上田綺世が続けるゴールまでのもがき。 追いかけた父の背中と二人三脚と。
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結果が出るまでもがき、やり続けること
結果は後からついてくるものではない。結果が出るまで、もがいてやり続けるのが上田綺世の歩んできた道だった。
「そもそも結果というものは、必ずついてこないと思っています。極端な話、どんなにシュート練習をしたって点を取れないときは取れないんです。重要なことは、自分がやっていることに対して、どう解釈するかということだと思っています」
点取り屋と呼ばれるポジションで、ゴールをとにかく大切にしてきた。そのゴールを取り続けるために、愚直ともいえる努力の日々が言葉にあらわれる。
「やり続けてきたシュート練習の形で点を取れたとき、ようやくその効果が発揮された瞬間になるんです。だから、〝その練習は意味があった〟と自分が思える結果を得られるまで、やり続けるべきだと僕自身は考えています。1回のシュートチャンスを外したからといって、シュート練習が意味なかったとするのは本末転倒になる。その瞬間までどれだけ待てるか。〝結果がついてくる〟というよりは〝結果が出るまでやる〟という感じですね」
上田は今季公式戦初先発で2ゴールと結果を残した 【©KASHIMA ANTLERS】
成長を後押ししてくれた父の存在
「父はプロではなかったですが、でもサッカーがすごく大好きで昔からやっていた。ポジションはFWで、ゴールシーンを見てかっこいいなと思っていました。僕自身もサッカーを見るのが3、4歳のころから好きだったので、ゴールシーンをよく見ていました。それもあってかサッカーというスポーツを〝ゴールを取るスポーツ〟として捉えていました。だから、一番ゴールを取れるポジションをやりたかった。自分も父より点を取りたいという気持ちがあってサッカーを始めました」
その後、〝ゴールへのこだわり〟は日々の父とのコミュニケーションから、さらに育まれていった。父とともに海外のサッカーを見るのが日課となり、欧州の主要リーグはもちろんワールドカップやユーロは大会があるたびに全試合を見るほど夢中になった。
「その頃はFCバルセロナとかACミランが強かったんです。2005年あたりなのでロナウジーニョがいた時代です。でも、僕はそのなかでサミュエル・エトオが好きでした。レアルでいえばロナウド。アンドリー・シェフチェンコとかエルナン・クレスポもそうだし、ラウル・ゴンザレスとかフィリッポ・インザーギとか、とにかくゴールゲッターが好きでした」
当時7歳。スラスラと当時のスター選手の名前が口に出る。多くのタイプの点取り屋を見て、それぞれの特徴を理解した上で、すべてを自分のものに体得していったという。
「その選手その選手で違う特徴があるというのを理解しました。そのなかで、その選手らしいゴールをたくさん見て、僕はすべてを参考にしていました。例えば、ヘンリク・ラーションだったら、背が小さいけれどゴール前の動き出しからのヘディングが強い。その動き出しをするために、相手の目をどこでどうやって盗んで動いているのか。インザーギだったら、なぜいつもこぼれ球の先にいるのか。ラウルだったら、ゴール前でのアイデアはどうやって出したのか。自分に置き換えて、どうやったらできるのかを考えながら見ていました」
そこに父とのコミュニケーションが加わる。父親は上田が所属した少年団の監督もつとめ、まさに二人三脚で成長を重ねた。日常からサッカーの話をし続け、自主練もいつも一緒だった。
「父がサッカーを見て勉強しろという感じで、『このシーンどう思う?』『何がすごい?』『この前のプルアウェイの動きがいい』っていうゴールまでの過程における具体的な話をしながら父と一緒に見られた。それがやっぱり良かったんじゃないかと思います」
父とともに見た映像。その一つひとつの作業は、すべてどうやってゴールを取るかに集約されていた。
「僕は父にいろんなことを教わりました。僕の土台をつくってくれたっていう感じですね」
上田は結果を残すためにもがき続け、成長を誓う 【©KASHIMA ANTLERS】
もがいているときが成長ポイント
結果を出すのは早かった。8月10日、横浜F・マリノス戦で途中出場からプロ初ゴールをあげると、プロ初先発となった9月1日の清水エスパルス戦で2得点。存在を猛烈にアピールした。
しかしその後、途中出場での試合を重ねるものの、結果を残せずにシーズンを終えた。活躍を続けることができず、プロ入り後初めて、もがいた時期を経験した。
迎えた2020シーズン、初のスタメンとなった7月18日の横浜F・マリノス戦。チームが公式戦未勝利という苦しい状況の中、いきなり2ゴールという結果を残した。
「何かを変えてやろうというよりも、〝点を取る〟の一択でした。それがチームにとって一番重要なこと。やっていることに自信を持つ、やってきたことが間違っていなかったという証明は、得点でしかできません。それができて良かったかと思います」
結果を出して注目されればされるほど、思うことがある。
「この調子の良さはいつまでも続くものではない。だから、調子がいいときはいけるところまでいこう。いつもそう思っています。いつかは点を取れなくなってゴールが遠くなる時期が来る。それは点を取っているときでも思っているかもしれない。何ならそれを待っている感じですよ。やっぱり、点を取れなくて〝もがいているとき〟が一番成長しているポイントだし、そこを抜けたときにまた違う〝ワンランク上の上田綺世〟になっていけると思うので。いつもそれを待っている部分はあります」
今季からザーゴ監督体制となり、新たな船出をしたチームに待望の得点と勝利をもたらした。それでも満足感はない。
上田綺世は今日も、自ら残した結果の良し悪しに関係なく、ひたむきに自らのプレーと向き合いもがいている。ワンランク上の新たな姿を目指して。
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