2つの金字塔を打ち立てた獅子の守護神。セーブ王・増田達至の安定感の理由とは?
【(C)パーソル パ・リーグTV】
まず初めに、プロ8年目の増田投手が記録してきた年度別成績を振り返る。
増田達至投手の年度別成績 【(C)パ・リーグ インサイト】
プロ入り当初の持ち場は中継ぎで、2015年には年間72試合に登板する大車輪の活躍を披露。同年には42ホールドポイントを記録し、『最優秀中継ぎ』のタイトルにも輝いた。翌2016年にクローザーに配置転換されてからもその快投は続き、いきなり防御率1点台という素晴らしい投球を見せ、抑えとしての適性を示した。その後は、不振に陥ってシーズン途中に中継ぎに回った2018年以外の全ての年で、守護神の大役を任され続けてきた。
2019年には自身初の30セーブに到達し、リーグ優勝の胴上げ投手にもなった。続く2020年は年間120試合に短縮されたにもかかわらず、セーブ数を前年以上に伸ばしてみせた。その結果、シーズン無敗で『セーブ王』に輝く快挙を達成しただけでなく、豊田清コーチが記録した通算135セーブという数字を抜き、球団史上最多記録を更新。今や百戦錬磨となった増田投手にとっても、さまざまな意味で大いに意義のあるシーズンだったことだろう。
2020年途中にFA権を取得したことにより、オフにはその動向が注目されていたが、FA権を行使したうえで、埼玉西武への残留を選択。来季以降も自身が持つ球団史上最多のセーブ数を更新していくことになりそうだ。ライオンズファンにとっても、守護神の残留は安堵と喜びをもたらす、大きなファクターとなったのではないだろうか。
ここからは、セイバーメトリクスで用いられる各種の数字を参考に、増田投手の投球の特徴について分析。それに加えて、2020年に記録された球種配分、球種別・コース別の被打率といった要素についても見ていくことで、ピッチングと、その強みについてより深く掘り下げていきたい。
奪三振・四球・被本塁打のいずれにおいても、一定以上の安定感が
・9イニングで記録できる奪三振数の平均を示す「奪三振率」
・9イニングで与える四球数の平均を示す「与四球率」
・9イニングで打たれる本塁打数の平均を示す「被本塁打率」
・奪三振を四球で割って求める、投手の制球率を示す「K/BB」
・1イニングあたりに許した走者の数を表す「WHIP」
増田達至投手の年度別指標 【(C)パ・リーグ インサイト】
与四球率に目を向けると、プロ2年目の2014年以降は7年間全てで2点台以下と、自滅に近い形で走者を溜めるケースが少ない。2019年には与四球率1.29の好成績を残しており、翌2020年にも2年続けて1点台の数字を記録。直近2年間は防御率の面でも優れた数字を記録しているが、こうした制球面の安定が、投球内容のさらなる向上に寄与しているのは間違いない。
被本塁打率は年によってややばらつきが見られるが、2015年と2016年には2年続けて年間被本塁打をわずか1本に抑えており、この期間は不意の一発によって失点を喫するケースが非常に少なくなっていた。2017年からの2年間は対照的に被本塁打率が1を上回っていたが、2019年以降は再び改善傾向にある。2018年の不振から脱却するにあたっても、被本塁打の減少が少なからず良い影響を及ぼしていた。
各種の指標においても能力の高さが示されている
クローザーは最終的にリードを守り抜くことが最大の仕事ではあるが、できることなら余分なランナーを出さずに試合を締めくくるのが最良の結果であることは確か。その点、増田投手はWHIPにおいても、1点台前後のシーズンが5度と、総じて優秀な数字を記録している。とりわけ、2017年と2019年には1イニングで許した走者の平均数が1を下回る素晴らしい成績を残しており、数字の面ではさほど走者を溜めないタイプであることがわかる。
次に増田投手の持ち球と、その特色について見ていきたい。2020年に記録した、結果球における各球種の投球割合は下記の通りだ。
ストレートの球速はクローザーとしては目を見張る速さではないものの……
【(C)パ・リーグ インサイト】
速球に強いパ・リーグの打者たちに真っ向からストレートで勝負を挑み、高めのコースで空振りを奪い、バットを押し込んでフライを打ち上げさせ、あるいは抜群のコントロールで見逃しの三振を奪う。増田投手の速球は、まさに決め球として十二分に機能する質を備えた球種と言えるだろう。
この速球に加えて、結果球の約2割に達する、スライダーも頼れる球種の一つとなっている。スライダーの球速は130km/h台後半から140km/h中盤と、速球との間に一定の球速差が生まれている。一口にスライダーといっても、増田投手の場合は縦と横の2つの変化を状況に応じて使い分け、幅広い状況で空振りや打ち損じを誘うことが可能だ。
その他にも、球速120km/h台中盤〜後半とブレーキが効いており、投球に緩急をつける効果をもたらすカーブと、140km/h台の速さで鋭く縦に落ちるスプリットを時折交えながら、打者を打ち取っていく投球スタイルが基本線となっている。
前項に関連して、2020年に記録した各球種の被打率についても見ていきたい。
増田達至投手の2020年球種別被打率 【(C)パ・リーグ インサイト】
被打率.000。年間を通して完璧に打者を抑え込んだ球種とは?
その一方で速球の被打率は.246と、2020年に記録した被打率.227よりも高くなっていた。速球だけで確実に打ち取れるという状態ではなかったものの、先述したスライダーやカーブがより効果を発揮したのも、独特の軌道を描くストレートの存在があってこそ。その速球の被打率が向上すれば、まさに鬼に金棒だ。
増田投手のスプリットは縦のスライダーよりもやや球速が速く、ストレートを除けば最も球速の出る持ち球となっている。
最後に、2020年に記録したコース別被打率についても見ていきたい。
縦・横どちらのゾーンにおいても明確な差異が表れていた
増田達至投手の2020年コース別被打率 【(C)パ・リーグ インサイト】
また、真っ直ぐやスライダーが変化していく方向となる、投手から見て左側のゾーンの被打率も、ストライク、ボールの双方において低くなっている。それに対して、右側のゾーンにおいては、高めを除いて高い被打率を記録。得意とする変化球が動く方向とゾーン別の被打率が密接にかかわっている点も、興味深い要素だ。
ただ、空振りを取る際に用いるケースが多い真ん中低めのボールゾーンで痛打を浴びているのは気になる点だ。縦のスライダー、あるいはスプリットをこのコースに落とす際のリスクが今以上に低くなれば、決め球から逆算した配球も容易になり、ひいてはより投球の幅が広がることにもつながる。来季以降、ボールになる変化球を今以上に有効に使えるかどうかは、注目する価値がありそうだ。
投手としての高い総合力が、クローザーとしての安定感にもつながっている
それに加えて、優れた制球力や一定以上の奪三振力といった要素も備えていることもあり、自滅に近い形で失点を喫する危険性も少なくない。また、コース別の被打率を見ても、得意なゾーンでの勝負であれば、相手を選ばずに高い確率で打者を打ち取れることが示されている。そういった投手としての総合力の高さが、毎年多くの登板を重ねながら、安定した投球を続けている理由にもなっていることだろう。
『最優秀中継ぎ』と『最多セーブ』の双方を受賞した経験のある増田投手は、プロの舞台で酸いも甘いも味わってきた、まさにリリーフのスペシャリストと呼べる存在だ。2020年にブルペン陣の成績を大きく向上させた埼玉西武にとっても、その存在は欠かせない。ライオンズの球団史において最も多くのセーブを記録してきた獅子の守護神は、今後も救援陣の中心的存在としてチームをけん引していってくれそうだ。
文・望月遼太
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ