日本で最もスポーツクラブを支援するPSI代表 平地大樹氏に聞く 「テクノロジーが加速させるスポーツマーケティングの未来」

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社】

 スポーツ界をリードする「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」のメンターを訪ね、過去・現在・未来に迫るとともに、スポーツビジネス最先端の可能性と課題を紐解く特別インタビュー企画。

 第1弾は、デジタルマーケティングとDXを通してプロスポーツを支援するプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社の平地大樹代表をお招きし、これまでのキャリアや挑戦、現在の注力事業、今後のビジョン、オープンイノベーションに対する課題意識等、スポーツビジネスの現場で活躍する同氏ならではの視点で、テクノロジーとスポーツマーケティングの未来について語ってもらった。

プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社 代表取締役インキュベーター 平地大樹氏 【プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社】

PROFILE
平地 大樹(ひらち たいじゅ)
大学卒業後、プロバスケットボール選手を目指し渡米。帰国後もプロを目指して活動するも、27歳で現役を引退。その後、人材コンサルティング会社、Webコンサルティング会社を経験し、2011年に株式会社プラスクラスを設立。起業5年目でプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社を設立。スポーツ×デジタルマーケティングを実践し、スポーツクラブやメーカー、メディアのコンサルティングに従事。プロチームのクライアントはプロ野球からJリーグ、Bリーグ、マイナースポーツと幅広く82チームに及ぶ。

バスケットボール選手を目指して渡米。直面した現実。そして起業。

まず初めに、平地さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

「小学校3年生からバスケットボールを始めて中学・高校・大学と続け、大学卒業後に渡米しました。そこでNBAのオフ期間中にあるサマープロリーグに挑戦するために行われるキャンプに参加しましたが、最終的に声がかからずアメリカでのプロ活動は断念しました。

 オンコートでの競技継続は一旦諦め、キャンプ地がロサンゼルスだったこともあり、ベニスビーチというストリートバスケが有名な場所で、ストリートバスケの面白さに触れました。

 3ヶ月のビザ期限が切れて日本に戻った後は、インドアのバスケットボール選手になる夢をまだ諦められず、働きながらトレーニングをして機会を探っていました。翌年に3on3の「LEGEND」というストリートバスケのプロリーグができて、そのチームで選手とスポンサーセールスの両方をやる形で活動しました。しかし出場機会はほとんど得られず、2シーズンで僕の選手人生は終わりました。」


現役引退後、どのような経緯で起業に至ったのでしょうか。

「現役引退した後はスポーツ系の人材を多く紹介してる人材紹介会社で、たまたま社長に気に入られてカバン持ちから始めました。しかし10ヶ月ほど経った時に、リーマンショックがあって会社が傾いてリストラを受けたので、Web系の会社に拾っていただきました。

 Web業界は肌に合っていましたが、サラリーマンを3年半ほどやった後に株式会社プラスクラスを起業をしています。起業してすぐにスポーツの仕事をやりたいとは思っていたのですが、スポーツは儲からないイメージがあったので、まずはWebマーケティングの知見を活かした事業を始めました。

 その後4年目からスポーツの事業をはじめ、初年度で北海道コンサドーレ札幌さんや
千葉ジェッツふなばしさんとご一緒させていただき、デジタルの力でかなり集客で貢献できた手応えがありました。そこで可能性が見えたので、起業から5年目のタイミングでプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社を立ち上げています。

 別会社にしたのは、スポーツ支援会社でしっかり儲かってる会社があるんだということを世の中に発信していきたいという思いです。現在6期目ですが、マーケティング領域とクリエイティブ領域をかけ合わせたソリューションを、82のスポーツ団体の皆様にご提供させていただいております。」

【プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社】

観客制限がなくなってから集客活動をしても遅い。

現在、事業や経営の視点で特に注力されている領域はどういったところでしょうか?

「弊社では“日本のスポーツ全会場を満員にする” というミッションを掲げています。とにかく観客動員数を伸ばすことが全てだと思っていて、チケット売るためのデジタルマーケティング支援を一貫して行ってきました。

 新規のファンを獲得してリピーターを増やし、定期購買をどれだけ取って、シーズンチケットを購入していただくフローは、企業のダイレクトマーケティングと何ら変わりません。従って、チケット販売促進を目的とした特設LPを作って広告を回す基本的なところから着手し、一定の成果を得ることができました。

 その後はLP制作と広告配信から派生する形で、SNS運用や動画制作、Webサイトの制作や運用など領域拡大を進めてきた形になります。これまで集客支援の部分で業務領域を広げてきましたが、現在はグッズの商品企画やデザインやEC周りの支援、さらにスクール生の加入促進なども含め、ファン・顧客とのあらゆる接点においてスポーツ団体の皆様を支援させていただいております。

 またto Cの領域だけではスポーツクラブをサポートしきれていないと感じ、3年前からtoBの領域への事業展開も始めました。特にスポンサーアクティベーションの部分の課題に対して、デジタルを活用したプランニングから運用、レポーティングまでが実施できる仕組を提供することで、既存スポンサーの活性化と新規スポンサーの獲得を支援しています。

 現状、多くのスポンサー企業はスポーツクラブに投資しているにも関わらず、その多くは具体的なリターンを得られておらず、そもそも新規スポンサーを獲得しに行く際に、提示できるメリットが少ない点も問題です。

 その課題解決の1つとして、同じクラブのスポンサー同士がマッチング・交流できるがプラットホームや仕組みを作った方が良いと考え、スポンサーとクラブ、スポンサーとスポンサー、スポンサーとファンを繋ぐサービス『パートナーズシップ』を今年ローンチしました。提供開始から約2ヶ月が経ち、現在8クラブほど契約をいただいている状態ですが、徐々にコミュニティとしての動きが出始めています。」

スポンサーとスポンサーを繋ぐマッチングシステム『パートナーズシップ』をスポーツチーム運営会社(クラブ)向けにプラスクラス・スポーツ・インキュベーションが提供開始 【プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社】

コロナ禍では観客数に制限があり、集客をどれだけ頑張っても売上に直結しない側面もあると思いますがいかがでしょうか。

「海外では観客収容可能が100%に戻っている国も既にあり、日本もそのタイミングが近い将来にくることは見えてきています。観客数の制限が外れた時に、いざ集客活動を始めても遅すぎますし、ファンは離れてしまっている状態なので、今の段階でチケットが買いたいけど買えないぐらいの状態を作っておく必要があります。

 ファンの母数を増やすためにSNSをもっとアクティブにしましょう、クラブ名のハッシュタグが投稿される数が増えるように仕掛けていきましょうと、このタイミングだからこそ発信には力を入れていかなければいけないと思っています。」

打ち上げ花火では意味がない。オープンイノベーションに実装と継続を。

アクセラレーションプログラムの参加企業を募集中(2021年9月21日締切り) 【 INNOVATION LEAGUE】

INNOVATION LEAGUEにメンターとして参画した理由はどのような部分でしょうか。

「昨年スポーツ庁と日本ハンドボール協会が主導したオープンイノベーションにて審査員を担当させていただき、非常に面白い取り組みだな、もっとこういう取り組みが広がっていけばいいのになと思ったことが1つ目の理由です。

 ただ、実装に繋がらないオープンイノベーションも存在しているのが現実です。打ち上げ花火的に、その場は盛り上がるのですが、プログラム自体に継続性がなかったり、メンターの方もスポーツビジネスの現場に則したアドバイスや提言ができる人がいなかったりと、一体何のための取り組みなのかと。

 オープンイノベーションの取り組みそれ自体は素晴らしいと思っていますが、オープンイノベーションをやる以上は実装に繋がらなくては意味がないと感じます。また、INNOVATION LEAGUEはアクセラレーションだけでなく、コンテストの取り組みも良いですね。個人的にカンヌライオンズなどの広告賞は好きで、自分たちのアクティベーションが表彰されることがモチベーションに繋がるマーケットを作っていかなければいけないと思っていました。コンテストが権威あるものになっていけば、受賞することででクラブの広報も社内外でリスペクトを得られますし、スポンサー側のアクティベーション促進にも繋がっていくと思います。」

INNOVATION LEAGUEに期待したいこと

「端的に、権威付けです。簡単ではないですが、INNOVATION LEAGUEが意義ある活動を続け、その存在が広く認知されること。INNOVATION LEAGUEに出れば面白い事業アイデアや新しい機会に出会える、将来の一手に繋がるといったパーセプションをいかに形成するかが重要だと思います。

 また、弊社は主にソフト面を提供しているのですが、そもそも映像自体の撮影方法はもっと面白い手法があるはずですし、データの管理・活用の方法もまだまだ余地があるはずです。 MLBでは場所問わず音を拾える仕組みが採用されていたり、サッカーでもゴールキーパーの声を拾ったコンテンツに人気が集まっていたりと、テクノロジーの発展と新しいコンテンツの開発はセットで考えたい。

 日本スポーツにテクノロジーが介入できる領域は挙げたらキリがないのですが、素材やデータを集める部分と活用する部分、その両面で新しい技術と出会えたら嬉しいですね。

 技術的な制限を外して考えてみると、一人称で見る選手視点の映像が見られるようになったら、また別の視点で楽しめるようになると思います。アメフトやラグビー、アイスホッケーなどは一人称で見てみたいと思いますし、プロの選手に混じってフィールド内に入ってみてみたいと、いつも僕は思っています(笑)。」



今後のビジョン、取り組んでいくことについて

「弊社では2ヶ月前にはじめた『パートナーズシップ』をもっと沢山のクラブに活用していただいて、よりクラブスポンサーが自由にスポンサーやファンと繋がれるような状況を作って、スポンサー企業の投資対効果をもっと高めていきたいと考えています。そしてより多くのスポンサーフィーが、応援ではなく投資として流入するスポーツ業界にしたい。

 少し先の話にはなりますが、4~5年後を上場の目処として見ており、その次のステップで東南アジアや欧州に対してファンマーケティングのサービスやツールを展開したいと考えています。パートナーズシップのような仕組みは、海外でもまだあまり普及していないと聞いているので、海外のマーケットにも入っていきたい。

 もう一つ、上場したタイミングからスポーツ選手のセカンドキャリア支援を本腰を入れてやっていきたいと考えています。引退した選手を弊社で採用して、マーケターやクリエイター、エンジニア、アナリストなどに育てていき、そこからクラブや競技団体に出向してもらうスキームを確立させていくことで、スポーツ界の人問題を解決したいですね。」


執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。


執筆協力:大金拳一郎
フリーランスのフォトグラファーとしてスポーツを中心に撮影。競技を問わず様々なシーンを追いかけている。その傍ら執筆活動も行なっており、スポーツの魅力と美しさを伝えるために活動をしている。
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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