野球エリート街道から外れた岸潤一郎 新たな仲間と過ごした2年間の独立リーグ生活で得たものとは
【写真は共同】
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「この1年、楽しかった!」
勝つためには、岸に早くうまくなってもらわなくてはいけない。2人の利害関係は一致していた。岸も平間の見立て通り、驚くべき成長を見せる。シーズンが開幕し、試合をこなしていくうちに失策の数はどんどん少なくなっていった。前期が終わるころになると、取材中のこちらに向かって「良くなってきたでしょ?」と、逆に尋ねてくることが増えている。
「まあもう、なんて言うんですか。こう『マシになってんで!』が聞きたくて(笑)」
見せたいのは守備の技術だけではなかった。そんな付け焼刃を見せたところで、スカウトは獲りたいと思ってくれない。本当に見てもらいたかったのは、機敏さ。瞬発力。
「1歩目を俊敏に動いたり、攻守交代のスピードもそうやし。アピールになると思うことはすべてやる! みたいな。何か意識してやるとかじゃなくて、もう勝手に体が動くように。言うたらチェンジになれば、ベンチから一番に飛び出してショートのポジションに就くとか。それだけでもスカウトの目に『あっ!』って一瞬でも留まってくれれば儲けもんやし。別に捕る、捕らんなんて技術練習を重ねていくだけなんで。『あいつ、捕れんかったけど1歩目速いな』とか『あれ追いついて、ああやって肩見せれんねや』とか、そういったところ。球史さんがよく言うのは、『スカウトが見に来てる試合で飛んでこーへんかったら意味ないから。シートノックで、より(必死に)やっとけ!』みたいな。逆のこと言ったら『シートノックが一番大事』くらいの気持ちでやってましたから。球史さんもそういうとこ分かってくれてるんで」
二遊間を組んだ平間のことを、ライバルだとは考えていなかった。自分と隼人と2人で、このチームを引っ張ろう! その気持ちはシーズンが後半になるにつれて大きくなっていく。
「もう2人でかき回して、どうにか優勝してっていう。だって優勝せんと、CS(チャンピオンシップ)、グラチャンまでアピールできひんやん! っていう。そっからもう思ってたんで。まあ、ライバルじゃないですけど、何が一番しっくりくるんですかね? 高め合える仲間? ライバル意識とかは、僕は別になかったし」
三塁手の球斗も合わせ、この3人で内野を守り抜く。3人が3人そろって「球史さんの弟子」のような気持ちでいる。
2019年の徳島は、前期リーグ戦で優勝し、早々とチャンピオンシップ出場を決めた。後期優勝の愛媛と対戦したチャンピオンシップを2勝1敗で獲り、2年ぶり5度目となる年間総合優勝に輝く。さらにグランドチャンピオンシップでBCリーグ王者、栃木ゴールデンブレーブスを破り、2年ぶり3度目の独立リーグ日本一の座に輝いた。
主将として徳島を引っ張った平間が言う。
「ずっと岸と2人でチーム引っ張ってきて。ずっと二遊間組んで来て。信頼関係もあるし、お互いを尊敬してるんで。で、実際、後期ぐらいから自分も注目されだして、岸も注目されだして。そうなってきたら『優勝して2人でNPB行けたら最高やな!』っていう感じだったので」
歓喜のスパークリング・ファイトでずぶ濡れになった岸が、笑顔で言った。
「この1年、楽しかった!」
自分のできることは精いっぱいやった。これなら、たとえ結果がどうなろうと納得できる。そんな充実感に満たされている。
ドラフト会議は10月17日。運命の瞬間は、独立リーグ日本一の歓喜に酔いしれた夜の2日後に迫っていた。