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三笘と遠藤がプレミアで初対峙 指揮官の修正力がリバプールに逆転勝利をもたらす

森昌利

遠藤の投入で中盤の底に芯が通りリードを守り切った

それまでリーグ戦では終了間際の出場に限られていた遠藤だが、この試合では後半32分に送り込まれ、リバプールの守りを安定させた 【Photo by Alex Davidson/Getty Images】

 無論、この逆転劇は偶然ではなかった。

 前半は運動量でブライトンがリバプールをしのいでいた。相手より足が動けば、若手が中心とはいえ技術が高い選手が揃っている三笘のチームは善戦する。この試合は負けたが、現時点で10戦4勝4分2敗、7位トットナムと並ぶ勝ち点16で8位。4位チェルシーとの勝ち点差は2と、まだまだ欧州チャンピオンズリーグ出場権争いにも加われる位置にいるのは豊富な運動量のおかげだ。

 しかし後半、サブのジョーンズとルイスが起爆剤となって、リバプールのスプリント数は前半の58から89に、そしてインテンシブ・ランは1,323から1,694に急増した。対するブライトンは76と1,460。前半よりさらに運動量を上げたが、爆発的に数字を伸ばしたリバプールが後半を完全に支配して、結果も出した。

 こういうふうに前半はダメでも後半になってしっかり軌道修正できるチームは強い。

 アレックス・ファーガソン監督時代のマンチェスター・ユナイテッドがそうだった。前半に失点して、今日はダメだろうというパフォーマンスだったのに、後半、まるで違うチームが出現する。

 試合直後のインタビューで、スロット監督は前半の劣勢について「戦術ではなくインテンシティの問題だった」と話した。前半は「ボールを簡単に失い、そのボールを取り戻すのにも時間がかかった」と言った。その根本には「走り負けていたことがある」として、「ブライトンのようなクオリティが高いチームに対し、走らなければ結果は出せない」と続けた。

 ハーフタイムにこの“走り負けていた”問題点をしっかりと指摘して解消したスロット監督は、今季、中盤の核に据えているマック・アリスター、ソボスライというMF2人も足が止まっていると判断すると、あっさり代えた。

 そして交代出場した2人が走りまくってさらに前半との違いを明確に作り、逆転勝ちを収めた。こんなふうに監督の指示で結果が出ると、チームに「監督の言う通りにすれば勝利が転がり込んでくる」という信念が芽生え、定着する。

 またこの試合では遠藤航の使い方も効いていた。

 これまでのリーグ戦では、後半40分以降での起用に限定されていた。しかしこの試合でスロット監督は後半32分の段階で遠藤を投入した。

 2-1と逆転したが、ブライトン攻撃陣の押し上げが止まらず、リバプールの最終ラインが少し浮き足立っていた。そこでスロット監督はセンターフォーワードのダルウィン・ヌニェスに代えて、遠藤を使った。このメリハリのある交代でリバプールの中盤の底に芯が通り、その後しっかりブライトンの攻撃を抑えて、1点のリードを守り切った。

 このように、ジョーンズ、ディアスの投入で「もっと走れ」という意思をチームに伝え、遠藤の投入で「1点を守るぞ」というメッセージを出した。スロット監督の交代には「こうするぞ」という明確なビジョンがある。

遠藤と同じピッチに立った三笘は「嬉しい気持ちがあった」

先制点に関与するなど存在感を見せた三笘だが、チームは悔しい逆転負け。遠藤については「素晴らしいプレーをしていました」と称えた 【写真:REX/アフロ】

 3日前に行われた同一カードのリーグ杯で遠藤は先発したが、イエローカードをもらっていたことで早めの交代となり、ベンチスタートとなった三笘が投入される前にベンチに引っ込んでしまって、日本代表の両雄が同じピッチに並び立つことはなかった。

 しかしこの試合では、10分ではあったが、三笘と遠藤が対峙した。これはプレミアリーグを長く取材している筆者にとっては非常に特別な10分間だった。

 アンフィールドという世界でも有数と言っていいスタジアムのピッチの上で、日本人選手が敵味方に別れて戦う。もちろん、遠藤が取材に応じてくれていれば、ベンチスタートは「十分ではない」という思いも明かしてくれただろう。しかしプレミアリーグの真剣勝負で相まみえた2人を見て、日本のフットボールもここまできたかという感慨に浸った。

 もちろん負け試合でこういう質問をしても、“それは関係ない”と一蹴されそうだったが、三笘に「遠藤と対峙した感想は?」と尋ねた。

 すると三笘は「そこより自分たちのプレーへの反省のほうが大きい」という言葉に続いて、「嬉しい気持ちがあった」と言ってくれた。この言葉を聞き、筆者の胸が熱くなった。そして、鋭い出足でブライトンのパスをカットし、浮き足立っていた試合終盤のリバプールの守りを立て直した遠藤のパフォーマンスに対して、「素晴らしいプレーをしていました」と話し、敵としての代表主将の動きをしっかり見ていたことを明かした。

 欧州に戦いの場を移した日本人選手のなかでも、特に日本人との相性が悪いと言われてきたフィジカルで激しいプレミアリーグの試合で、こうして三笘と遠藤が並び立った姿を現場で見た感動は本当に格別だった。

 今後も日本から距離があって時差も大きく、言葉も文化も違うイングランドで精いっぱい自分を表現して、実力を示すことができるようになってきた日本人選手の活躍を追って、その素晴らしさと難しさのほんの一部でも日本の読者に伝えることができればと思った、第10節のリバプール対ブライトン戦だった。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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