次につながる“攻めの走り”を 箱根駅伝2025 選手・監督に聞く
記者からの質問を受ける中澤主将 【日本大学】
暑さとの戦いにもなった過酷なレースだったが、結果は総合7位。チームメイトたちが2年連続の箱根切符をつかんでくれた。故障者が出てチームの状態も安定しない中での戦いに「正直不安だった」というが、「一度出場しているからこそ、何としても、もう一度あの舞台に戻りたいという意識が上級生は強かったし、下級生も前回の結果を見て“自分もあの舞台で戦いたい”という思いで入部してきた。みんなのそういう強い気持ちを、練習の時から感じていました」と振り返った中澤主将。「全員の力で予選突破を果たすことができた」と、安堵したという。
それから2ヶ月、チームの士気は高いまま、日体大記録会や上尾ハーフマラソン大会では自己ベストを更新する選手が相次いだ。
「予選会が終わってから、みんな着実に箱根への意識が高まっています。実際、それが記録会や大会での結果に現れているし、頑張っているなと感じています。一度箱根を走った経験がプラスに作用していると思うし、その経験があるからこそ、現実的に自分たちが置かれた状況を見られている。このままチーム全員で、最後まで戦い抜くことができればいいなと思っています」
今回の目標を選手たちに尋ねると、誰もが「前回15位から順位を上げること」と口を揃える。「この1年、緻密な練習プランのもと、全員が着実に力をつけている」と話す中澤主将も、壮行会や記者会見では「順位の更新が目標」と公言している。だが、「状況によってそれ以上を狙うこともあるし、それがシード権につながることもある。シード権への意識を持ってやっている選手もいると思います」。
それでも、「まずは着実なレベルアップというのが一番かなと思っています」と言い、「直近の試合で結果を出した選手たちが、その力を本番でしっかり発揮できるかどうか、そこのメンタルケアは大事にしていきたい」と続けた。
中澤主将は、今年の箱根駅伝が終わってすぐに、4年生たちの総意により3年生ながら主将の任に就いた(「“つなぐ”から“つかむ”へ。」記事参照)。2年連続箱根駅伝出場をめざす中で、チームをまとめていく上で悩んだこともあったが、「4年生の方たちがとても親身になって話を聞いてくれ、アドバイスをいただきましたし、同期の3年生もみんなが支えになってくれました」と感謝を口にする。「4年生の思いを受けて主将をやらせていただいているので、少しでも4年生に恩返しできるような結果にしたい。4年生に満足して卒業していただけるようにするのが一番いい形だと思っています」
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さらに、チーム目標「1つでも上の順位へ」をしっかりと達成することで、「来年、最終学年になる自分たちの代で、でき得る最高の形のチームを作り上げていきたい。その具現化が“シード権獲得”だと思っています」とも。その言葉には、1年前とは違う凛々しさがあふれていた。
鈴木選手 【日本大学】
前回5区を走った大橋優選手といっしょに、山へ下見に行っているという鈴木選手だが、コースについて「自分なりの攻略方法というのは考えていますし、大橋さんにアドバイスをもらったりしています」。鍵になると考えているのは、小涌園前から芦の湯までの約4km。「坂の傾斜としてはそこまできつくないという印象。でも、小田原中継所から約11km(標高差約600m)を登ってきて疲労が積み重なってくると、動きが悪くなったり、うまくリズムが作れなかったりするので、もう一度ここでギアを入れ直すことができるように、ふだんの練習でも常に山を走っているイメージで取り組んでいます」
年末の区間エントリーで山を走ることになれば、「72分切りくらいのタイムは狙いたい」という鈴木選手。将来的にはフルマラソンに挑戦したいと話し、「箱根駅伝を通じて着実にステップアップしていきたい。“箱根から世界へ”という言葉を体現したいと思っています」。
大仲選手 【日本大学】
「昨年よりしっかり継続して練習できているので、強くなっているという実感はあります」との言葉通り、予選会では全体1位のキップケメイ選手に続く本学の日本人トップ(全体34位)でゴールして本戦出場に貢献し、2週間前に行われた記録会でも、10000mで自己ベストを約27秒更新(28分49秒84)するなど調子も上向き。「ここからさらに上がっていけるように、練習を重ねていこうと思います」
前回の箱根駅伝では、復路10区のアンカーを務め、9人でつないできたタスキを無事に大手町のゴールへ届けた。
今回も「任された区間で自分の力を出し切りたい」と話し、できれば「往路で勝負したい」とも。「粘り強いスタミナが持ち味。長い距離でも行けるという自信があります」と頼もしい。
早見学生コーチ(左)とキップケメイ選手(右) 【日本大学】
エントリーメンバーの中で唯一「2区は決まっているので」と新監督が明言し、鶴見・戸塚間(23.14km)で前回の雪辱を期す。「タイムは66分くらい。区間賞を獲りたい」と目標を語ったキップケメイ選手は、そのためにスピードをつける練習をしてきたという。
また、ライバルは誰かを問われると、同じ2年生のケニア人留学生、山梨学院大のブライアン・キピエゴ選手の名を挙げた。10月の予選会では最後までトップを競い合い、最後は3秒差をつけて逃げ切ったが、「彼はとても強いです。トラックでのライバルは(リチャード・)エティーリ選手(東京国際大学)ですが、ロードではキピエゴ選手だけ」と言い切った。
「日本語、とても上手ですね」との記者の言葉に、「ありがとうございます」とはにかんだキップケメイ選手。チームに流れを引き寄せる快走に期待が高まるが、「今度はラスト3kmもしっかり頑張ります」と話し、笑いを誘った。
大橋選手 【日本大学】
前回大会は5区にエントリーされ山登りに挑んだが、途中でペースダウンしたことが響いて区間19位、不完全燃焼に終わった。今回は「希望は特にないので、任された区間を全力で走りたい」と話し、「初めて箱根を走るのではなく、経験値があるというのは強みだと思います」。
さらに、この1年、長い距離の練習を積み重ねてきたことで「昨年よりも、長い距離に対して自信がある」と胸を張り、「きつくなってからも、粘り強い走りができるところが自分の良さ」と話す。そして大橋選手は、学生最後の大舞台に向けて「一日一日を大切にして、後悔のないよう、些細なことにも気をつけて、箱根駅伝当日を迎えられればいいなと思います」と、静かに語った。
岡田選手 【日本大学】
そして大学ラストシーズン。走れない時期もあったが、1年を通じて地道に練習を積み重ね、ストライド走法による伸びのある走りに磨きをかけて「粘り強さを自身の売りとして走りたい」と言えるようになった。初めて出走した10月の箱根駅伝予選会は、チーム8番手でフィニッシュ。12月の記録会では10000mで自己ベストを更新した。
本戦エントリーメンバーに入ったことに岡田選手は、「箱根を走る最初で最後のチャンス。その目の前に立てていることを素直にうれしく思いますし、このチャンスをものにしたいという気持ちがすごく強いです」という。そして、この1年を振り返り、「実力も成長したと思いますが、それ以上に自信を持つことや、4年生としてチームを引っ張っていく姿勢など、人としての部分も成長できたかなと感じています。周りからも“この1年で強くなったな”という言葉をいただくことも多かったですし、それを箱根につなげていきたいと思います」と力を込めた。
本戦を走ることになれば、「後半まで粘りながら、のびのび走って行きたい」と抱負を語った岡田選手。卒業後は一般企業に就職し、陸上競技の第一線からは身を退くことにしているため、「陸上競技人生7年間の想いをぶつけます」という憧れの舞台。ラストランではどこの景色を見ているだろうか。
安藤選手 【日本大学】
その後のハーフマラソン大会でもキップケメイ選手に次いでチーム内で2番目に当たる好タイムを出し、新チームでは自他共に認める“日本人エース”となった。だが、安藤選手自身は「日本人エースと言われることにさほど抵抗はありませんが、どうせなら“エース”と言われたいし、エースらしい走りをしたい」とプライドをのぞかせる。「チームの流れを作ったり、この選手がいるから自分たちも頑張れると言われるような選手になりたい。留学生頼りのチームになりたくないので、自分もシャドラックも含めて“エース”だというような形になれたらいいかなと思っています」
12月に入り、調子も良くなってきているという安藤選手だが、今年はたびたびの怪我に見舞われ、「自分の中ではとても苦しく、いろいろ悩んだ1年でした」と振り返る。10月の予選会もタイムを稼ぐ立場でありながら、思うように練習が積めなかったことで集団走の中の1人にとどまり、個人的には悔しさが残るレースだった。「今年1年、エースとしての走りを見せられていないと自分では思っているので、最後はやっぱり“エースだったな”と思われるような走りをしたい」と決意を示す。
2度目の箱根路に向けての心境を尋ねると、「今は比較的落ち着いているかなと思います」との答え。「昨年はワクワクする気持ちが大きく、12月に入ったぐらいからもう、そわそわしていました。早くその日が来ないかなって。それに比べ今年は、最後の箱根駅伝で、最高の走りをして終わりたいという思いで、すごく気合いは入っていますが、緊張するということもまだないですし、ふだん通りです」と笑った。
ラストスパートには絶対の自信を持ち、「ラスト100m、150mで競っている選手がいたら負けるつもりはない」と自信を見せる安藤選手。「前回の自分を超えたいと思っているので、区間3番以内に入りたい」という今大会での個人目標とともに、「来年以降シードを狙えるようなチームにするために、しっかりと何かを残すことができたらいいなと思っています」と、次へつながる走りをすると心に誓った。
新監督 【日本大学】
昨年5月、日本大学陸上部特別長距離部門の再建を任され監督に就任した新監督は、常々、3年目で箱根駅伝出場を果たすという「3年計画」を口にしてきた。しかし、見事1年目で予選突破を果たすと、本戦では「全区間でタスキをつなぐ」という目標もクリアして総合15位。大学駅伝指導者としての初陣を「出来過ぎです」と終えた。
2年目の今年は、4年生の選手が3人だけという状況もあって、3年生の中澤選手を主将に据え、3年目を見据えたチームづくりに取り組んできた。
「今年は2・3年生主体で、これから発展していくチームです」という新監督は、「昨年のチームに比べると、まだ力がない」と評する。「前半の頃は選手たちにちょっと甘い考えもありました。夏合宿前ぐらいから立て直してきて、やっと昨年のレベルに近づいたのかなというように思っています」
「日本人選手が強くならないと上に行けない」という考えの新監督は、5000m・10000mのスピード練習はせず、ハーフマラソンの練習に特化した強化に取り組み、夏合宿でもしっかり距離を踏んできた。「ハーフを走れれば、5000mや10000mは自然に走れると思いますし、実際、記録会(12月1日)では多くの選手が好記録を出してくれました」と手応えも感じている。
今回の箱根駅伝に対する意気込みを聞かれ、「日本人選手15人プラス留学生の総合力で戦っていきたい」と答えた新監督。「前回はタスキをつなぐという最低限の目標を達成できて15位だったので、今回はそこから少しでも上に行ければいいかなというところ。一度出場したので、周囲からはその次を期待されますが、うちのチームはまだまだ“シード権を獲る”と言えるようなチームじゃないと思っています」
続けて新監督は、選手たちへ投げかけたテーマを強調した。
「とにかく今年は攻めのレース、積極的な走りをしてほしいと選手たちに言っています。全部の区間で繰り上げスタートになってもいい。とにかく攻めていく、どんどんチャレンジしていく。それがまた次につながると思いますし、次につなげるために箱根の大舞台で勉強してほしいという気持ちです」
10区間を誰に走らせるのか、「決定しているのは2区の留学生(キップケメイ選手)だけ。あとはまだどうするかわかりません」と、新監督はエントリー締め切りのギリギリまで頭を悩ませるという。
「誰がどこを走ってもいいように、コースの下見は2人・3人ずつで行かせています。練習や合宿での走りを見たり、選手の希望も聞いたりして判断しますが、前回走った選手を必ず同じ区間に使うというような発想はありません」
レース展開の予想を聞かれると、「大学駅伝の指導者2年目なので、そこはまだわかりません」と答えて笑わせたが、「前回も1区・2区・3区で見せ場を作りましたけど、今回も同じようにどこかで見せ場をつくらないと。最初から後ろにいたらダメなんです」と選手たちの躍動に期待する。
「1区でいい流れに乗り、2区で昨年より日本に慣じんでいる留学生が勢いをつけ、それを3区につなげて、さらに4区5区へと続ける。前回を経験している選手たちは、さほど緊張やプレッシャーはないのではと思いますし、上手く流れに乗れたら楽しみができる。あとはどれだけ持ちこたえられるかというところですね」
箱根路を走り出すまであと2週間。「選手たちをリラックスした良い状態でスタートラインに立たせることが私の役目。そして “やってやろう!”という意欲をしっかり植え付けて箱根に臨ませたい」と話す新監督は、最後にもう一度繰り返した。
「とにかく攻めの走りをしてほしい。今回の経験を次につなげること。箱根駅伝はこれで終わりじゃないですから」
2025年1月2日のスタートは、「3年計画」の集大成に向けたスタートでもある。
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