早大競走部 【連載】東京箱根間往復大学駅伝(箱根)前特集『UPSET』 第11回 山口智規
前回大会2区では早稲田記録を29年ぶりに更新、11月には1万メートルで27分台を記録した早大のエース・山口智規(スポ3=福島・学法石川)。そんな実力者も、今季は理想と現実とのギャップに苦しんだようだった。改めてエースとしての覚悟を決め、臨む箱根路を前に、山口智は何を語るのかーー。
※この取材は12月12日にオンラインで行われたものです。
思うようにいかなかったトラックシーズン
日本選手権1万で21位に終わり、肩を落とす山口智 【早稲田スポーツ新聞会】
トラックシーズンは、日本選手権の5000メートル、1万メートルで入賞することを目標としていました。また、タイムとしては両方学生記録を目標としていたのですが、なかなかかみ合わず、苦しいシーズンになったなと思います。
――昨年度の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)で結果を残し、エースとして過ごした1年間でした
自分の立場も立場ということで、『チームのために』という思いがこの1年間でさらに強くなったと思っています。全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の予選会や関東インカレ(関東学生対校選手権)などの、必ず主力としての役割を果たさなければいけないというところでは、若干自分の思っていたようなレースとはかけ離れてしまいました。しかし、最低限チームに貢献することはできたかなと思っていたので、その点は良かったです。
――エースとして日々練習する中で、意識していたことを教えてください
やはり、エースと呼んでもらうからには後ろ指を指されるような生活や練習というのはしてはいけないと思っています。さらに、それが自分の競技のためにもなると思うので、チームの雰囲気を締めるという意識を常に持っていました。特に質の高い練習では、チームの他の選手に前を譲るようなことはしないように意識していました。
――箱根後の春先のレースでは、疲労を感じていながらも好成績を残されていました
箱根が終わってからは、箱根に向けた練習の貯めがあった点で、クロカン(クロスカントリー日本選手権)や早大競技会の1万メートルで好成績を残すことができました。しかし、その分反動が大きくて。体調不良や故障など、若干ほころびが出てしまった点で、シーズンインがうまくいきませんでした。その悪い点を引きずってしまったのが、前半シーズンにうまくいかなかった要因の1つだったと思います。
――苦しいシーズンの中でではありましたが、全日本予選会では日本人トップという結果でした
チームに迷惑はかけられないと思っていました。そこは、悪いなりにも必ず貢献しようと思っていましたし、全日本の予選会まで少しスパンはあったので、必ず結果を残そうと準備を進めていました。
――今季のトラックシーズンで得た収穫と課題を教えてください
昨年とんとん拍子でうまくいってしまった分、今年はしっかり向き合わないと結果は出ないだろうと思っていたので、自分を見つめ直してはいました。ですが、欲が出て、全てのレースで結果を残したい、タイムも出したいという気持ちが先行してしまって。そのせいで準備がうまくできず、疲労がたまり、気持ちも疲れるし‥という点でうまくサイクルされなかったのが、シーズンを通して悪くなってしまった要因だったと思っています。しかし、調子が悪い中でも、悪いなりに練習やトレーニングを継続して積めていました。身体が丈夫になり、スタミナがついた点は評価しても良いと思います。
――トラックレースでのご自身の強みをお聞かせください
ラストのキレというのは、高校時代も先生から言われていました。その点は、気持ちで負けないというところを念頭に置いてレースに臨むようにしています。ですが、それまでのレース展開がうまくはまらないとラストまで勝負できませんし、そこまでに諦めてしまうとラスト勝負に参加することもできません。気持ちの部分が強いのは、自分の持ち味なのかなと思います。
――夏合宿の練習消化率はいかがですか
夏はかなり充実した期間を送ることができました。8月、9月の走行距離でいうと昨年より合計300キロ近く走りこむことができました。その中でも質の高い練習を抜けずにできていたので、かなり成長している部分ではあると思います。
――前半シーズンを振り返って点数をつけるとしたら100点中何点でしょうか
前半シーズンは思うような結果が出なかったですし、2つの駅伝も外してしまったという点から考えて、50点くらいだと思います。
駅伝シーズンも結果が振るわず
全日本の2区を走る山口智 【早稲田スポーツ新聞会】
夏合宿が終わって、The Road of WASEDAを1本挟んで出雲駅伝という流れだったのですが、正直夏の疲労が抜けていなくて。出雲駅伝で1区を任せてもらって、僕の滑り出しが良ければかなりいい成績を狙えていた分、そこで外してしまったのは本当に悔しいですし、申し訳ない気持ちになりました。
――差し支えなければ、1区に配置された意図などをお聞かせください
近年は、1区と2区で勝負が決まってしまうような駅伝になっているので、区間賞争いを自身でしっかり行い、2区の大志(伊藤大志駅伝主将、スポ4=長野・佐久長聖)さんで良い流れを作るという役割を与えられていました。しかし、その役割とは程遠い結果となってしまったので、その点は申し訳ないなと思いました。
――出雲では苦しい走りになったと思います。全日本までの短い間でどのように立て直しを図ったのでしょうか
出雲の悪かった点を自分だけではどうしようもなかったので、トレーナーさんに相談して身体の状況を見てもらったり、栄養士さんに相談をしたりしてすぐに改善することができました。加えて夏の取り組みも悪いものではなかったと思うので、その点は自信を持って、休むところは休みながら全日本に合わせていきました。
――全日本の走りを改めて振り返っていかがですか
展開的に難しいレースにはなったのですが、つなぎとして最低限の役割しかできなかったです。エースと呼ばれるからには、攻めた走りをしなければいけないところではありました。ですが、出雲の1本を外しての(区間5位の)レースだったので、少しほっとした部分はありました。
――今季2つの駅伝を走った中で得た収穫を教えてください
夏にかなり走りこんで、自分の動きというものもロングよりに変わってきました。その点は距離が伸びるにつれて、日に日に良くなっているような感覚ではあります。かなり箱根に向けてはいい収穫になったのではないかなと思っています。
――全日本直後のNCG(NITTAIDAI Challenge Games)では1万メートルで27分台を出されました
来年のトラックシーズンを見据えて、全日本が終わったタイミングで5000メートルか1万メートルを1本走りたいという話をしていました。あまり感覚も良くない中だったので、これくらいは出るだろうという走りにはなってしまいました。1つ結果として残すことができたのは安心材料になったと思います。
――さらに調整が合えば、結果は出ていたのでしょうか
出し切ることはしていませんでした。前の留学生に勝負をしろと言ったら、きっと勝負はできていたと思います。ですが、ベストパフォーマンスではないなと思っています。
――5000メートルではなく、1万メートルを選択した意図などがあればお聞かせください
今は長い距離の方が自信があったということと、箱根を考えると5000メートルより1万メートルの方が重要になってくるということの2点を考慮して、1万メートルを選択しました。
「やはり自分の中では2区しかない」
昨年度の箱根2区で力走した山口智 【早稲田スポーツ新聞会】
1年生の頃から本当にお世話になってきた先輩ですし、大志さんは本当にチームに尽くしてくれていた部分が大きいように思います。僕は、自分勝手に練習するようなタイプではあります。自分勝手に練習できていたのは、大志さんがチームを引っ張ってくれていたからなので、その点に関して最後は結果で恩返ししたいという気持ちはかなり強くあります。
――そんな山口智選手も、次期駅伝主将に任命されました。その経緯などをお聞かせください
夏に学年で話し合った時に、みんなが僕を選んでくれたというのが経緯にはなります。僕も肩書きはキャプテンと置いてもらってはいますが、同期がみんなしっかりしているので。僕だけがキャプテンというよりも、全員キャプテンくらいの感覚でやってくれると思っています。
――箱根についてお伺いします。最近の調子はいかがですか
かなり状態が良くて。それこそ、日体大の1万メートルを走った時からかなり感覚も良くなったり、夏の取り組みも現在成果として出てきている部分があるので、自信を持って箱根で勝負できるのではないかなと思っています。
――他メディアでは走りたい区間として3区を挙げられていました
走りたい区間と言われれば、正直どこでも良いです。希望区間を聞かれたときに自分のタイプに合うのは、3区や6区などの自分のスピードを活かせる区間だとは思っています。希望区間を聞かれたときは3区と言っているものの、やはり自分の中では2区しかないと思っています。2区では65分台のレースをしないと、他大のエースと勝負できないと思っているので、常に(そのタイムを)目指してトレーニングするようにしています。
――具体的にどのようなトレーニングをされているのでしょうか
昨年より実践的な練習が多くなっています。23キロにプラスしてかなり起伏もあってスタミナが必要となる区間ではあるので、昨年よりスタミナ練習という部分でも実践的な質の良い練習という部分でも両立できています。65分台を狙っていきたいと明言してもいいくらいの練習ができているのではないかなと思います。
――箱根が近づいてきている中で、部の雰囲気はいかがですか
16人のメンバーを選ぶのにもやはり迷うような層の厚さや盛り上がりを見せていますし、正直まだ10人誰がどこを走るかも予想できないような良い状況にあります。かなり競争も激しいですし、練習もできている印象があります。自分たちもどこまで3強と呼ばれるチームと勝負できるかが楽しみではあります。
――他大学で意識している選手を教えてください
あまり意識はしないようにしています。過去の自分と比べて、過去の自分より強くなっているかというところを常に意識して練習をするようにしています。ですがやはり、自分より強い選手には勝ちたいです。加えて、それこそ黒田君(朝日、青学大)は昨年の3大駅伝で負けていますし、佐藤圭汰君(駒大)は、シニアで日の丸を背負っていますし。この部分では2人が僕らの学年を象徴する2人なのかなと思っているので、この2人を超えていきたい気持ちは強いです。
――チームに期待することをお聞かせください
やはり今年は3大駅伝3位以内を目標としてやってきた中で、出雲、全日本と届かない結果になってしまいました。箱根は必ず3位以内を目指してレースをしていきたいです。1年間を通して、ここに向けて準備をしてくれていますし、泥臭い練習もかなり突き詰めてやってきてくれています。一般で入学して入ってきてくれている選手もいますし、かなり苦労している選手も多くいますし。特に4年生にそういった選手が多いですし、かなり早大の雰囲気を変えてくれた学年ではあるので、最後に有終の美を飾れるように、僕たちも頑張りたいと思います。
――現在のチームで注目している選手をお聞かせください
やはり、ダブル山口と呼ばれているので、もう1人の山口(竣平、スポ1=長野・佐久長聖)に注目してほしいです。山口竣もかなりいい練習ができている思うので、どの区間で走っても区間上位で来てくれるのではないかなと期待はしています。
――改めて、ご自身のロードでの走りの強みをお聞かせください
しっかり状況判断して、冷静に走れるところが自身の強みだと感じています。その一方で、役割として爆発力が求められていると思うので、(箱根では)野生心を見せて、チームの流れを変えられる走りができればいいなと思います。
――最後に、箱根への意気込みをお願いします
チームとしては3強を崩して3位以内を目指すという目標を立ててこの1年間取り組んでいるので、最後は必ず3位以内でゴールし、笑って終わりたいです。個人としては、自分の役割を果たして、みんなが笑って終われるような結果に貢献できるよう頑張りたいです。
――ありがとうございました!
【早稲田スポーツ新聞会】
2003(平15)年4月13日生まれ。172センチ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部3年。部の中では特に、髙尾啓太朗(商2=千葉・佐倉)選手や大和田春(スポ1=高知追手前)選手とよくご飯に行くという山口智選手。山口智選手が部屋に押しかけて、寮でも仲良く過ごしているそうです!
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