「必ずしも、完成したプロダクトやアイデアは必要ない」 SPORTS TECH TOKYOとCAMPFIREが想い描く“チャレンジの民主化”とは(後編)

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【SPORTS TECH TOKYO】

先日、SPORTS TECH TOKYOと株式会社CAMPFIRE(以下CAMPFIRE)は連携を発表、その第一弾としてINNOVATION LEAGUE コンテスト応募者を対象としたクラウドファンディング特別サポートプログラムを開始した。今回の連携を行ったSPORTS TECH TOKYOの薬師寺肇氏と、CAMPFIREの北山憲太郎氏の対談前編では、アイデアやテクノロジーを持つ企業や団体、個人をそれぞれのアプローチで数多く支援してきた両者がタッグを組んだ背景とスポーツ界を拡張する切口についてインタビューした。後編では、アイデアを形にするために必要なポイントや求められる体制に迫る。

スポーツ × クラウドファンディングの傾向とポイント

最近、クラウドファンディングを行うスポーツ関連のプロジェクトに見られる傾向はありますか?

北山 私はプロダクト関連のプロジェクトを担当することが多いのですが、特に最近はスポーツ×テクノロジーの商品開発が目につくようになったと感じます。コロナ禍でなかなか外出ができない状況の中、在宅でできるフィットネス関連のプロジェクトに支援が集まりました。0→1でプロダクトを作ってリリースするパターンだけでなく、最近は既にローンチしているプロダクトがクラウドファンディングを活用して、資金獲得とプロモーションを戦略的に進める事例も増えた印象です。

プロスポーツクラブやスポーツコミュニティのクラウドファンディングについてはいかがでしょうか?

北山 特にコロナ禍において、例えば、活動に制約が発生してしまった高校の部活や大学のサークルが「遠征をしたい!」というプロジェクトを立ち上げて支援が集まるようになってきていて、より身近な問題解決のために協力者の輪を少しずつ広げるやり方でクラウドファンディングの裾野の広がりを感じています。つまり、必ずしも大金を集める必要はないんですよね。そして、クラウドファンディングはプロジェクトが上手くいかなかったとしても「自分にもチャレンジできるんだ!」と気がつくことができるだけで、大きな意味があると思っています。もっと気軽に声を上げる感覚で、多くのスポーツクラブやスポーツコミュニティの皆さんにクラウドファンディングを活用いただけたら嬉しいですね。

熱量やアイデアを形にする時に抑えるべきポイントはどのような点でしょうか?

北山 まずは、何がプロジェクトの核になるのかを明確にする必要があります。支援が集まるプロジェクトには「チームを存続させたい」「新しいプロダクトを作りたい」といった強い想いが根底にあります。また、情熱だけではなく、クラウドファンディングをする前後のストーリーまで含めて伝えていくことが重要になっていると思いますね。まずはその人が実現したいことを決めて、それに応援したい、関わりたいと思ってもらえるプロジェクトを立体的に設計することが重要です。

×(かける)スポーツでプロジェクトの拡張を

今回のSPORTS TECH TOKYOとCAMPFIREの連携で、目指したいことはなんでしょうか?

薬師寺 我々SPORTS TECH TOKYOは「プロジェクトの幅の広がりと数」を追求していきたいと考えています。「幅の広がり」はSPORTS TECH TOKYOやINNOVATION LEAGUEの根本思想でもありますが、スポーツ自体に新しいものを足し合わせていく拡張や、スポーツをと他の領域を掛け合わせることで、これまでなかった価値を生み出す拡張です。

一方の「数」は、アイデアをプロジェクト化する数で、その母数を増やすことです。それにはまず、今回のCAMPFIREさんとの連携のような、我々SPORTS TECH TOKYO自身のプロジェクトを増やしていくということもありますが、事業開発プラットフォームでもあるSPORTS TECH TOKYOとしてはやはり、さまざまな方からお話いただく事業アイデア、プロジェクトアイデアを形にする数を増やしていきたいです。そのための実行力ある仕組みや体制をより一層工夫していきたいです。

今回のCAMPFIREさんとの連携は、INNOVATION LEAGUEコンテストに集まった先鋭的プロジェクトに対し、CAMPFIREさんのクラウドファンディングをご案内する流れですが、逆の進め方もあるのではと思っています。即ちスポーツ関連プロジェクトにクラウドファンディングをひとつの武器としてお渡しするのではなく、クラウドファンディングを目指されている方にスポーツの軸や切口を掛け合わせていく。

スポーツの軸や切口を掛け合わせることで、そのプロジェクトが持つ想いがよりくっきりすることもあるでしょうし、テクノロジーやプロダクトをお持ちのものでしたら新たなマーケットの発掘につながるかもしれません。先ほどお話ししましたが、そうしたスポーツによる領域拡張こそSPORTS TECH TOKYOが目指している姿でもあります。

スポーツテックを軸とした事業開発でスポーツの可能性拡張を目指す(写真は2019年のイベント時のもの) 【SPORTS TECH TOKYO】

北山 良くも悪くもクラウドファンディングは認識が固定化され始めているので、CAMPFIREが今後より存在感を大きくしていく、クラウドファンディングの裾野を広げるためにはその認識を打破する必要があると思っています。コロナ禍では社会貢献やチャリティーの文脈のプロジェクトが増えましたが、アイデア段階であってもコンセプト検証目的でクラウドファンディングは実施することが可能です。必ずしも、完成したプロダクトや革新的なアイデアを持っていなくても良い訳です。

一方で、クラウドファンディングに挑戦したくても、実行者側のノウハウ不足やリソース不足がボトルネックになって躓いてしまうことも多いので、そのようなボトルネックを取り除くサポート体制を整備していきたいと考えています。実行者側の負荷を減らすためにも、多くのアイデアやネットワークを集めることが重要だと思っていて、SPORTS TECH TOKYOさんと連携してCAMPFIREだけではできない部分まで多角的にサポートしていく計画です。

薬師寺 SPORTS TECH TOKYOには「ファンコミュニティーを活性化させたい」「新しい観戦体験をデザインしたい」「最新テクノロジー導入のPoCをしたい」など多種多様な相談をいただきますが、ヒアリングしていますと「それならクラウドファンディングの枠組みを活用したテストマーケティングがフィットするのではないですか」といものも多くあります。ただそうした時に「クラウドファンディングはもちろん知っているが、自分とは別のところで行われているもの」と思われる方が多くいらっしゃる印象があります。まさに今、北山さんがご指摘されていたクラウドファンディングに対する固定化されたイメージが原因だと思います。今回の連携ではそうした状態も変えていきたいですし、スポーツ領域でも(スポーツ領域から)、クラウドファンディングの選択肢を一般化できるといいですね。

北山 クラウドファンディングは失敗が許される場所だと思っていて、例え目標達成できなかったとしても、リスクが実質的に伴わない点が特徴です。All-or-nothingの方式であれば時間と労力は掛かったとしても、設定した金額が集まらなければ経済的なダメージはありません。プロジェクトに支援が集まらなかったのであれば、生活者のニーズをきちんと捉えられていなかったり、伝えるメッセージが適切ではなかったということであり、その検証結果をもってアイデアやプロダクトをブラッシュアップをしていけば良いのです。

プロジェクトを成功させる鍵はどのようなところにありますか?

北山 「課題は◯◯で、△△のように解決したい」と直球ストレートで提案するプロジェクトが多い傾向にありますが、他の人が支援したくなる企画がどのようなものかを考えると、もう少しとっつきやすく参加しやすい内容を付加する方が良いなと感じます。「課題を提示した上で、提案内容にスポーツやゲームなどのエンタメ要素が含まれていると良いですよ」と、お伝えすることも多いですね。

企画以外の点では、クラウドファンディングを特殊な活動と位置づけるのではなく、仕掛ける事業なりプログラムの一連のものとして取り組むことがあります。プロジェクト実行者の方々が本当にやりたいことを軸に置きつつ、たとえば、まずは同じテーマでイベントを開いてファンを作りながらニーズを検証し、その結果をもとに商品を開発していくといったクラウドファンディング以外のアプローチも有効だと思います。

【SPORTS TECH TOKYO】

最後に、SPORTS TECH TOKYOとCAMPFIREの連携における展望についてお聞かせいただけますでしょうか?

薬師寺 今回のリリースを皮切りに今後、第2弾、第3弾と色々と企画を続けていければと思います。個人的にはCAMPFIREさんがお持ちの店舗を活用させていただきながら、プロダクトやサービスを販売・体験するリアルな場を作らせていただきたいですね。アイデアを形にし、形にした商品なり活動なりが持続可能な形で世の中に組み込まれていく。そのための支援を、CAMPFIREさんが持つ幅広いアセットとネットワークをお借りしながら、SPORTS TECH TOKYO × CAMPFIREならではのやり方でやっていきたいです。

北山 CAMPFIREは渋谷に2つ店舗スペースを持っているので、スポーツ関連のプロジェクトや商品を集めて、SPORTS TECH TOKYOコラボの企画が実現できたら面白そうですね!同じテーマで括った方がお客さんの目にも留まりやすし、ぜひやりましょう。

今後はトライ&エラーを繰り返しながらそのプロセスも含めて伝えていくアプローチが増えていくと思うので、クラウドファンディングがその部分でインフラとして浸透していくように実行者向けのサポートやキャンペーンを充実させていきたいです。SPORTS TECH TOKYOさんとの連携を通じて、ひとりでも多くの人が挑戦できる環境を作っていきたいですね

【SPORTS TECH TOKYO】

取材場所「PARK by CAMPFIRE」:渋谷の中心地、渋谷MODIに昨年誕生した「PARK by CAMPFIRE」は、クラウドファンディングを活用して生まれた製品や、クリエイターが手がけた創作作品を展示・体験できる「展示スペース」と、プロジェクトオーナーやクリエイターが自らの声で情報発信ができる「撮影・配信スタジオ」を設置。プロジェクト起案者のブランドの認知度向上や、新規顧客の獲得など商機を拡大する取り組みを後押しする常設型スペース。
インタビュー・執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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