コロナ禍を克服する欧米スポーツ界。対照的な日本 (後編)
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1. プロ野球・Jリーグ
【© 2022 Deloitte Tohmatsu Group.】
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2. なぜ日本では観客が戻らないのか
すると浮上するのが、興行上、ファンにコロナ禍前と同等の満足度が提供できていない可能性である。入場者数制限が撤廃されたのは日本も欧米も同様だが、一つだけ異なるものがある。それは、声出し応援の可否である。欧米では制限が無く、観客の大声援がスタジアムに響き渡っているのに対し、日本では依然として政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」にて「大声を出すこと」が規制されており、基本的に手拍子による応援しか許されていない (なお、同指針においては、大声の具体例として「スポーツイベントにおいて、反復・継続的に行われる応援歌の合唱」と明記されている)。
日本国内では声出し応援が規制されている一方、サッカーのワールドカップアジア最終予選やAFCアジアチャンピオンズリーグ等、海外にて行われる国際試合においては開催国の方針に基づき声出し応援が認められている。そのため、日本からの出場選手たち に対しては、国内のホーム試合では声援が皆無である一方、海外でのアウェー試合の場では駆け付けた日本人ファンたちによる声援が聞こえるという逆転現象が起きており、異常と言わざるを得ない。
興行スポーツにおいては、ファンは単に競技そのものだけを観に来るのではなく、応援を含めた一体感や迫力溢れる雰囲気を味わったり、自ら声援を上げて選手たちの後押しをしたりするために、スタジアムに訪れる。つまり、声出し応援の規制が続く限り、コロナ禍前と同等の価値をファンに提供することはできず、それがスタジアムへ観客が戻り切っていない現状の一因と推察されるのである。この点については、2022年3月に新たに就任したJリーグの野々村芳和チェアマンも、「ピッチでの選手の頑張り、良いスタジアム、そしてサポーターの応援の3つが合わさってサッカーという1つの作品となる」と再三述べており、いつまでも変わらない規制に危機感を抱いたJリーグでは2022年6月よりスタジアムに応援エリアを設けて声出し応援を段階的に再開する方針を表明した。ただし、上記の政府方針では、声出し応援を認める場合は、入場者数はスタジアム収容人数の50%または5,000人の大きい方に抑えなければならないとされているため、クラブは声出し応援と入場者数との間のトレードオフに直面することとなる。集客力の高いクラブほど、声出し応援と引き換えに多額の入場料収入を諦めなければならず、ハードルは高い。抜本的な解決には政府方針の転換が欠かせないのである。
3. 機はここにある
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コロナ禍も3年目に入り、諸外国では社会が正常化しつつある。その中で、スタジアムにもコロナ禍前と同水準に入場者数が回復し、一部では “超回復” の様子も見えている。欧米では、過去2年間苦しんだスポーツ界が息を吹き返し、飛躍へと力強い一歩を踏み出したものと言えるだろう。一方の日本スポーツ界もコロナ禍前は大きな成長を遂げていたことや、紆余曲折を経ながらも結果として2021年夏にはパンデミック下で初となる世界を巻き込む大規模大会を成功裡に完遂し、日本国民も大変な盛り上がりを見せたことを踏まえると、欧米各国と同様にコロナ禍のダメージから回復し、さらなる飛躍を遂げる大きな可能性を秘めていると見られる。ガラパゴス化した規制によって日本スポーツ界だけが回復・成長機会を逸するのは大きな損失となる。環境が整い、大きなポテンシャルが解き放たれることを切に願う。
著者:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネスグループ ヴァイスプレジデント 太田和彦
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