7度目の挑戦でプロテスト合格 ティーチングプロからの狭き門を突破した古家翔香の情熱

北村収

「目標にたどり着くのに長くかかった分、ゴルフに長く関わりたい」

 実は今季、古家はステップ・アップ・ツアーにほぼフル参戦している。2023年にティーチングA級のライセンスを取得し、ティーチングプロ競技会で1位を獲得。その結果トーナメントの出場資格を得られるQT出場権を得て、ステップ・アップ・ツアーに出場する権利を得ていたのだ。4月の「フンドーキンレディース」で3位に入るなど活躍。年間を通じて平均ストロークで6位に入る成績を収めており、トーナメントプロとしてやっていける」という自信を深めたという。

 そして、もう一つ得たものがある。それは目標とする選手を見つけたことだ。古家が憧れの人として挙げたのは、今季ステップ・アップ・ツアーを主戦場としながらもレジェンズツアーで優勝を果たした47歳の酒井千絵。「勝手に尊敬している先輩です。今年ステップ・アップ・ツアーで初めて酒井千絵さんを知りました」。

「レギュラーツアーやレジェンズツアーに出場され、試合後も練習を欠かさない。その姿を見て、プロゴルファーの理想像を感じました。プレースタイルも素晴らしく、ベテランなのに飛ばします。プロゴルファーとはこういう人なんだ、と心から思いました」

 多くの若いプロは目標とする選手にメジャー王者やスター選手を挙げる中、なぜ酒井千絵を選んだのか。その問いに古家はこう答える。「昔だったらタイガー・ウッズや宮里藍さんと答えていたかもしれません(笑)。でも今は、ゴルフにずっと携わっていたいという思いが強いんです。選手としての活動が終わったら競技委員などをやらせていただきたいです」。

 プロテスト合格にたどり着くまでの長い時間が、古家の価値観を大きく変えた。「10代の頃には考えられなかった視点で今は生きています。ゴルファーにはいろいろな輝き方があることを教わりました。酒井千絵さんは、そんな私の中で、本当に憧れの存在です」。

古家の憧れの存在である酒井千絵プロ 【Photo by Yoshimasa Nakano/JLPGA via Getty Images】

「誰かに勇気を与えられるゴルファーに」──古家翔香の目指す未来

 来季の古家は、ステップ・アップ・ツアーを主戦場に戦う予定だ。目標を尋ねると、「複数回優勝」と力強く答えた。そして最後に「将来どんなゴルファーになりたいか」という定番の質問を投げかけると、古家は少し考え、「ゴルフですか? それとも人としてですか?」と切り返してきた。筆者が「両方で」と答えると、彼女はこう語った。

「自分のショットの強みはブレないこと、曲がらないことだと思っています。そこをもっと磨いていきたいですね。そして、自分のプレーで誰か一人でも笑顔になれるなら、それが一番嬉しい。私も多くの方に助けられてきました。だからこそ、自分も誰かに勇気を与えられる存在になりたいんです」

 ゴルファーとしての目標に加え、人としての在り方を常に意識する古家。その姿に、筆者はPGAツアーのスター、ザンダー・シャウフェレを思い出した。下部ツアーを経て現在世界ランキング2位まで上り詰めたシャウフェレは、結婚前に「誰かを気遣いながら高いレベルでゴルフをするなんて想像ができなかった」と語っていたが、結婚を機にさらに強くなった。シャウフェレは現在、そのプレーの素晴らしさだけではなく、常に周囲への気遣いを行う人間性の素晴らしさでも有名だ。

 人を思いやる気持ちが強くなるほどゴルフのプレーでも結果を出してきたシャウフェレの姿は古家にも通じるものがある。「誰かに勇気を与えられる存在になりたい」という古家が、いつかシャウフェレのようにトップへと駆け上がる日を、心から願わずにはいられない。

練習中にインタビューに応じてくれた古家。笑顔が絶えない取材となった。 【北村収】

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

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