V2達成、中信兄弟・林威助監督支えた平野恵一打撃・野手統括コーチ ロングインタビュー

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【林威助監督の横には、いつも平野コーチの姿があった (C)CPBL】

 今年の台湾プロ野球は、後期シーズン優勝、プレーオフを勝ち抜いた中信兄弟が、前期優勝、楽天モンキーズとの台湾シリーズを4連勝で制し、V2を達成した。

 20日、中部・台中市では優勝パレードが行われた。林威助監督やコーチ陣、選手や応援団を載せたオープントップバスの前後を、ファンのスクーター1000台以上が並走したほか、沿道には昨年の1.5倍、約15万人のファンが集まり、2連覇を祝った。

 パレードのゴール地点、本拠地・台中インターコンチネンタル球場に到着後、林威助監督は、平野恵一・打撃兼野手統括コーチとガッチリと握手を交わした。

 昨季、チームを11年ぶりの優勝に導いた林監督だが、従来よりも公式球の反発係数が抑えられ、「投高打低」が顕著となり、戦術の多用、スモールベースボールの重要性を感じていた。さらに、ヘッドコーチと内野守備コーチが富邦にヘッドハンティングされた中、林監督は、阪神時代のチームメイトで、169センチと小柄ながら、現役時代はシュアな打撃と小技に加え、内外野をこなす守備力をもち、走塁の意識も高いオールラウンドなプレーヤーとして活躍、また指導者としても豊富な経験をもつ平野氏こそが連覇に欠かせぬキーパーソンと考え、野手の全権コーチとして招聘、平野コーチはその期待に応え、重責を全うし、チーム力の底上げに成功した。
 
 11月9日、台湾シリーズ制覇直後、林威助監督と熱いハグを交わす平野コーチの姿があった。

「あの時は『監督良かったね、本当によかったね』って言ったこと、監督が『ありがとう、よかったな』って言ったこと、その二言ぐらいしか覚えてない。それまでは『監督ごめんね。恥かかせているね。申し訳ないね』とか謝ってばっかりだったので」

 昨年のオフ、林監督から直接オファーを受けた平野コーチは、説得を受け、熟考の末、中信兄弟のコーチ就任を決めた。具体的には「楽天に勝てるような打線をつくってほしい。ただ打つだけではなく、色々な手腕を見せてほしい」という依頼であったという。

 決断を後押ししたのは、林監督が自分をよく理解してくれていること、ヘッドコーチと協力の上、打撃、守備、走塁と野手指導の全権を任せたいと言ってくれたことに加え、2015年から、毎オフ、台北市内で開催されていた少年野球教室に参加し、台湾との縁を感じていたことも大きかったという。
 また、試合中、林監督の隣に自分が立つことで、監督のプレッシャーが緩和されるのではないかと考えたとも振り返った。実際、今季の試合中、常に林監督と話をする平野コーチの姿があった。

「いろんなことを話してますわ。野球の話ですけどね。もちろん、いろんな技術の話から、戦略の話から、相手の分析の話から、監督の要望だったり、この選手はこうしていきたいなとか。短期的な話をしたり、長期的な話をしたり。あとは昔話をしたりもね。こういう時、こういうことが起きるから気をつけようかとか、嫌な予感があるんだったらそれを払拭しようとかね。監督、今日は大丈夫だよとか、いろんな話をしていました」
 
 台湾入りは2月末となり、隔離期間もあった為、3月半ばまではリモートでの指導となった。「僕のコーチングのスタイルは誰よりも選手をしっかり見ること」と語る平野コーチにとって、不自由さはあったが、スタッフのサポートのもと、映像を通じ、中信の野手陣はもちろん、他球団の投手陣もチェック、選手の見極めを行い、林監督がチームの方向性を決めるうえでさまざまな提案を行った。そして、個々の選手に対しては、限られた時間のなか、実戦や練習日を通じ、いわば「突貫工事」で指導を行っていったという。

 チーム全体の戦略においては、当初は打倒楽天を想定していたものの、他の3チームについても戦力分析を進めていくなかで侮れないと感じ、「これは苦労する」と不安を覚えたという。実際、前期は優勝争いこそしたものの、楽天に4.5ゲーム差の2位、後期シーズンも楽天がロケットスタートを切った一方、序盤、成績は低迷した。

 しかし、8月下旬から徐々に調子をあげ、特に9月中旬から10月中旬にかけては、19試合で17 勝1敗1引き分けという快進撃をみせ首位に立つと、そのまま後期シーズンを制した。この快進撃を支えたのが、野手陣では林監督が「1.5軍」と呼んだ若手、中堅の一軍控え選手達だった。主力野手陣の穴を埋めるどころか、レギュラーを獲得する選手も現れたことで、あらためて平野コーチの手腕が注目されることとなった。
 
「今年初めのバッティング会議で、3割打ったやつ何人いるんだって聞いたら、1人(王威晨)しかいなかったです。打ちたいやつはって聞いたら最初は数人、でも次に聞いた時は、結構手を挙げたので『絶対打たしてやる、俺の言うこと聞いたら絶対打てる』って言ったんですよ。ちょっと聞いてみようかなってやつが少し打ち出したと思います。別に聞いてなくても打てたやつもいるかもしれないけど。だから、ちょっとしたことで、みんなものすごいポテンシャルを持っているんで、可能性は無限だと思います」

 正確には「3割打たせてやる」ではなく、「3割打てる選手はこういうことをしているよ」と選手たちに伝えていったという平野コーチ、潜在力の高い選手たちはその指導を吸収し成長していった。そして、さらに重要だったのは、チーム内に競争意識を植え付けることだった。

「主力に関しては特に何も言わなかったです。何をしたかってライバルをつくっただけです。これも戦略です。だから調整不足とか調子が悪かったんじゃないです、出れなかった人は競争に負けただけなんです。出られた人は競争に勝っただけなんです」

「うちは楽天と勝負してたんじゃない。チーム内で勝負したんです。ライバルたちによる熾烈な戦いです」
 
 チーム内の競争意識植え付けによる効果は、台湾選手だけでなく外国人選手に対しても同様だった。好リード、強肩で投手陣を牽引、後期シーズン快進撃の立役者のひとりとなったドミニカ共和国出身の捕手、フランシスコ・ペーニャの活躍について平野コーチは、外国人枠のあおりを受け二軍暮らしが続き、心が折れかけていたペーニャが、「それでは台湾人捕手に負けちゃうよ」と言われ、再度奮起したエピソードを明かした。

―後編に続くー

文・駒田英
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