高校野球で選手の意見を聞く機会はある? いびつな二軍選手と球団の関係から考える

中村計 松坂典洋

【写真:岡沢克郎/アフロ】

 日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える。甲子園から「丸刈り」が消える日――。なぜ髪型を統一するのか、なぜ体罰はなくならないのか、なぜ自分の意見を言えないのか。

 そのキーワードは「人権」だった。人権の世紀と言われる今、どこまでが許され、どこまでが許されないのか高校野球で多くのヒット作を持つ中村計氏が、元球児の弁護士・松坂典洋氏に聞いた。日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える知的エンターテインメント。

 『高校野球と人権』(著:中村計、松坂典洋)から一部抜粋して公開します。

日本ハム二軍の染髪禁止は極めて歪(いびつ)

中村 ところで先日、日本ハムが二軍選手の染髪を全面的に禁止すると発表したんです。そんなことをする前にやることがあるだろうという、けっこう父性的と言いますか、高校野球のノリに近いなと思いまして。そんなことを入団してから言われても困るとは言えないのでしょうか。

松坂 雇用契約ならわかる気はするんですよね。つまり、正社員です。営業部員に「取引先へのイメージがあるから、髪の毛を染めないでくださいね」と言うのなら。ただ、プロ野球の契約は、いちおう業務委託契約という形なんです。つまり、個人事業主です。

中村 業務委託をわかりやすく説明すると?

松坂 雇用契約の場合、その人は会社の指揮監督下に入れられて、原則、命令には従わなければなりません。それに対して業務委託は注文に応えさえすれば、あとは自分の裁量で自由に仕事ができます。前者は従属的な関係、後者は対等な関係と言い換えられると思います。

中村 契約社員は?

松坂 契約社員も雇用関係ですよ。ただ、その期間が限定されているというだけで。正社員と契約社員だと待遇が違うところもありますが、国はそこも同じになるよう働き方改革の中で法制度を整えたところなんです。

中村 僕もフリーランスのライターなので出版社から業務委託を受けている身であると言えば、そうですよね。

松坂 言い方を換えれば、出入り業者です。にもかかわらず、その出入りしている出版社の編集者から茶髪はやめなさいと言われたら「え?」となりますよね。

中村 なりますね。なんであなたに言われないといけないんですか、と。

松坂 プロ野球選手の場合、業務委託とはいえ、選手側がかなり不利な契約形態になっているんです。なので、髪型を制限されても選手は何も言えないんです。組織と個人の力関係が高校野球の世界と変わらない気がします。

中村 特に二軍の場合は、そうですよね。育成機関という意識が強い。ファーム(農場)と呼ぶくらいですから。

松坂 育ててあげる、という感じが透けて見えますよね。もちろんファンやスポンサーあってのプロ野球なので一定程度、身だしなみなどについて何か要求されることはあると思うんです。でも髪型まで制限するのなら、実態に合わせて二軍だけでも雇用契約にすべきなのではないかと思います。

 プロ野球の二軍の選手は契約上、個人事業主として扱われているのに全寮制で、門限も決められていて、その上、髪型にまで口を出される。普通の会社だったら嫌なら会社を移ればいいのですが、プロ野球の世界は移籍の自由も認められていません。プロ野球の組織と二軍選手の関係は客観的に見るととても歪(いびつ)に映るんですよね。

中村 日本ハムの二軍は、方針的にも「学校」の色合いが強いと思います。

松坂 実態は学校と同じですよね。教育機関でなければ説明できないくらいのことをしていますから。染髪に関して一軍はOKだけど二軍はNGというのも、ある意味、先輩はいいけど一年生はダメみたいな部活のノリですよね。

中村 メジャーの下部組織などは、稼ぎたかったら這い上がってこいという、放任主義のようなイメージがあります。なので、それと比べると手厚いとも言えるわけですが。

松坂 もちろん球団は親心というか、よかれと思ってやっているのでしょうが、実態と契約内容が合っていないように思えます。

 ただ、いつも思うのですが、日本ハムの二軍のケースも高校野球も何かを変えるときになぜ個人の意見を吸い上げようとしないんでしょうか。個人よりも組織の考えを優先させているように映ってしまって仕方ないんです。

中村 高校野球のルール改正のときでもそうですよね。早見和真さんという桐蔭学園の野球部出身の小説家がいるんです。その早見さんにインタビューしたとき、しきりに「なぜ選手たちに選ばせないんだ」ということを言っていたんです。暑い時期に暑い球場でやることも、投球数も。自分で判断できる年齢なのに、と。

 温暖化が進み、近年、ドームで大会を開催すればいいという意見も出始めたし、投げ過ぎ問題に関してもずっと言われ続けています。でも、どれも大人たちが考えて、大人たちが決めるんですよね。早見さんに話を聞いたのは2000年夏なのですが、当時の僕にはピンとこなかったんです。そんなことに意味があるのかな? と思っていました。時間がかかるだけじゃないかな、と。ただ、今は心底、共感できます。もちろん選手の言う通りにしなければいけないとは思いません。でも、少なくとも自分の考えを表明する権利はあるわけですもんね。

松坂 就業規則や校則は会社や学校側が一方的につくれることになっていますが、それを変更するときやルール的なものを変えるときに意見を聞くのは当たり前のことだと思いますよ。少なくともNPB(日本野球機構)は何かルールを変更するときは、必ず日本プロ野球選手会と協議していますよね。だから高校野球の規則を変更するならば当然、選手たちもそこに参画すべきだと思います。

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