アントラーズならではのDX事業とは。「新たなマネタイズ施策導入から見えたクラブカラー」【未来へのキセキ-EPISODE 24】

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 フットボール観戦を家でしかできない。2020年に新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大し、鹿島アントラーズは、これまで想像したことのない現実に直面した。それでも何か方法はないかと模索し、歩みを止めなかった。

 挑戦を続けることで突き進んできたクラブの歴史は、コロナ禍でも何ら変わりなかった。たどり着いたのが、「鹿ライブ」でのギフティング(投げ銭)によるマネタイズ化だった。

 2020年5月16日、ファン・サポーターと現役選手、OBが一緒に過去のアーカイブ試合映像観戦するオンラインライブイベントを「鹿ライブ」と題して開催。過去の試合配信・放送に合わせて、チームOBたちが試合を見ながらWebアプリ上で当時の思いを語り、ギフティングを通じてクラブ活動の支援を募った。

 これまでなかったデジタルの取り組みで、事業における選択肢を増やすことにつなげた。新型コロナウイルス感染症拡大により、計画していたことがすべてストップ。IT部分しか進められない状況となり、もとの計画を前倒しした背景もあった。

 2021年4月にはアントラーズ公式アプリがリリースされ、通知機能を用いたこまめな情報発信を実現。公式アプリ限定配信のインタビュー動画や、ファンクラブ会員は会報誌「FREAKS」の電子書籍が閲覧できる機能も有する。「鹿ライブ」は現在も継続的に実施し、さらに日本初のクラウドファンディングサービス「Readyfor」でのふるさと納税型クラウドファンディングなど、新たなマネタイズ施策も導入。アントラーズは“今”を駆け抜けている。

【©KASHIMA ANTLERS】

 このような最先端技術を導入した利便性の向上や新たな価値の創出は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれる。アントラーズではメルカリが運営権を取得した2019年からその動きが加速し、前出のような顧客体験に加えて、社内においてもデジタル技術による業務改善が推し進められている。社員同士のコミュニケーションや情報共有を円滑にするためのビジネスチャットツールや、会計システムリプレイス・電子帳票保存法対応やクラウドサイン(電子署名サービス)の導入がその実例となる。

 「これめちゃくちゃ楽だね!」。クラブスタッフが驚嘆の声を上げた。
 クラブで最初にデジタルで凛義を提出したのが、60代のスタッフだった。「その一言が大きかった」と、社内ツールのデジタル化を担当した経営戦略チームの金子有輔は振り返る。

「これまでのコミュニケーションをアナログからデジタルに移行することを目指すなか、〝まだ紙でやっているの?〟という感覚を上の世代から感じてもらったことで、周りへの伝わり方が変わったように思います。アントラーズのスタッフみんなの新しいツールに対する吸収力が半端なく速かった。もともとあったスタッフ間の信頼ある人間関係のなかで、突然ツールが入っても違和感はなく、特にチャット文化やワークフローシステム導入は半年かかると思っていたものが、1、2カ月で全体に浸透しました。そこは大きな驚きでした」

 そのなかで、アントラーズはDXを活用させた施策をクラブ内にとどめず、パートナー企業やホームタウンにも波及させた。茨城県つくば市に本社を構えるオフィシャルパートナーの関彰商事とタッグを組み、2020年から県内の企業や自治体に向けた共同事業を開始。それまで進めてきたクラブのDXノウハウと、関彰商事の豊富な商材と手厚いサポート体制を駆使して、それらの組織を支援する試みだ。

「パートナー企業や自治体の方々から、DXを活用したアントラーズの変革に関する問い合わせや講義の依頼が多くありました。人がいない、どこから手を付けていいのかわからない、お金がかかるのが不安など、みんな同じ悩みを抱えていることがわかり、手助けできたらいいな、という思いからこの事業が始まりました」(金子)

2020年8月に関彰商事と共同開催したAntlers Business Forumで鹿島アントラーズの業務DX化事例紹介を行う金子有輔氏 【©KASHIMA ANTLERS】

 事業の最大の売りとなるのは、「実行力のあるDX」。アントラーズが培ったノウハウやIT導入支援力をベースに、請け負った事業者のDXを着実に実行することを目標にする。全社視点による最適なDX化、組織や業務に合わせた支援、最適な投資の実現の観点から、それぞれのクライアントの経営・事業課題を解決している。

 単なるシステム導入を目的とするのではない。「都内などの都市部ではある程度IT化が進み、DXの土壌があるが、地方はまだその前の段階だったり、ITを導入したけれど活用するまでには至っていないことが多かった」(金子)という実情を踏まえ、業務の効率化と生産性の向上を念頭に置いたDX支援を行っている。

 実績として、ホームタウンの鹿嶋市役所でDXに関する各種相談や電子決裁システムの現状分析、改善提案のコンサルティングを行ったり、不動産会社、イベント企画運営会社の社内IT化支援(コミュニケーションツールの導入や、会計システムリプレイス支援等)などのコンサルティングを務めるようになった。

 クライアントへの綿密なヒアリングから始まり、それぞれの課題を把握して解決に向けたDX方針を策定、そして業務設計やシステム導入などからDX化に向けた具体的な施策を実行し、それらの運用の定着化も支援してDX効果の最大化を図る。これらのステップを踏み、ホームタウンを中心とする県域でのDX化を促している。

「クラブの収益増というよりは、地域の企業の業績が上がったり、行政として今後の人口増加につなげてアントラーズを応援する人を増やすことを重視しています。それが結果的に回り回って、クラブのメリットにつながる。地域が盛り上がってこそ、クラブも大きくなっていく。アントラーズらしい取り組みで、しっかりコンサルティングを提供していきたいと思っています」(金子)

 また、今年5月には小泉文明社長の父親の出身地でもあるホームタウン行方市、そして株式会社メルカリとともに「行方市の地方創生事業に関する包括連携協定」を締結した。鹿嶋市とはすでに昨年2月に同協定を結んでおり、地域の課題解決や発展を目的としたさまざまな施策に着手し、DX技術の活用によって創出される成果が期待されている。

 アントラーズが産声を上げてから30年、科学や技術の発展に加え、最近では新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、人々の生活様式は急激な変化を見せている。移り変わる時代のなかで、クラブが中心となり、この先の未来もファン・サポーター、そして地域をリードしていく存在となる。フットボールを通じた新たな価値を創出するために、これからもアントラーズは挑戦の歩みを続ける。

行方市との包括連携協定における会見時の小泉文明社長と鈴木周也行方市市長 【©KASHIMA ANTLERS】

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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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