【最終回】Jリーガーが考える!大学サッカーで集客をするには…?
【©法政大学体育会サッカー部】
ここまで7回にわたって執筆してきました長い長い私の記事も今回で最後になります。前回は大学サッカーの集客について書いてみました。そして今回は会場に足を運んでもらった人たちをリピーターにするための施策についてです。多くの人に会場に足を運び続けてもらうためにもこのパートはとても重要になります。それでは早速始めたいと思います。
リピーター (大学サッカーver.)
ただ、そこで考えなくてはいけなのがそもそも新規顧客を獲得し続けることが難しいということです。新しいお客さんを獲得しようと思った時に基本的には大学サッカー側がなんらかの広告を出していると思いますが、自分の発信できる範囲には限界があり新規のお客さんをどれだけ獲得しようと思っていても、あくまでも自分がアプローチをかけられる範囲の中だけで獲得することになるのでなかなか厳しいと思います。
だからサービス提供者が基本的にやるべきことはまずは退会率を下げることにフォーカスするということです。大学サッカーはここがあまり機能してないのかなと思っていて、何年も各大学がお客さんに対して「会場に来てください!」と呼びかけているのに一向にファンが増えていないというのは、そもそも多くの人の心にその告知が届いていない可能性も考えられますが、ファンの加入も多いけど退会率も比例して多いから結局とんとんという状況になっていると思います。
じゃ次に何を考えなくてはいけないのかというと、お客さんがサービス利用をやめる理由ですね。個人的に大学サッカーの退会率が多いであろう理由は大きく分けて2つだと思っています。
1.環境の変化
これは特に同じキャンパスの一般学生をターゲットにした場合にみられる現象で、大学は4年の周期で回っていると思いますが仮に1年時から応援してくれる大学の友達がいたとしても、卒業と同時に地方に就職して物理的に応援に行くことができなくなってしまうというような人がいることも考えられると思います。また、1人のある選手が好きでその選手が在籍する大学を追いかけていたけど、その選手が卒業してサッカー部からもいなくなったことで応援する動機が無くなってしまいファンをやめてしまうということも考えられると思います。そのようなことを考えても基本的にはずっと同じ場所に居続けてくれる地域住民の方をターゲットに、地域貢献を通してサッカー部や選手として応援してもらえる存在になることができれば長期的な集客も図れると思いました。
2.距離感
「体育会の学生とは壁がある」というような言葉をよく耳にします。選手とお客さんの間に壁があるというイメージを持たれてしまうと、せっかく会場に足を運んで試合を観にきてくれたとしても、なかなか感情移入ができないために他人事というか心から応援ができないのかなと思っています。そのため「面白かったけど別にもう観に来なくてもいいかな」という人が一定数いるような気がしました。
ではどうすれば体育会との壁があるというイメージを払拭することができるのでしょうか?
イメージを払拭し、お客さんをリピーターにする重要な要素の1つが距離感だと思っています。
それは2つあって選手・監督とお客さんの距離感とお客さん同士の距離感です。ここでいう距離感は物理的なものではなく心の距離感ですね。心の距離感を近くすることでどうなるかというと、認知・興味のパートで散々伝えましたが、会場に足を運ぶ動機であるより強い"誰か"になれると思います。
その結果、「〇〇選手を観にまた行きたい!」というようにリピーターになってくれる可能性があるのかなと思っています。
1.選手・監督とお客さんの距離を近くする
【 】
第2章の大学サッカーと大学アメフトを比べた時にも少し書きましたが、大学サッカーではファンサービスの文化があまりないと感じています。その結果体育会との壁を感じるという人が多いように感じますし、実際にそれは大学サッカーの光景としても現れていると思います。
その典型的な例が大学サッカーの応援ですね。大学サッカーでの応援は野球やJ リーグのようにサッカー部の選手と観客の方が一緒に応援するということがほとんど無いように感じます。強いていうなら親御さん達が選手が応援する近くの場所に集まって応援してくれていますが、一般のお客さんと選手達が一緒の場所で応援するという光景はほとんど見たことがないです。
【©法政大学体育会サッカー部】
本来の心の距離感の話から少し脱線してはいるんですけどもうちょっと続けさせてください。「じゃあどうすれば一緒に応援してもらえるかな?」と考えた時に"社会的証明"を上手く使えたら良さそうだなと思いました。
一度この記事でも触れましたが、社会的証明というのは心理学の言葉で簡単に説明すると"自分の判断に自信が持てない時などに多数の人の判断が正しいと感じる"みたいなことです。例えば空を見上げている人が1人だけの時はさほど気にしないけど、それが何十人も一斉に空を見上げていたら思わず自分も見上げちゃうみたいなことですね。
じゃあこれをどう応援に繋げるかというと、単純にサッカー部の選手と一緒に応援している観客の母数を増やすことで、「少し離れた席で観ている私ってなんか浮いてるのかな?一緒に応援した方がいいのかな?とりあえず選手の近くに行ってみよう」みたいな感じであたかも応援していることが正しいと思わせて一緒に応援しようという作戦です。
そのためにもまず根本的に準備をすることとしては、お客さんが一緒に歌えるように歌詞カードを作っておくことやYouTubeなどを通してチームのチャント集を配信して歌の覚えてもらえようにしたり、またまた順天堂大学を例に出すと「カモン順大」という試合に勝った時にお客さんも巻き込んで一緒に盛り上がる名物応援歌みたいなのがあって、そういう「〇〇大学=この応援歌」っていうのがあればお客さんも一緒応援しやすいのかなと思っております。
ちなみに法大サッカー部は歌う応援歌に一貫性はないんですけど、ただその場で新しい歌を作ったりするんでそれはそれで面白いと思ってます。あとはカモン順大みたいに、勝った時には「勝利は続くよどこまでも」を歌う習慣が出来つつあるので皆さんもぜひ選手と一緒に応援してください。
選手と一緒に応援している人の母数を増やすためにも、まずは親御さん達に協力してもらって一緒に応援してもらい少しずつ輪を広げていくのもありだと思いますし、観客席の空席が目立つぐらいなら極端に座れる席を区切って物理的に選手とお客さんの距離を近くすることで、選手と関わりやすく応援もしやすいという環境を作ってしまうのもありかなと思っています。
実際に私の友達の中にはJリーグの試合を見に行った時にサポーターと一緒に応援することが好きと言っている人がいました。
また第4回にて1度扱いましたが株式会社リクルートの「Jリーグに入れ込むようになった要因」を調べた調査では、男性の3位と女性の2位は「応援で盛り上がるのが楽しい」と回答しています。
今の大学サッカーにこのニーズがあるかどうかは分かりませんが、今一度向き合っても良いのかなと思っております。
かなり長くなったのでファンサービスの話に戻しますが、もしファンサービスをやるのであればサイン入り式紙をプレゼントするというようなことより握手会や写真撮影会の方がいいと思っています。それはなぜかというと、仮に観戦した試合がどんなにつまらなくてもそのチームや選手との結びつきが強ければまた会場に足を運んでくれる可能性が高いということですね。
では結びつきを強くするにはどうしたらいいのかと言えば直接的に関わる回数を増やすことだと思います。そう考えた時に式紙のプレゼントでは弱くて、実際に会って会話をする。握手をする。その場でサインを書いてもらう。というように実際に直接会って同じ時間を共有した方がコミットは強くなると思います。
なので大学サッカーはこれから直接選手・監督とお客さんが関われる施策を多くしていった方がいいのではと思っています。
2.観客同士の距離を近くする
【©法政大学体育会サッカー部】
例えば大学サッカーの会場にそれぞれ違う目的で足を運んでいたAさんとBさんがいたとします。そこでファン同士が関われる施策を大学サッカー側が提供できれば目の前で繰り広げられている大学サッカーという共通の話題とかで話が弾み仲良くなれると思います。その結果、今度AさんとBさんが大学サッカーの試合を観に来るときに試合観戦も動機の1つでもあるけど"友達に会いにいく"という動機が増えるという感じでしょうか。
そして友達に会いに行くという動機が増えることでどのようなメリットがあるかというと、仮に観戦した試合がつまらなくて大学サッカーの評価が下がったとしても、Aさんからすると大学サッカーファンの同士であるBさんへのコミットが強いことは変わらないため、「この前の試合はあまり面白くはなかったけど、またBさんに会いたいから観に行こうかな」というようにファンが逃げにくい状況を作り出せるかもしれません。
要するにお客さんを横でつなげることが重要ということですね。
では具体的にそのお客さん同士で仲良くなってもらう方法としては、先ほど挙げたように客席を区切って物理的に人の距離を近くしたり、試合前後やハーフタイム中に観客の方も参加できる企画を開催して共通の話題を作って話しやすくしてみたり、あとは1日をコーディネートするという話も前回しましたが、大学サッカー観戦後に観客の人が集まってもらう場所を指定してそこでワイワイして仲良くなってもらうとか。あとはせっかくSNSがあるならファン同士が関われる場をSNS上で作ってしまうのもありだと思います。
ある友達が言っていったのが大学サッカー専用の自由に書き込みができるインターネット掲示板のような媒体を作成して、大学サッカーという共通の話題でSNS上で盛り上がる場を提供してみるとか。
そして、この選手・監督とお客さんの距離、お客さん同士の距離を近くする方法として1番効果的なのが選手とお客さんが関われるイベントを開催することだと思っています。ここでいうイベントというのは早慶クラシコの際に行われていたクラシコパークのようなより早慶クラシコを盛り上げるための付加価値として開催されているようなイベントもそうですし、認知・興味の部分で少し触れた法政大が主催するスポーツフェスティバルのようなイベントも当てはまると思います。
例えばスポフェスは法政の学生が対象ですが一般の方も参加してもOKな運動会を企画してしまうとか。あとはファン感謝祭ですね。そこでより選手とお客さんの距離を近くしてコアなファンを増やしより応援してもらうという流れですね。
もつ少し具体的に考えてみましょう。
まずイベントを開催する上で購入型のクラウドファンディングを行いイベントを開催する上での支援を募ります。運動会の時であれば、「法大運動会!スポーツを通して選手とファンサポーターのみなさんの絆をより強くしたい!!」みたいな感じで呼びかけて、
・1万円の支援でスポンサーとして広告出してもいい権利
・500円で特別なくじ引きに参加できる権利
・1,000円の支援で年末に行われるファン感謝祭に参加できる権利
などは面白いかと思います。
ファン感時に使うのであれば、「日頃からお世話になっているファンサポートの皆さんに法大サッカー部からの盛大な恩返し!」みたいな感じで呼びかけて
・3,000円の支援で来年の法政大学の試合を全試合無料で観れる権利
・5,000円の支援で来年の集中応援時にエスコートキッズとして選手たちと同じピッチに立て試合も観戦できる権利
・10,000円で法政大学のイメージビデオを作れる権利
・30,000円でファン感を一緒に計画できる権利
みたいな感じですね。
これらのリターンはあくまで例ではありますが、あとは物販ブースもしっかり作ってそこでグッズといったお土産を買えるようにすれば、買ったらすぐに近くにいる選手にサインを書いてもらえることもできると思いますし、考えれば考えるほどアイデアは出てくるのでいったんこの辺にしておきます。
あとはその大会をするにあって大事だと思うのが、
1.選手側からの一方的な披露ではなくお客さんのニーズに合わせた出し物をすること。
2.積極的に選手がお客さんに関わりにいくこと。
3.お客さん同士を仲良くする施策を行うこと。
みたいなことでしょうか。
それこそ選手+お客さんでチームを組んでサッカーをすることでもいいと思います。そうすればサッカーは団体スポーツなので必然的にコミュニケーションを取らなきゃいけないと思うので心の距離感が近くなりやすいと思います。
このように心の距離感を近くする施策行うことでお互いのコミットが強くなり、リピーターになりやすいのではないかという話でした。
永遠に続く広告
【 】
その伝え方は様々で広告は何も視覚からの情報だけではないということは皆さんも分かっていると思います。そしてリピーターを生むのなら一時的な広告ではなく永遠に続く広告を作る必要があると思います。
その一例として音楽が当てはまりますね。
例えばあなたが久しぶりに有名な楽曲を聴いたら何を思い浮かべますか?ライブに行ったことを想い出す人もいれば主題歌になっているドラマを想い出す人もいるかもしれませんね。そしてその時に「なつかしい!」、「また観たい!」、「また行きたい!」というような"また"という感情が生まれてくるかもしれません。
つまりところ永遠に続く広告とはなつかしさや思い出と繋がっていてリピーターを作る上では重要な要素だと思っています。
それを上手く形にしているのが高校サッカー選手権の応援歌だと思います。そもそも大会歌として「ふり向くな君は美しい」という曲を聴くだけも"高校サッカー"というイメージが湧くと思いますが、毎年、高校サッカー選手権の応援歌として有名なアーティストが素晴らしい曲を歌っていると思います。
その曲を聴くたびに高校サッカーの季節じゃなくても高校サッカーを想い出し、「なつかしいな。また試合を観に行きたいな!」とか「昨年は選手として出場したけど今度はOBとして観に行きたいな!」というように選手権を思い出す人もいると思います。
また、匂い・香りも永遠に続く広告ですよね。例えばキャラメルポップコーンの匂いがした時あなたは映画館を想い出したりしませんか?街中で歩いていてふと思い入れのある香りを嗅いだら、なつかしさと共に「そういえば〇〇に最近行ってないな。久しぶりに足を運ぼうか。」とか「この匂い〇〇君と同じだ!そういえば最近会ってないな。」というように思い出すかもしれません。
これらを大学サッカーに応用するならどうするかと言ったら、例えば高校サッカーの応援歌みたいに「大学サッカー=〇〇」というイメージソングを作ることだと思います。そんな簡単に作れることではないとは思いますが、それこそ一つ前の記事で書いたようにクラウドファンディングのリターンの一つとして曲を作ってくれる人を募ってみるなど方法はあるかと思います。
また、リーグ戦の会場ではすでに試合前後に音楽を流しているのですが、その会場で流している音楽はシーズン前に「今年はどんな曲を流すのか」を考えている人がいて毎年流している曲が違うそうです。そこで個人的に思ったのが、例えば全部で5曲ピックアップするのなら4曲は無作為に最近の流行の曲とかを選ぶのですが、1曲だけいつまで経っても変えない唯一無二の曲を決めて使い続けるとか。
結局のところその音楽を聴いてもらった時に大学サッカーのことを思い出してもらえばいいので、わざわざ新しい曲を作らなくてもある1曲をずっと使い続けてお客さんの記憶に擦り込むことができればと思うわけです。その時に注意が必要なのが、思い出としてすでに他のものと記憶が繋がっているような曲は選択しない方がいいと思います。
また、匂い・香りに関しては屋台や食べ物を試合会場で提供することでしょうか。ポップコーン=映画。ビール=野球・ラグビー観戦みたいな感じで「大学サッカー=〇〇」っていう何かを作れたらベストですよね。
音楽も含めてこれらはあくまでも短期間で構築できるものではないということが前提だと思いますが、少しずつでもいいから取り組んでいくと面白いかなっていう施策を考えてみると、1つの食品に絞って作るといいかと思います。
例えばインカレの試合の前後で屋台を出すことができるのであれば、ケバブ・カレー・たこ焼き etc...というように色々な食品を出すのではなく、「肉フェス」的な感じでイベントを開催して、そこで肉料理だけを販売して大学サッカー=肉みたいなイメージを持ってもらえるように企画するのも面白いかもしれません。
各大学が一品ずつ出店してみてお客さんに投票してもらって順位を決めるみたいな感じだったらそれはそれで楽しそうじゃないですか?
ただあくまでも大学サッカーの試合を観にきてもらうことが目的なので、もちろん肉フェスの後にそのまま試合観戦をしてもらえるように促すのは怠りません。そしてお肉と大学サッカーを繋げること取り組みを繰り返し行うことでお客さんの記憶の中に大学サッカー=肉と染み込んでくれれば、ある日そのお客さんがとあるお店でお肉料理を食べている時に、「そういえば大学サッカーで行われていた肉フェス楽しかったな!今年もまた行きたいな!」というように思ってくれてリピーターになってくれるかもしれません。
このように、とりあえず一時的な広告ではなくずっと続く広告を作ってみるのもいいんじゃない?かという話でした。
最後に
大学サッカーという存在はその興味を持っていない人たちを振り向かせるだけの力を持っていると思います。レベルが高く、おもしろく、人々の記憶に残り、笑顔にする。そんなコンテンツになりうる存在だと思っています。
私が今回を通して書いたことは現段階での私の中での答えです。ただ、時間が経てば考えも変わるし正解だとは一切思っていません。それに人それぞれ思うこと、考えていることは違うと思います。でも個人的に間違いないだろうなと思っていることはその差異を多くの人が持ち合わせて話し合い、行動に移すことができれば、大学サッカーはもっと素晴らしい存在になっていけるということです。
この記事はここで終わりですが大学サッカーはここからがスタートです。この投稿が新たなムーブメントを起こすキッカケになることを祈っています。
最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。
【著者プロフィール】
■所属:ブラウブリッツ秋田
■背番号:10
■ポジション:MF
■1997年9月4日生まれ
■170cm/68kg
■経歴 FC PROUD-柏レイソルU-18-法政大学
■2019年に天皇杯で東京ヴェルディやガンバ大阪を破った法政大学より新加入のミッドフィルダー。クラブからの期待も高く背番号10番を背負い、攻撃陣を牽引する。
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