高校野球と人権

高校野球ユニ&道具の細かい規程 根底には記者も縛られている感覚も…

中村計 松坂典洋

【写真:岡沢克郎/アフロ】

 日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える。甲子園から「丸刈り」が消える日――。なぜ髪型を統一するのか、なぜ体罰はなくならないのか、なぜ自分の意見を言えないのか。

 そのキーワードは「人権」だった。人権の世紀と言われる今、どこまでが許され、どこまでが許されないのか高校野球で多くのヒット作を持つ中村計氏が、元球児の弁護士・松坂典洋氏に聞いた。日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える知的エンターテインメント。

 『高校野球と人権』(著:中村計、松坂典洋)から一部抜粋して公開します。

ヤンキースのドレスコードはイメージ戦略

中村 先ほど、丸刈りの合理性のうちの一つとして「清潔感を保つため」という理由が考えられるという話でした。メジャーリーグのヤンキースには「長髪禁止」「顎ひげ禁止」等のドレスコードがあり、このレベルのルールなら清潔感につながるというのはよくわかるんです。でも、「丸刈り=清潔感」という言い分は少々無理がないですか。

松坂 ぎりぎりのところでしょうね。清潔感を保ちたいというのならスポーツ刈り程度でも十分なわけですから。世間の物差しからいけば、耳や襟にかからない程度でも十分だと思います。

中村 ヤンキースのドレスコードも伝統と言えば伝統ですよね。

松坂 「常に紳士たれ」という教えが引き継がれている巨人にも似たようなドレスコードがありますが、プロチームにはスポンサーやファンにイメージを売っている側面もあるので、単純に伝統という理由だけではないと思います。おそらく、契約内容にも入っているでしょうし、スポーツビジネスという解釈も加わるので非合理とは言えないでしょうね。

 丸刈りほど極端な制限ではないですし、この程度の規則なら身だしなみの範疇とも言えると思います。

中村 そう考えると、高校野球の丸刈りも「高校球児らしさ」というイメージを売っているようにも見えてきますね。

松坂 高野連は丸刈りを規定しているわけではないのですが、高野連の思想のようなものが髪型に反映されている気はします。というのも、高野連の「高校野球用具の使用制限」という項目を読むとユニフォームや道具のルールがとても細かく定められているんです。スパイクやバッティング手袋は白か黒の一色のみとか。その過度な制限が丸刈りにもつながっているような気がするんです。学校側も主催者に少しでも気に入られたいという意識が働くと思うので、知らず知らずのうちに思想が近くなっていくじゃないですか。

中村 ユニフォームも上は赤、下は白みたいなツートンのものは禁止なんです。ヘルメットも黒、紺、白の三色に限定されていて、しかも単一カラーのものしか使えないんです。だからスカイブルーや赤い帽子をかぶっているチームはヘルメットの色選びに迷うんです。選択肢としては紺か白ですよね。どちらを選ぶにせよ、せっかくのトータルデザインが損なわれてしまうんです。根底には「派手=悪」といいますか、とにかく華美にならないようにという高校野球的な美学があるような気がします。

 ただ、僕がいちばん不思議なのはサングラスの着用が許可制だということなんです。目の保護用具なわけですから、許可制というのも何か変だなと思ってしまうんです。それもフレームは黒、紺、グレーなどの地味なものに限定されていて、メーカー名も大きさも厳しく制限されています。

1/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント