坂本の4連覇なるか、男子は新時代の王者が決まる 五輪プレシーズンの全日本選手権展望

沢田聡子

男子は鍵山・佐藤を三浦・山本が追う展開か

総合力の高さに磨きがかかる鍵山(右)、今季実力を発揮している佐藤(左) 【写真:ロイター/アフロ】

 男子シングルは、昨季連覇を果たした宇野昌磨が引退。昨年まで12年間にわたり、羽生結弦と宇野のいずれかが全日本の金メダルをとり続けてきた。新時代の幕開けとなる今年、頂点に立つのは誰か、注目される。

 最も優勝に近いのは、昨季の銀メダリスト・鍵山優真だろう。鍵山は、今まで全日本で3つの銅メダル、1つの銀メダルを獲得してきた。国際大会でも、2022年北京五輪でシングル・団体の銀メダル、世界選手権で3つの銀メダルを獲得している。その鍵山が今大会で狙うのは、金メダルに他ならない。

 今季の鍵山は、GPシリーズで2連勝してファイナルに進出。ファイナルのフリーでは、課題だった4回転フリップを成功させた。フリーのみの得点では優勝したイリア・マリニン(アメリカ)を上回り、銀メダルを獲得している。だがファイナルのメダリスト会見での鍵山は、「今回、またいろいろな新しい課題が出て」と自らを冷静に分析している。

「ジャンプの安定感はもちろんですし、ジャンプ以外のステップやスピンでのレベルが全然とれなかったという部分もあったので。そのあたりをしっかりと、トレーニングを積んでいきたいと思います。練習から120%の出来でやっていけるように、とにかく頑張って練習したいです」(鍵山)

 鍵山とともにGPファイナルに進出した佐藤駿は、GPシリーズを通して好調を保った。2戦目の中国杯ではGP初優勝を果たし、ファイナルでは銅メダルを獲得。ジュニア時代からの武器である4回転ルッツを今季は高い確率で成功させており、4回転フリップにも挑んでいる。振付を担当するギヨーム・シゼロン氏とともに磨いてきた表現力が豊かになり、演技構成点に反映されるようになったのも大きい。

 ファイナルのメダリスト会見で、佐藤は「帰ってからすぐに今大会で駄目だった部分、特にショートプログラムの部分をたくさん練習していって」と全日本に向けた意気込みを語っている。

「そして去年、みんなで本当にすごい全日本選手権をすることができたので。今シーズンもみんなでいい演技をして、すごい全日本をできるように頑張っていきたいなと思っています」(佐藤)

 昨季の最終グループで好演技を披露して“神試合”を作り上げた男子の中には、GPシリーズで力を出し切れなかった選手もいるが、この全日本にしっかりと照準を合わせてくるだろう。

 その筆頭が、三浦佳生だ。9月のロンバルディア杯から、過去に肉離れを起こした左太ももに痛みを感じており、その影響がGPシリーズまで及んだ。初戦のスケートアメリカでは3位に入り、ファイナル進出をかけて臨んだNHK杯ではショートで初の100点超えを果たしたもののフリーで崩れ、総合6位という結果に。ファイナル進出を逃したものの、その後練習の強度を上げていることをSNSで明らかにしている。全日本では“爆速”のスケーティングから入る豪快なジャンプを決め、今季前半の悔しさを晴らしてほしい。

 昨季の全日本で3位に入り初めて表彰台に立った山本草太は、今季GPシリーズでは2戦とも4位で、惜しくもメダル獲得はならなかった。しかしジャンプが安定してくれば、持ち前の滑らかなスケーティングが映える演技を披露するはずだ。過去に大きな怪我を乗り越えてきた強さは、全日本でも生きるだろう。

 一昨季の全日本で銅メダルを獲得した友野一希は、今季GPシリーズは怪我の影響で苦戦した。初戦・フランス杯の約3週間前に右股関節を痛め、ジャンプの練習ができない時期があったという。フランス杯5位・フィンランド大会6位という成績だったが、2戦目を終えた時点で、怪我は回復に向かっていると明らかにした。マックスの練習を積んで全日本に向かうという友野には、ベテランらしい巧みな試合運びを期待したい。

 ほかにも、GPフランス杯2位の島田高志郎をはじめ、優れたスケーターが顔をそろえる日本男子。今大会でも、高いレベルで競い合う好勝負がみられそうだ。

 ペアでは、2023年世界選手権金メダリストの三浦璃来/木原龍一が、コロナ禍やアクシデント・怪我のため出場できずにいた全日本に5年ぶりに臨む。成長著しい長岡柚奈/森口澄士、ジュニアGPファイナルに進出した清水咲衣/本田ルーカス剛史にも注目したい。

 アイスダンスは、若手同士の戦いになる。GPNHK杯9位の吉田唄菜/森田真沙也に、同大会10位の田中梓沙/西山真瑚がどこまで迫れるか。

 来季のミラノ五輪も見据えて戦う日本トップのスケーター達が、大阪の地でみせる渾身の滑りを、しっかりと見届けたい。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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