中継や試合会場からでは見られない角度から自由自在に見ることができる。特別な機器は使用せず、目の前のハンドスキャナーに手をかざしたり、動かしたりするだけで映像を自由自在に動かすことができるため、老若男女問わず楽しむことができるコンテンツである。このプロジェクトを企画・統括プロデュース推進するキヤノンマーケティングジャパン 諏訪氏は「直感で映像を動かせるので、特に子どもたちに人気。このような技術から柔道に興味を持ってくれたら嬉しい。」と語る。

一連の取り組みは、JUDO×TECHNOLOGY特設サイトからご覧になることができます。
https://www.judo.or.jp/volumetric/

また、新たな柔道ファン創出の切り口としてアニメの力にも期待を寄せている。2023年1月からテレビ東京で放送予定の柔道漫画“もういっぽん!”とのコラボレーションブースを設置し、放送までの機運を高めた。子どもたちを中心に写真撮影の列ができており、新規層の呼び込みについても手応えを得た。

【STT】

グランドスラム東京2022を終えて

幕を閉じたグランドスラム東京2022について本郷氏は、
「両日とも大変多くの観客の皆さまにご来場いただき、大会2日目にはチケットが完売しました。来場された方々に柔道や大会のライブ観戦の魅力を感じていただけていたら嬉しいです。大会後に実施したアンケートには1000件を超える回答をいただいておりますが、『初めて柔道の試合を観に来た』と回答された方が多くいらっしゃったことが印象的です。グランドスラム東京は世界最高峰の技と力のぶつかり合いを目の当たりにできる機会ですが、大会の存在や魅力を幅広い層に届けることが最大の課題でした。今回実施したプロモーションの振り返りをしっかりと行い、来年以降につなげていきたいと思います。」と振り返った。

5年ぶりの東京開催となったグランドスラム東京2022は、スローガンである “踏み込む、一歩。次のニッポン柔道。”を体現した大会になったのではないだろうか。今後もSPORTS TECH TOKYOでは、全柔連のテクノロジー活用による挑戦の様子をお伝えしていく予定だ。
執筆協力:清野修平
新卒でJリーグクラブに入社し、広報担当として広報業務のほか、SNSやサイト運営など一部デジタルマーケティング分野を担当。現在はD2Cブランドでマーケティングディレクターを担いながら、個人でもマーケティング支援を手掛けている。

執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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