闇練習から生まれた、選手主体の堀越高サッカー部ボトムアップ指導法=佐藤実監督インタビュー
「不満分子のような扱い」となっていた高校時代の軋轢
うーん……(笑)。私たちは下級生とも仲が良くて、試合に出る彼らを応援する気持ちはあったので、表立って対立することはありませんでした。ただ、3年生が個別に活動していることを後輩たちは知っていましたし、みんなから実力を認められている3年生の選手が公式戦で起用されないことに対して不満を隠しきれなかった部分はあり、チームの中で不満分子のような扱いにはなっていたと思います。
後輩が、私たちに感化されて「監督が正しいのか、先輩が正しいのか」となってしまったのは、かわいそうでした。私たちも生意気で「もう少し、こうやったら、良くなりませんか?」と監督に意見を言っていたのですが、当時は、先生が生徒に意見を言われるなんて、考えられない時代。先生も生徒も自分が正しいと思って、どっちにもエネルギーがあって、互いに引かない。だから、コミュニケーションが取れなくなっていった面は、ありました。
互いの背景を理解しないままで、私たちの言葉も足りなかったし、伝え方も悪かったと思います。選手の意見を聞いてあげるスタッフがいたり、監督をフォローするコーチがいたりすれば良かったのでしょうが、当時は難しかったと思います。
――今は指導者の難しさも分かる、というわけですね。でも、自分が指導者になったときには選手主体で……という思いを持っていましたよね? 堀越ですぐにはボトムアップを採用しなかった理由は?
まず、指導することを求められている状況だったので、やるべきことを整理してコーチングするということをやっていました。ただ、今になって思うと、私のコーチングによって(本来は引き出すべき)選手の判断を奪っていたように思います。
仰る通り、元々、選手主体でやってほしい気持ちはあって、合宿などでは最終日は選手に任せていたのですが、2012年3月の招待大会のときに、全員が躍動して、勝ちたい気持ちを全員がすごく表現してくれる試合があって「やっぱり、選手は(指示を受ける)駒じゃない。このやり方を、もっと形にしてあげる方法はないか」と思い、ボトムアップ方式を提唱していた畑先生に話を聞きに行って、どうオーガナイズ(組織化)すべきかを考えて、始めました。
――かつて、暗闇の中でやっていた、選手主体で自主的なチーム作りを、今は監督の立場でサポートしている状況ですね。
2020年に高校選手権の全国大会に29年ぶりに出場した際、同級生のお母さんから手紙をいただきました。「当時、みんながもどかしい1年間を過ごしているのを見ていて、ずっとモヤモヤした気持ちがあったけど、それが解消しました」というようなメッセージでした。全国大会に行けて、ベスト8になれたことも大きかったですけど、当時の我々を陰で見ていてくれた保護者の方に、そんなふうに評価していただけたことが、私にとっては一番の感動でした。やってきて良かったという気持ちになりました。
今は、ボトムアップという指導法が理論や体系として注目されていると感じますが、多分、堀越で私たちの世代に関わった人たちは「あれを今まさに、やっているんだな」という感覚ではないかと思います。高校3年生の私たちが求めていたものができるように、今の高校生のためにやってあげたい気持ちがあります。人の目を盗んで暗闇でやるのではなく、ちゃんとテレビカメラの前でもやれるように(笑)。
前回全国4強を経験したチーム、守備強化で再挑戦
全国高校選手権では、前回の4強超えを狙いにいく 【平野貴也】
前回の準決勝の近江高校(滋賀県)との試合を糧に、今年はどうやって良い守備をするかを一つのテーマに取り組んできました。良い守備、カウンター、セットプレー。従来の堀越だと、ボールポゼッションの印象があると思いますけど、そこはベースとして持っているので、足りなかったところをどうやって積み重ねるかという部分を強調して、夏から12月のプリンスリーグ関東2部プレーオフまで負けなしでした。
――昨年が全国ベスト4。どんな期待を持って臨みますか?
国立にもう1回行くためにどうするか、そんなに甘くないと彼らも知っています。その中でビジョンを描いてやってきました。怖かったのは、力を出し切れずに終わること。昨年とは別のチームだけど、相関関係で(当時のメンバーが残っているのに……など)比較されるので。
だから、東京都を突破することが一番苦しいと思っていましたが、それをクリアできたのは大きかったと思います。プレッシャーに彼らが打ち勝った。全国大会は、どこまでしたたかにやりきれるか。不安よりも楽しみが大きいです。